20 残り91日 勇者、水路で迷う
勇者アキヒコが王城の地下水路に入ってから、すでに3日目に入っていた。
ロンディーニャ姫の体調も心配されたが、思いのほか巣食っているスライムが多く、捜索は捗らなかった。
スライムが多発したことにより、兵士たちは撤退した。
つまり、広い水路内をほぼアキヒコと魔術師ペコだけで捜索しているのだ。
「……スライム避けの香料を普段撒いているって言っていたけど、効いていないんじゃないか?」
アキヒコは、すでに点火の魔術に習熟していた。自然に習熟するほど、連発していたのだ。
「そうみたいね……おかしいな。その割には、水路は綺麗だけど……あっ、ひょっとして……」
目の前に、さらに一体のスライムが水路から上がった。
ペコは投擲した。投げた物がスライムにあたり、飲み込まれる。
「何を投げたんだ?」
「いつも持ち歩いている、コオロギの黒焼き」
「どうして、そんなものを持ち歩いているんだ?」
「非常食よ。ほらっ……スライムが何もしてこない」
「それがどうかしたのか?」
ペコがスライムに近づくが、スライムはコオロギの黒焼きを取り込んだまま動かない。
「スライムがいると水路が汚れるって思われていたけど……実際には、スライムはとっても雑食で、ゴミを全部食べてくれるってことじゃないの? 排水も流される水路に、ネズミもいないんだもの」
「……スライム避けの香料はどうなった?」
「効果なかったんじゃない? 宮廷魔術師の仕事だもの。そんなものよ」
ペコは鼻で笑った。
「宮廷魔術師って、ペコの親だろ?」
「魔術については、意見があわないのよ」
「僕は……宮廷魔術師から、ペコを押し付けられたのか……」
「いい拾い物でしょ」
ペコが自分の頬を指差しながら振り向いた。
「ああ……そうだな」
「でも、これで捜索が進みそうね。スライムがいても、全部倒す必要はないんだもの」
「そうだな」
水路の角を曲がったところで、スライムは道幅一杯に広がっていた。
勇者アキヒコは、何度目かもわからない点火の魔術を使用した。
※
さらに水路の捜索が続く。
「探し物を見つける魔法は、もう使えないのかい?」
水路を探索している理由は、ペコの魔術しか根拠がない。勇者アキヒコは、魔術が有効に作用していることをそもそも認めたくなかったのでこれまで頼らなかったが、流石に疲れてきた。
「……本気で聞いているの?」
ペコが真面目な表情で見つめてきたので、アキヒコはなにか間違ったことを尋ねたのかと不安になった。
「ああ。便利な魔法なんだろう? ここまで絞り込んだんだから、その魔法を定期的に使えば、まっすぐに辿りつけるだろう?」
「あの魔術は、地図がないと意味がないの。アキヒコは、それを理解しているから地図を作りながら歩いているんだと思っていた」
「地図を作っているのは、迷わないためと無駄足を避けるためだと言っただろう」
「姫さまが心配なら、地図作っている間にどんどん進めばいいのに」
ペコが非難がましく見つめてきた。
アキヒコは、地図を作りながら進むことが間違いだとは思っていない。そもそも、水路の地図がないのが悪い。
もっとも、戦時を考えたら、地図など無い方がいいだろう。
水路の修繕など、数十年もしたことがないらしい。
だが、ロンディーニャがさらわれたのに、のんびり進んでいるように見えてしまっているのも事実なのだろう。
「ペコが言っているのは……ロンディーニャ姫が僕の地図がある場所にいるはずがないってことだろう? でも、姫がもし移動しているなら、地図を作ってある場所に移動しているかもしれない。もしそうなら、魔術で見つけ出せる」
「そうかもね。試してみる?」
「ああ。頼む」
「了解。マルコ」
ペコが魔術を使う。ペコはごく短い言葉で魔術を使用できる。長く詠唱するときはただの気分らしいと、だんだんアキヒコも理解していた。
結局、ロンディーニャは地図がある場所にはいなかった。




