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2 残り100日 勇者、降臨す

 アキヒコは、落雷と共に地上に降り立った。

 元の世界と変わらない姿だった。新婚旅行への出発食後に自動車事故を起こしてしまった。その時の服装だと自覚した。


「勇者よ。よく来たんじゃもん」


 アキヒコが見たのは、床一面に描かれた魔法陣と、取り囲むローブの者たちだった。加えて、アキヒコを見降ろすように正面の玉座に腰掛ける、王らしい男がいた。

 その男が、真っ先に口を開いた。アキヒコが問い返す。


「僕は勇者アキヒコということでいいのですか?」

「もちろんじゃもん。勇者アキヒコ、我が国に勇者が遣わされることは、女神様からのご託宣により告げられていたんじゃもん。これから南方、魔物が多く住む魔の山に魔王が出現するらしいんじゃもん。勇者よ。我が国は長く平穏を享受して来たんじゃもん。わが国に、魔王に立ち向かう力はないんじゃもん。援助はおしまないんじゃもん。是非とも、魔王を打ち滅ぼして欲しいんじゃもん」


 王は恰幅がよく、気弱な人物に見えた。

 アキヒコを見て怯えているようにも見える。勇者を見て怯えることはないはずだ。


「王様……僕は勇者としてこの世界に遣わされました。力の及ぶ限り、励みたいと思います」


 力の及ぶ限りというより、実際には時間の許す限りだろうとは、アキヒコだけが知ることである。

 アキヒコが勇者を選択した時、妻となったばかりの女性ハルヒは魔王を選択した。

 南方に出現するという魔王が、ハルヒではないことを祈った。


「素晴らしいんじゃもん。さすが勇者なんじゃもん。今日は勇者が我が国に召喚された、祝宴を予定しているんじゃもん。まずは英気を養って欲しいんじゃもん……何事なの? 勇者の前なんじゃもん」


 王が叱責したのは、アキヒコが召喚された玉座の間に、兵士が駆け込んで来たからだ。


「申し上げます。魔の山に黒い雷が落ちたと、天文所の監視員からの報告でございます」

「なんと……宮廷魔法使い、黒い雷とはなんじゃもん?」


 王は、アキヒコが召喚された魔法陣の周囲に立つ、ローブ姿の一人に声をかけた。

 ローブの者は、王に対して膝をついて答える。


「雷は光でございます。黒い雷などありえません」

「……うーん……でも、確認されているんじゃもん。先程、勇者が稲妻と共に召喚されたんじゃもん。関係があるの?」


 王の視線は勇者アキヒコに向いていた。


「推測ですが……」

「よいのじゃもん。勇者の言うことなら、参考にはなろうもん」

「魔王の降臨かと」

「あっー……そっかぁー。勇者が来るって託宣が本当だったんじゃもん……魔王も来るよねー……むしろ、魔王が来るから、勇者じゃなきゃいけないってことかぁー」


 丸い国王は、王冠の上から頭を描いた。

 勇者アキヒコは、魔王の正体までは言わなかった。さすがに憶測が過ぎる。


「では陛下、魔王が本当に召喚されたかどうか、僕に調査をお命じ下さい」

「うん。頼むよー。君じゃなきゃ……無理かどうかもわからないんじゃもん。でも、まだこの国の様子も土地勘もないだろうから、案内をつけるんじゃもん。出発は明日にするといいのじゃもん」

「承知しました」


 アキヒコは、現世ではサラリーマンの営業職だった。相手に合わせるのは得意だ。


「では、姫に案内させるんじゃもん。ロンディーニャ、よろしく頼むんじゃもん」

「はーい」


 平和な国なのだろう。王族もおおらかだ。

 呼び出されたロンディーニャ姫は、長い桃色のスカートをふわりと広げて腰を折り、にこやかに近づいて来た。

 元の世界なら未成年ではないかという年齢で、青い髪に白い肌が印象的な、柔らかそうな少女だった。


「さあ、勇者様、今日はお疲れでしょう。英気を養って下さいね」


 柔らかな笑顔に、勇者アキヒコも曖昧に笑みを浮かべた。

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