19 残り92日 魔王、召喚する
魔王ハルヒは、建設中の魔王城の中央にいた。
周囲の壁から組み上げていたので、中央部分はまだ広場のままだ。
「昨日思ったのだけど……多分、召喚できるわ」
ハルヒが言ったのは、人間の町を攻めるためには魔物の軍隊が必要だと言う配下の魔物たちの指摘に対して、軍隊としては土塊のゴーレムか死者がいいという魔女の進言に対するものだった。
魔の山を探したが、ゴーレムの作成も死者の軍隊も、どちらも扱える魔物はいなかった。天然で生まれたゾンビや骨だけのスケルトンはいたが、生み出す能力を持っている魔物はいなかった。
どこから探してくるかという話で、結果的に煮詰まってしまった。
その夜、ハルヒは思いついたのだ。
「どうして、そのようなことができるのです?」
魔女が驚いて、普段フードに隠している醜い顔を晒した。イボだらけの顔は、不快でしかなかった。
「魔王だから……かしらね。考えていたら浮かんできたのよ。ブラックドラゴンだって召喚したのよ。あの時は魔女から魔法陣を教えてもらったけど……多分、方法は同じだわ。ただし……多分1日に一人が限界ね」
「ネクロマンサーにしろゴーレムマスターにしろ、伝説の魔物です。世界が変わるほどの……それを呼び出せるのが、魔王様ということですか……」
魔女の言葉が震えている。恐ろしさのためか、期待しているのかはわからない。
城の建築に集まっていた魔物たちも、手を休めてハルヒの周囲に集まってきていた。
「どっちがいいかしらね」
「ならばまず、ゴーレムマスターでしょう。魔物の死骸は、別の魔物が食べてしまいますから、魔の山にはほとんど死体がありません」
「そうね……ダークエルフたちの死体も、ミスリル銀を抽出するために燃やしてしまったものね。ゴーレムマスターの召喚ね……」
ハルヒは額に意識を集中させた。
脳裏に魔法陣と文字が浮かぶ。
浮かんだものを、地面に焼き付けるようにイメージする。
魔物たちが見物している位置まで含み、地面に巨大な魔法陣が刻み込まれた。
「……凄まじい魔法陣ですね」
「上にだれか乗っていてもいいの?」
「これに魔力を注ぐ必要がありますので……魔王様が上にいるのはは仕方ないかと。他の者は魔法陣から降りるのじゃ。マスタークラスの召喚じゃぞ」
魔女のしわがれ声に、どよめきながら魔物たちが魔法陣から降りていく。
魔女の言うマスタークラスがなんなのかも知りたかったが、それ以上にハルヒは召喚というものをやってみたくて仕方がなかった。
「魔力を注ぐって、水晶玉にやったのと同じよね?」
「ああ……わしの水晶玉」
「まだ、代わりの物を探してなかったわね……あの水晶玉が壊れなければ、そもそもミスリル銀も必要なかったし……反省はあとでやるわ。さあ、出てきなさい。ゴーレムマスター!」
ハルヒが魔力を注ぐイメージをしながら、魔法陣に意識を向ける。
魔法陣全体が暗い輝きを放ち、中央から、影が立ち上がった。
頭部、首、肉体と続く。
人間の造形に似ていた。
全身を発達した筋肉が覆い、三つの頭部を持ち、三対の腕を持つ異形の存在だった。
「……うん。人間じゃなかったわ。魔物よりね」
人間にも奇形と呼ばれる存在はいる。だが、ゴーレムマスターは違う。意味があってその姿をしているのだと、ハルヒには思えた。
召喚されたゴーレムマスターは、ハルヒに向かって膝をついた。
「魔王様に、我が忠誠を」
「会った途端に、どうして私が魔王だと判断したのかしら?」
ハルヒが方眉を吊り上げる。魔王ハルヒの表情と声音に、ゴーレムマスターのみならず居合わせた全ての魔物が戦慄した。




