18 残り92日 勇者、スライムを燃やす
100日間の物語、9日目です。
サブタイトルの書き方を変えました。後で見て、何をしているのか少しは解るようにしようと思いまして…見直すのが大変なのです。
勇者アキヒコは、昨日から王城の地下水路に潜っていた。
魔術師ペコが魔術で導き出した場所が、王城の地下水路だったのだ。
その魔術がどんなものかは誰にも知らされていないが、勇者アキヒコは知っていた。
「これで見つからなければ、ロンディーニャ姫が僕の子どもを身ごもっていることなんてないって、はっきりするな」
「あるいは、私の魔術が間違いか……」
勇者アキヒコに同行しているのは、魔術師ペコだけだった。
王城の地下水路は広く、兵士たちと手分けをすることになった。
兵士たちが姫を見つけることもあるが、ロンディーニャ姫が一人で水路に潜る必要はないはずなので、誰かが連れ込んだのは間違いない。
兵士が見つけた場合は、場所だけ確認して勇者アキヒコに報告することになっている。
「兵士の仕事は戦うことだろうに……どうして、僕が強いっていう前提なんだろう」
勇者アキヒコは、地下水路に潜る時の装備品として、明かりの他に紙とペンを求めた。
地下水路の地図が存在しなかったため、マッピングしながら進むためだ。
「勇者だからじゃないですか?」
「僕が戦うところなんて……ペコしか見ていないじゃないか」
「オークの群れを一人で退治できる兵士なんていませんよ。アキヒコは強い。それは間違いないですよ」
ペコは言いながら、アキヒコが書いている地図を不思議そうに覗き込んだ。
「姫を助ければもう水路には用がないんだから、記録する必要なんてありますか?」
「道に迷わない魔術があるのか?」
「それは……人生に迷わないって意味でいいですか?」
「違う。歩いたところを記憶するって意味だ」
ペコは少し考えた。
「記憶力をあげる魔術はありますけど、何について記憶できるのか、その時によります。使ってみないとわかりません。今使えば……水路にできた沁みの数だけをしっかりと覚えるかもしれません」
「微妙な魔法だなあ」
魔術師ペコの使う魔術は微妙なもみのが多い。アキヒコはそう考えたが、ペコがいないと困るのも事実だ。
「おやっ……魔物がいた。珍しいですね。王都の地下に住み着くなんて」
「魔物? どこだい?」
アキヒコがペコを守るように前に出る。
幅の広い水路の脇に、管理用のほぼ同じ幅の通路がある。
水路側から、なにかが通路に上がった。
アキヒコが明かりを上にあげる。油と火を利用した道具、カンテラである。
光を受けて通路で反射した。何かがいる。
「ああ……剣では意味がないです。スライムですから」
「強い魔物かい?」
「水辺のスライムは、水の中に引き摺り込んで殺してから食料にします。だから……水が濁るから、住みつかないようにスライムが苦手な香料を撒いているはずなんですが……」
「その香料、今は持っていないのか?」
「スライムがいるとは思っていませんから、持っていませんよ」
アキヒコとペコが相談しているあいだに、スライムがふるふると揺れ、体からなにかを伸ばした。
アキヒコは剣で払う。
「魔術は?」
「魔物を倒せるような魔術は、私は使えません」
「あれがあっただろう。火をつける奴……水が好きな奴なら、火は苦手じゃないか?」
「小さな種火でどうすればいいんですか? 勇者がやってみますか?」
「ああ……そうだね。試してみるか。確か……チャッカマン」
勇者アキヒコは、明かりと剣を持つ両手を前に突き出し、以前ペコが火を灯すのに使用した魔術の文句を唱えた。
アキヒコが魔術を発する、通路にいたスライムが巨大な炎に包み込まれた。
「えっ?」
「なんです? これ」
「いや……火がついた」
「放火魔ですか。いえ……維持してください。スライムが燃え尽きるまで」
「いや、そんな無茶な……」
長時間維持はできないと思われたが、一度火がつくと、炎は簡単に存在し続けた。
アキヒコは、魔術で生じた巨大な火でスライムを包み続ける。
しばらくして、スライムが消滅した。火を消す。
「僕……魔術を使えるんだな」
「やっぱり、勇者ってすごいんですね」
ペコが落ちた紙を拾い上げる。少しだけ真面目な表情で、アキヒコが作成した地図を見つめていた。




