17 残り93日 魔王、起案する
魔王ハルヒは、この世界の文字が読めなかった。そもそも文字を扱う魔物がほとんどいないし、言葉はわかるので不自由はない。
魔法の水盆を作ろうとして図形と文字を思い浮かべたことがあった。魔女が教えてくれた通りの言葉をイメージすると、必要な図形と文字が脳裏に浮かんだのだ。ただ、その時にも文字としては全く読むことができなかったので、この世界の文字が理解できないのではないかという予感はしていた。
正式に判明したのは、平原の街カバデールに対して宣戦布告の手紙を出そうとして、草案を書いた時だ。
配下の魔女が、ハルヒの書いた草案を一文字も読めなかったのだ。
これで、読めなかったのがドレス兎や森のクマさんであれば、文字が読めないのだと笑い飛ばせるが、読めなかったのが魔女であり、魔女が本を読んでいるところをハルヒは見ている。
ハルヒが知っている文字は、この世界では意味を持たないことが明らかになった。
結果として、ハルヒは魔女の申し出により口述筆記を試みた。
ただし、文面を口頭で告げるという高度な方法は魔女の能力的にできず、ハルヒが概要を伝え、魔女がハルヒの意図を汲んで書いた文書を自分で読み上げる形になった。
その内容では、魔王ハルヒ率いる魔王の軍勢が、3日後に平原の街カバディールに向けて進撃するというものだ。
「3日後とは急ですな」
魔女の書いた布告文を読み、赤鬼族のノエルが呟いた。
「平原の街は遠いの?」
「いえ。3日あれば、徒歩の軍隊でもちょうどつける位置でしょう」
「へぇ。狙ったわけじゃないけど、ちょうどよかったわ。どうして、急だと思うの? 人間の街なんて、簡単に落とせるんじゃない?」
「簡単に落とせるなら、魔の山でくすぶっていないって話ですぜ」
ドレス兎のコーデがノエルの持つ文書を覗き込み、すぐに目を背けた。
文字を読めなかったのだと、ハルヒは仲間を見つけた喜びを味わった。
「今までは魔王がいなかったんでしょう?」
「それもありますが……魔の山の魔物たちは、人間の軍隊相手には部が悪いんです。人間は遠くに飛ばせる武器を使います。人間は柔らかいはずなのに、戦うやつだけ体が硬いんです」
ハルヒは、コーデに言われてノエルを見た。剛毛に覆われているが、肌がむき出しである。
「……あんたたち、鎧は着ないの?」
「鎧って何ですか?」
尋ねたのは、赤鬼族のノエルだ。
「体を覆う防具よ」
「着ていますよ」
ドレス兎が、自分のチョッキを誇らしげに見せた。
「まあ、それのことなら、持っています」
ノエルが腹の毛を引っ張ったので、鎧というのが自毛のことだと勘違いしたのだと知れる。
「あー……うん。人間より強いといっても、軍隊の相手はやはり、軍隊が必要ね。でも……こういうのが群れても、意味はないわ」
ハルヒはドレス兎のコーデを指差した。ただ服を着た兎が群れをなしても、人間にとってはある意味では脅威かもしれないが、武器を持って整然と並んだ軍隊に歯が立つとは思えなかった。
「魔王様……魔王様が即席の軍隊を持つのであれば、従えるべき者がいます」
ハルヒの横で、魔女がひょひょひょと笑いながら言った。
「私が従えるべき者? そいつらは、魔の山にいるの?」
「私は知りませんが……いるかもしれないし、いないかもしれません」
「いなければ、呼び出せばいいってことね。どんな奴なの?」
「死者を従えるネクロマンサーか、土塊から兵を作り出すゴーレムマスターが適任でしょう」
「それ……人間じゃないの?」
ハルヒは不思議に思ったが、この世界では人間の枠ではないらしい。
8日目はここまでとせていただきます。
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