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160 残り21日 勇者、デートをする

 従魔を解放したことを魔術師ペコがののしり、勇者アキヒコはクモコを守り、毒ドワーフギンタが取りなした。

 ペコは腹を立てて宿の部屋を一人で占拠し、翌日も出てこなかった。


 ペコの機嫌取りをギンタに任せ、勇者アキヒコはクモコを伴ってラーファの町に繰り出した。

 クモコは相変わらず美しく、人間たちより人間らしく見えた。


「クモコ、その花は食えるのかい?」


 クモコが立ち止まり、派手やかに咲く花を商っている店の前で立ち止まっていた。


「私だって、ずっと食べ物のことを考えているわけじゃないわ」


 クモコが拗ねたように言うが、口元がほころんでいる。まるでハルヒだ。アキヒコはクモコに体をあえて近づけながら、視線を合わせた。


「そうだな……ごめん。この花が気に入ったのかい?」

「私ではなく、ペコが好きそうだと思ってね」

「ペコが花を? そんな風には見えないけどな……花とかそういうものには、興味なさそうじゃないか?」


「そう? 服や持ち物に、刺繍がしてあるわよ。決まってこの花なのよね。薬効もあるから……ペコが好きなのは、そのためかもしれないけど」


 クモコが手を伸ばす。アキヒコは、その店の同じ花を買い占めた。

 クモコは両手に花束を抱えた。


「クモコは優しいんだな。ペコにあれだけ悪口を言われたのに……ペコのことをよく見ている」

「ペコは才能があるわ。きっと……美味しいスイーツを作れる」

「やっぱり……食べ物じゃないか」


 クモコがペコを気遣うのは、美味しいスイーツを食べたいかららしい。アキヒコが指摘すると、クモコははにかんで笑った。


「アキヒコ、今日はこれからどうするの?」


 言いながら、クモコは両手に一杯の花を器用にまとめて片手でもてるようにした。

 アキヒコにプランはなかった。それからのんびりと店を周り、調理に使えそうな品をクモコが購入するのに付き合った。


「クモコが、従魔の首輪を持っているだろう。クモコは従えない。こうして……ずっと僕と一緒にいてくれるんだ。信用している。でも……魔の山にいるハルヒを倒さなくちゃいけない。空を跳べる魔物を従えなくちゃ……クモコ、協力してくれるかい?」


 クモコは、購入したコーンをアキヒコに手渡した。


「あの首輪は……苦しいの。とても……苦しかったの……」

「……ごめん。苦しめるつもりはなかったんだ。特に……クモコを苦しめる奴なんて許さない。僕がハルヒを……ごめん。クモコを守るよ」


 ペコがクモコを罵ってから、クモコをハルヒと呼ぶことができなくなっていた。思わずハルヒと呼んでしまい、アキヒコは訂正した。


「アキヒコ……ありがとう。でも……アキヒコには、ほかに守らないとけいない人がいるわ」

「ロンディーニャ姫のことかい? うん……でも、クモコのことも守る。だって……僕は勇者だ」

「……もし、私が元の大蜘蛛に戻っても?」

「……あっ……」


 アキヒコは、出会ったばかりの巨大な蜘蛛を思い出す。だが、その時も首輪で従っているクモコは、愛嬌があり、ギンタは気に入っていた。アキヒコは、少し戸惑った後、しっかりと頷いた。


「……うん。約束する」

「嬉しいわね。アキヒコ……これはなに?」


 クモコは、購入した珍しい乾燥果物をアキヒコに渡した。尋ねたのは果物についてではない。

 果物を渡した時、アキヒコの左手薬指にはめられた指輪に触れていた。


「……結婚指輪なんだ。僕が以前いた世界の風習で……結婚した男女の絆を示す。ハルヒは……僕の目の前で引きちぎって捨てたけど……僕は……まだ捨てられない。クモコ……欲しいかい?」


 アキヒコは荷物を置き、結婚指輪を外す。


「いいの? 大事なものなんでしょう? 私にくれたりして……」

「クモコならいい。ハルヒだって……許してくれる」

「……姫さまにはいいの?」


「僕には……今のクモコ以上の女性はいない」

「……ありがとう」


 クモコの目から、涙が伝い落ちた。クモコはアキヒコから受け取った指輪を、器用に横に割った。素の幅の半分の程度の指輪が二つできた。


「私とアキヒコとの絆……駄目?」


 いいながら、クモコが左手の薬指に指輪をはめる。


「駄目じゃない……僕も嬉しいよ、クモコ」


 アキヒコが、半分になった指輪を左手の薬指に戻す。


「姫とペコは許してくれないわ、きっと」

「わかりゃしないよ。ずっと指輪はしていんだ。僕が全てを捧げるのは……ハルヒ……ごめん、クモコだけだよ」


「アキヒコ……もし魔の山に行くのなら、ラーファの元ゴミ捨て場に、地下帝国への入り口があるわ。地下帝国から、洞窟が魔の山の下まで繋がっているの」


 クモコは突然言った。アキヒコのことを本気で支援しようとしているのだと、アキヒコは嬉しくなった。


「どうして……そんなことを知っているんだい?」

「私は……クモコだもの。以前、住んでいたわ」

「……そうか」


「アキヒコ……あれ、美味しそうね。スイーツの参考になるかも」

「ああ。クレープみたいだな。よし、ちょっと買ってくる。荷物を見ていてくれ」

「うん」


 クモコの返事を聴きながら、アキヒコは小麦粉をこねて伸ばして焼いた食事を買う列に並んだ。

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