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158 残り22日 勇者、惚れ直す

 勇者アキヒコ一向は、翌日も再び冒険者組合に厨房を借りに向かった。

 毒ドワーフのギンタが名付けた『クモコの最終進化』により、魔王に近づくためのスイーツ作りが劇的に捗り、おそらく古代の文献に載っているものより美味しくできたのではないかと思える出来になった。


 再び厨房に来たのは、スイーツに完成はない。研究し続けることこそが必要なのだというクモコの言葉に触発されたからである。

 厨房を借りる許可は降りた。

 だが、それ以上にざわめいていた。


「事件でもあったのかい?」


 筋骨たくましい男の冒険者に尋ねると、男はアキヒコを見て弱いと判断したのか、笑いながら言った。


「お前みたいなひょろひょろの奴は、冒険者っていっても関係のないことだ。あんたが冒険者だとしてだがな。町の北側に、ブラックドラゴンの子どもが出たらしい」


 冒険者たちは、討伐に出るかどうかで盛り上がっていたのだ。子どもとはいえ、ドラゴンを討伐したとなれば有名になるし、死骸は高く売れる。


「アキヒコ……」


 ギンタは心配そうに声をかけた。勇者アキヒコは、ギンタとペコを振り返って笑った。


「僕は以前、ブラックドラゴンに2度も殺されそうになった。でも幼体なら……怖くはないよ」

「まずはスイーツを完成……失礼、完成はしないんだったわね。昨日の続きを作って、先に進めましょうよ。町の冒険者に倒される程度のドラゴンなら、従えても意味なんてないでしょうから」


 魔術師ペコがまとめ、まずは4人で厨房に向かった。


 ※


 テングサを一晩水に晒したため、お湯で煮立ててゼリーを作った。


「こんなに沸騰させるの?」


 ぐらぐらと茹で上がる鍋に、ペコが心配そうに覗く。


「ええ。硬さはどのぐらい?」


 鍋に挿し水をしながら、クモコが尋ねた。


「調整できるの?」

「水分量でね」


 クモコが手際よく沸騰を調整している。ペコに指示して果物を刻ませ、アキヒコとギンタにいくつもの鍋を用意させた。

 沸騰したお湯を鍋に小分けし、牛乳や果物を、分量を変えて入れていく。


「あとは冷やすのね? 氷結のバットで……」

「アキヒコがやると凍りついちゃうわ。ペコが魔力を流して」

「はい」

「クモコが作っているのはなんだ?」


 アキヒコが覗き込むと、クモコは器に入った黒い流体をかき混ぜていた。


「黒蜜よ。アキヒコ……いえ、ご主人様」

「クモコ」

「なあに?」


「アキヒコでいい」

「旦那様でなくて?」


 クモコが笑いながら尋ね、アキヒコが真っ赤になった。


「クモコ! アキヒコには、ロンディーニャ姫って……アキヒコ、なに泣いているのよ!」


 ペコの怒声が飛ぶ。ペコが怒っている間に、クモコは各種寒天が冷えて固まったのを確認し、四人分の皿に切り分けた。


「さあ……蜜も何種類か用意したから、試食してみましょう」

「うむ。ペコ……アキヒコの首から手を離せ。クモコが旦那様と呼んだところで、メイドが主人を呼ぶようなものじゃろう」


 ギンタはすでにテーブルに付き、皿に盛られた彩り豊かな寒天デザートに目を奪われていた。


「わ、わかっているわよ。ただ……アキヒコの態度が問題なのよ。クモコ……一応確認しておくけど……あなた、生理とかないわよね」

「あるわよ、普通に。あっ……卵を沢山……産む必要があるし……」

「た、卵……そ、そうよね。ああ……驚いた」


 ペコは言いながら、テーブルにつく。アキヒコもようやく解放された。


「美味いな。わしは……この酒が入った蜜が特にいい」

「ちょっと、ギンタ、一人でずるいしゃない。なにこれ……さっぱりして、口の中で蕩ける。それなのに甘くて……女神様が歩くと、こんな足跡が残るのかしら……」

「……ああ。美味い。これなら、魔王もびっくりだろう」


 アキヒコがクモコを見ると、クモコだけが難しい顔をしていた。


「お店でも出せる味だと思う」

「ああ。そうだな」

「でも……繁盛店にはできないわ。メニューの端っこに乗っていてもいいけど、メインにはなれない」


「そう? クモコ、理想が高すぎるんじゃない?」

「もう一工夫欲しいわね。それがなんなのか……私にもわからない。何度も試作しましょうか」

「そうね……でも、魔王の心臓と悪魔の囁きも改良しなくちゃ」


 クモコの呟きに、ペコが応じる。だが、アキヒコは首を振った。


「かなり時間が経った。まだ居るなら……誰にも討伐されていないなら……ブラックドラゴンの幼体を捕まえに行きたい。またブラックドラゴンに出くわした時、幼体を従えていれば切り抜けられるだろう」

「……そうね。クモコは続けていてもいいわ。もう、クモコ無しでお菓子を作るなんて、考えられないもの」


 ペコの言葉に、クモコは笑って答えた。


「ありがとう。でも……私は、アキヒコと一緒に行くわ」

「クモコ、ありがとう」

「どうして泣くの? アキヒコ、今日は泣いてばかりじゃない」


 クモコは席を立った。


「ああ……おかしいな」


 アキヒコの目に、クモコが完全にハルヒと重なって見えていた。

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