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156 残り23日 勇者、クモコの覚醒を知る

 勇者アキヒコたちは、再び冒険者組合の厨房を借りた。

 魔術師ペコがカステラを焼いた。


「……うん。まあまあじゃない?」

「ただのクッキーだな」

「ただのって……言い方ってもんがあるでしょ。私は、こんなサクサクしたお菓子は食べたことがないですけど」


 感想を言うアキヒコに、ペコがじとっとした目を向けた。


「照りもいいのう」

「そうでしょ。卵の卵黄を塗ったのよ」

「ほうほう」

「……クッキーだな。カステラじゃなかったのか?」


「しょうがないでしょう。姫のレシピには、ほかにバターとチーズがどうしても必要なのよ。魔法を使わずに水を固めるって、どういう仕掛けなの? 匂い付けのバニラも品切れなんて……どうすればいいのよ」


 ペコが逆上した。


「おや……クモコ、どこに行っていたんじゃ?」


 アキヒコは気づかなかったが、クモコが外に出ていたらしい。

 自分から戻ってきた。勝手な行動は注意しなければならないところだが、アキヒコが動く前に、ペコが飛び出していた。


「こ、これ……どこで見つけたの?」

「……もらった」


 クモコが相変わらず辿々しく答えた。

 クモコが抱えてきた大きな籠に、大きなチーズの塊だけでなく、ヨーグルト、カカオ豆、バニラの実などの希少な食材が入っていたのだ。


「だ、誰から? まだ、近くにいるの?」


 ペコが質問を重ねるが、クモコは首を傾げる。意味がわかっていないのだろう。

 アキヒコが覗き込むと、クモコが少し笑った。アキヒコは、見慣れたクモコに、何故かとても懐かしい思いが込み上げてきた。


「アキヒコ、このカカオ豆っていうのが結構重要みたいなのよ。よく洗って、細かく砕いて」

「わかった。任せてくれ」


 アキヒコは、カカオ豆を知っていた。不思議と以前の世界と同じ名前だ。

 ただ、現物を見たのは初めてだった。とにかく、桶に入れて水を張った。

 じゃぶじゃぶと洗うと、水が濁るので、水を捨てた。


「もういいかな」

「そうじゃな」


 何もしていなかったギンタが同意する。砕こうとしたところで、クモコが割り込んできた。


「クモコ、どうした?」

「まだよ」


 いつもより、流暢にクモコが返した。アキヒコが砕こうとしていたカカオ豆を奪い、さらに水をかける。再び水が濁る。


「あっ……そうか……」


 一度では汚れが落ちきっていなかったのだ。


「さすがクモコじゃ」


 ギンタが誇らしげに笑った。ギンタとクモコの関係に何かあったのだろうかとアキヒコが心配しているうちに、クモコは何度も洗い直し、最後に水が濁らなくなったところで、アキヒコに渡した。


「もういいのか?」


 クモコが頷く。

 アキヒコは、クモコに渡されたカカオ豆を砕くために、金属の器にあけた。木の棒で砕く。


「ペコ、砕いた。これでいいか?」

「……多分、そんなものじゃない?」


 ペコもよくわからないようだ。クモコがまたもアキヒコから砕いた豆を奪った。木の棒を取り、器に触れた。木の棒を立て、回すように動かし始めた。


「おお……豆の破片が粉になっていくのう……」


 ギンタが驚きの声をあげた。

 アキヒコが覗き込むと、クモコが持っていた棒を渡した。


「僕がやっていいのか?」

「……ご主人様……」

「う、うん。任せて」


 アキヒコが棒を受け取り、クモコを真似て回す。

 金属のボウルなのに、まるですり鉢のように豆が潰れていく。

 臭いが立ち始めた。


「あっ、そうか……チョコレートか……」


 アキヒコは、カカオ豆がチョコレートの原料だと思い出した。

 アキヒコが砕いている豆がかなり細かくなったところで、クモコが砂糖を持ってきた。


「ああ……そんなに入れるのか?」

「ええ。このぐらいは入れないと」

「クモコ……言葉が滑らかだな……」

「そう?」


 砂糖を入れたクモコが、アキヒコを上目で見た。

 アキヒコは、顔が赤くなるのを自覚した。


「クモコ……あの……何かあったか?」

「別に……」

「進化の女神の血が覚醒したのかもしれんぞ」


 ギンタが大きく頷いた。


「そうか……進化の女神の血を大量にあびたんだった。クモコ……他にも何か、わかることはないか?」


 アキヒコに問われ、クモコが厨房を見回した。

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