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154 残り24日 勇者、使い走らせられる

 勇者アキヒコは、再び冒険者組合を訪れた。魔術師ペコ、毒ドワーフギンタ、クモコを連れてである。

 受付に向かうと、要件を伝える前に厨房に通された。

 厨房の迷惑を考えて、昼過ぎに訪れていた。


 受付の女性は明らかにクモコに気を使っていたが、クモコが魔王ではないと知られることで厨房を追い出される可能性も考えて、勘違いさせたままにしておくことにいた。

 冒険者組合の厨房で、魔術師ペコは午前中に買い込んだ小麦粉や卵、ミルクなどの食材と調理器具を並べていく。


 アキヒコは少し離れた場所で、愁いの写しに魔力を注いだ。

 すぐにロンディーニャ姫に繋がる。愁いの写しごしでも、姫の腹部が膨らんできているのがわかる。


『アキヒコ、無事厨房を借りられたようですね』

「はい。レシピの解読は順調とのことですが、ここで実際に作ってみたいと思います」


『それがいいでしょう。魔王は魔の山に住んでいるとのことですが、ラーファで作れないものが、魔の山で作れるはずがありませんし……何度か試作していれば、魔の山で再現することも用意でしょうから。ペコも近くにいますか?』


「はい。アキヒコ、どいて。魔力の供給だけ頼むわ」


 調理道具をチェックしていた魔術師ペコがアキヒコを押した。アキヒコが場所を譲る。


『ペコ、あなたが頼りです』

「任せてください」


 ペコが胸を張る。


『古代の料理レシピです。完全には再現できませんが、近いものはできたと思います。私たちには十分美味しいものですが……魔王は、異世界の優れたスイーツなるものに精通しているそうです。その味に近づかなければ、隙を作るのは難しいでしょう』


「その点なのですが……アキヒコと魔王は異世界で夫婦なのですから、近づくのは簡単なのではないですか?」


 ペコが問題をの根本を問いただした。ロンディーニャは笑う。


『魔王の騎乗はユニコーンだと聞いています。結婚したばかりでまだ生娘の魔王が……結婚したはずの相手がハーレムをつくっていると邪推した場合……気を許しますか?』

「なるほど……姫は、夫婦喧嘩の仲裁をするためにスイーツの開発をしているようなものなのですね」


『そうとも言えます。ですが……アキヒコは魔王を滅ぼし、この国に止まると約束してくれました。いまは、それを信じるしかありません』

「……ですって」


 ペコが横目で睨む。アキヒコは小さくなって聞いていた。魔力を注ぎ続けなくてはならないので、逃げる事はできなかったのだ。


 ※


 ロンディーニャ姫が王国の料理指南役と料理番たちで挑戦し、現代でも再現可能と判断したものは、三つあった。

 名称は、『悪魔の誘惑』『女神の足跡』『魔王の心臓』である。

 いずれも、名前だけではどんな食べ物かわからないのが特徴だ。


「甘いものには、恐ろしい名前をつける習慣でもあったんだろうか?」

「それだけ贅沢を許さないってことじゃない? 甘いものは貴重だから」


 アキヒコの問いに、ペコが答える。

 ロンディーニャは書かれたレシピを見せたが、愁いの写しではさすがに文字の判読は難しかった。

 ロンディーニャ姫がレシピを読み上げ、ペコがメモをとることになった。


 ロンディーニャ姫が指示してペコが料理するやり方では、力仕事が必要な場面でアキヒコが手を貸せないことが想定できたためだ。

 レシピのメモが終わった段階で、アキヒコは愁いの写しを消した。


 アキヒコが愁いの写しを使用すると、ほとんどがロンディーニャ姫に繋がることがわかっているので、必要な時にいつでも使えばいいということになっていた。


「……砂糖が多分足りないわ。アキヒコ、買ってきて」

「わしは?」

「この町……亜人が極端に少ないわ。ギンタを一人でいかせられない。ギンタは、この小麦粉をかき混ぜておいて」


 ペコが指示する。そのために、戦場にいたペコと合流したのだから文句はない。

 アキヒコは買い出しに出かけた。


 市に赴き、砂糖を買った。砂糖を売っているのはラーファだけで、他の町では王都ですら、王宮に直接持ち込まれるもの以外には出回っていない。


 その事実を、アキヒコは知らなかった。

 思いのほか高額だという感想を抱きながら、厨房に戻った。

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