148 残り27日 勇者、スフィンクスを従える
勇者アキヒコは、巨大なスフィンクスを従えた。従魔の首輪を一度されると、主人に逆らうことはできなくなる。
「アキヒコ、これからどうするの?」
大人しく伏せをしているスフィンクスを恐々見上げながら、魔術師ペコが尋ねた。
「ロンディーニャ姫と相談してみる。ロンディーニャ姫が中心になって、甘いお菓子を開発しているんだ。ペコには、そのレシピを再現してもらい、スイーツ好きの魔王に近づくきっかけを作ってほしいんだ。王都では手に入らない材料もあると言っていた」
「……そう。一番食材が集まるのは、ラーファでしょうね。王都とは比べ物にならない、商業の町だから」
「アキヒコ、兵士の隊長が呼んでおるぞ」
アキヒコとペコが相談していると、ドワーフのギンタが走ってくる兵士を指差した。
周囲には他に兵士はいない。スフィンクスになぞなぞ勝負を挑まれ、死体として積み上がっている者たちだけだ。
駆け寄ってくる兵士長に呼び掛けた。
「どうしました?」
「これは……スフィンクスですか。よく従えましたね」
「ええ。なぞなぞを解いてやれば、大人しいものです」
兵士の隊長も口を開けて、巨大なライオンの体をした魔物を見上げる。
「それが……こちらにオークの集団が向かってくるようです。勇者アキヒコのお陰で、スフィンクスによる兵の被害は半分ほどで収まりましたが……オークたちの数は300ほどのようで……」
「多いわね」
ペコが渋面を作る。
「スフィンクスによる被害が半分ということは……1000人が死んだということか?」
ギンタが尋ねた。積み上がった死体を見上げる。ほとんど首が折られているが、弓矢で死んだと思われる死体も多い。大勢で迷宮を踏破しようとして、弓矢に射られたのだろう。
「残ったのが1000人というだけです。全軍の前に巨大な壁ができた上に、前衛が分断されて撃破されているという噂が広まり、逃げ出した者も多いので……」
兵士の隊長がアキヒコに何を求めているのか、アキヒコには理解できなかった。
「人間の兵士1000人にオークたちの群300というのは、簡単に勝てる相手なのかい?」
隊長が答えた。
「簡単ではありません。勝てるとは思いますが……相応の被害が出ると思います」
「アキヒコ、勇者の役目は戦場ではなく、魔王を討伐することだとずっと言ってきたわ。魔王のいない戦場で戦う必要はないけど……たまたま居合わせたのだもの。戦場で一緒に戦った兵士は、魔王を討伐した後、きっとアキヒコの力になる」
魔術師ペコは、アキヒコに戦わせたいのだ。アキヒコはギンタとクモコを見た。ギンタは力強く頷き、クモコはまだペコとギンタを守るために警戒している。
「オークたちがくるのはいつです?」
「明日には、戦闘に入ります」
「わかりました。僕たちも協力します」
「有難い」
隊長が手を伸ばし、アキヒコはその手を握った。
※
聖剣という名の巨石を回り込み、兵士たちが少しずつ集まってくる。
アキヒコは聖剣に近づいた。
見れば見るほど巨大だ。かつては持ったことがある。ハルヒは振り回していた。
この剣は、ハルヒにしか従わないのかもしれない。魔王の能力を知らないアキヒコは、半信半疑で再び聖剣に触れた。
アキヒコが触れた瞬間、巨石が縮む。周囲に敵がいない。その確認ができているから行ったのだ。
アキヒコは、剣の柄部分を握っていた。
重い。
剣の切っ先が地面に落ちる。
巨石だった時の重さが、やはりそのまま残っている。長年邪神を封印し、山を崩した剣だ。
「アキヒコ、これ聖剣よね。使えそう?」
「……やっぱり無理だな。重すぎる。壁が無くなったんだ。兵士たちを早く、移動させてくれ」
覗き込んだペコに、アキヒコは全身に汗を掻きながら言った。
アキヒコも強くなっているはずだ。だが、数十日前に、持ち上げて運ぶことしかできなかった重さのものを、軽々と運べるほど成長しているわけではないようだ。
どれほど筋力を鍛え上げても、そこまでは至らないだろう。
「なんだか、地面が柔らかいわね。聖剣のあった穴が崩れて塞がったわ。でも、穴に落ちたら死んじゃうわね」
聖剣が刺さっていた場所は、深く窪んでいる。
「スフィンクス、兵士たちを向こうからこっちに渡せ」
「何故私が……仕方ないな」
文句を言いかけたスフィンクスが、途中で苦しそうに整った女性の顔を歪め、従った。
1日かけて、1000人の兵士たちを渡す。
「アキヒコ、もういいんじゃない?」
「ああ……わかった」
アキヒコは、街道の外れまで引っ張ってきた聖剣を放り出した。どんな条件で巨大化するのかわからないが、すぐには巨大化しなかった。
戦場で巨大化して兵士を潰さないよう、アキヒコは聖剣が転がっている向きを調整した。




