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147 残り28日 魔王、ドラゴンを召喚する

 魔王ハルヒは、玉座の間に押し寄せた魔物たちを下がらせた後、ドワーフが作り上げた金属の装備を手に取って物色していた。


「お手伝いいたしましょうか?」


 全員下がらせたはずだが、堕天使サキエルが顔を出した。


「ええ。助かるわ。では……この装備を全て並べて。私が使うものは選んである」


 ハルヒは、手甲とすね当て、兜に胴巻き、腰巻を装備として選んでいた。すでに自分に必要な能力を補助する魔法陣を刻んである。


「武器は何にしようかしら……神殺しの剣を回収すれば、主に使う武器としてはあれ以上のものはないわ。どれほど魔法陣を刻んでも壊れないのだもの。予備武器として……簡単な棒でいいか」


 ハルヒは、妙に意匠に凝った短い棒を持ち上げた。


「魔王様、それは王笏ですね。魔王様が持つのなら、ドワーフたちも喜びましょう」


 王笏は、王冠と並んで王権の象徴としてとらえられる。ドワーフたちが命じられもせずに作ったことこそ問題なのだが、ハルヒにささげるつもりであったのならば、罪にも問えない。


「……そう。これが王笏なのね。手にしたのは、たまたまよ。後の装備は、欲しい人で分け合いなさい。必要な魔法陣を刻んであげたいけど……誰が使うかによるわね」


 ハルヒの言葉を受け、知の天使サキエルがほほ笑んだ。


「ならば……私が装備に尋ねましょう。作られた武器も防具も、ふさわしい能力というものがあります。魔王様が与えてくださるのなら、もっとも適した能力をお与えになるのがよろしいでしょう。それを使うにふさわしい者たちのところへ届けますので」


「そう……例えば、この剣は?」

「その形状からは、摩擦を減じるべきでしょう」


「こっちの盾は?」

「反発を強める魔法がいいかと」


「……本当? この子たち……道具がそう望んでいるの?」

「知の天使ですから」


 サキエルは、自分を指して笑った。

 ハルヒはサキエルに言われるまま、ドワーフの鍛えた武器、防具を魔法の道具へと変えて行った。


 ※


 魔王ハルヒは、魔女サリーだけを連れて城を出た。

 以前にもあったことだ。魔女は、外に連れ出された時に、何をするのか理解していた。


「魔王様……すでに魔王軍は人間たちの軍に負けるものではありません。あれを呼び出す必要がありましょうか」


 ハルヒは城を出て、暗い谷に来ていた。魔女を連れて来たのは、魔女がかつて教えてくれたことを実行するためであり、性別として女性であるためだ。


「ええ。必要になるでしょうね。ユニコーンは飛ぶことはできないわ。私を安定して飛ばせる能力のある魔物が欲しいのよ」


「たしかに……魔王様の魔力量では、並の魔物では魔王様を乗せた途端に、魔力を乱されて飛べなくなってしまうかもしれませんが……以前にもあれを呼び出しては、用が済むとすぐにお返しになったのに……」


「あんな大食らい、いつまでもこっちの世界に置けないもの。あなたは言ったはずよ。より高位の者ほど、体は小さく、力は強く、食事は少なくなると。ここでしか召喚できないわけじゃない。でも、全ての条件を満たせる場所はここしかない」


 ハルヒが訪れた場所は、魔の山でも最も暗く、魔物の瘴気が濃いため植物も育たない、魔物すら正気ではいられないと恐れられている場所だ。

 この場所で、ハルヒは3度、ある魔物を召喚した。


 用が終われば、住んでいる世界に戻した。この世界の魔物ではない。

 ハルヒは服を脱いだ。

 白い肌が現れる。

 だから、性別のみは女性である魔女サリーだけを連れてきたのだ。


「魔王様、通常の召喚でも……今の魔王様なら事足りるのまではないでしょうか?」

「これで……あれを呼ぶのは最後にしたいのよ。召喚に血と肉を求める……それでより高位の存在を呼べるなら、安いものだわ」


 ハルヒは思い描いた魔法陣を、服を脱いでむき出しになった自分の白い背中に描いた。

 刻印のように白い背中に赤い筋が走り、血が流れる。

 ハルヒは痛む背中に、魔力を流した。


「我に従い、我に仕えよ。来なさい、ドラゴンたちの王」


 背中が痛む。これまでとは比べものにならない痛みだった。これまで、血を捧げはしても、自分の肉体に魔法陣を描いたことはなかった。


「魔王様……背中に翼が……」


 サリーが報告する。召喚されたドラゴンの翼が、魔法陣から出て来たのだ。


「望むところよ」

「魔王様……黒い首が背中から」


「大きさは?」

「今までより、ずっと小さくていらっしゃいます」

「上出来ね。さあ……私の血肉が欲しいのなら、好きなだけ貪るがいい!」


 ハルヒの背中から、大量の血が吹き上がる。


「魔王様……終わりました」


 重い音が背後で響いた。

 魔女がハルヒに手ぬぐいを渡す。

 ハルヒは痛む背中をぬぐいながら、召喚されたドラゴンを振り返った。


 大きな牛ほどの体は、あるいはまだ幼いかと思われた。

 だが、黒い鱗に混じる金色の光が、ドラゴンとして非常に長い年月を生きた個体であることを示していた。


「ブラックドラゴン……と呼んでいいの?」

「我はドラゴン族の王であります、偉大なる魔王よ。我を召喚するには……大いなる力と運命が必要だ。その両方を手にしている魔王に従うに、是非はない。我が力、存分に使うがいい」


「助かるわ、喋れるのね。以前召喚した3人は、唸ることしかできなかったけど……」

「我も承知しております。あれらはまだ、若駒だ」


 ドラゴンの王の表情はわからない。だが、笑ったのだと、ハルヒは感じた。

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