146 残り28日 勇者、なぞなぞに挑む
勇者アキヒコは、スフィンクスと向き合った。
「わかった……なぞなぞの勝負は受けよう。僕が負けたら殺してもいい。だけど……僕が勝ったら、死ぬ前にこの首輪をしてもらえないか? よく似合うと思うんだ」
アキヒコは言いながら、青い首輪を取り出した。
「その首輪……私の首には短いわ」
スフィンクスは大きな目でアキヒコを見下ろした。
「魔道具だよ。首輪をする相手によって、長さが変わる」
アキヒコは引っ張って見せた。
「ふうん……でも、どうして?」
警戒しているようだ。アキヒコは、さらに言葉を重ねる。
「青くてオシャレだろう。綺麗になったところを見たいのさ」
「私を口説く気?」
「ああ……チャッカマン」
言いながら、アキヒコは点火の生活魔法を空中に放った。
「なんの真似?」
「……ただの気分転換さ。意味はない」
アキヒコは振り返る。何もない空中に、虹が出ていた。ペコの合図だ。
「その魔術、僕は知らないぞ……」
アキヒコが魔術を使用したのは、ペコへの合図だ。その返信を、アキヒコは知らなかった。アキヒコの呟きが聞こえなかったのか、スフィンクスが言った。
「じゃあいくわよ」
「よし……ファイヤーロード」
アキヒコも、スフィンクスの言うことを聞いていなかった。ペコに返事をする方を優先させた。アキヒコは、虹がかかった場所に向かって炎の道を作った。
ペコがいる場所まで、真っ直ぐに道ができる。
途中のドリアドたちが死んだ。
ドリアドたちは一族を大切にする。一度の魔術で死んだ魔物は、100本は超えるだろう。
焼け落ちた樹々の先にペコたちの姿を認め、アキヒコが視線を戻す。
目の前に、巨大な汚れた肉球が見えた。振り下ろされる。
左手に持つ火事場の盾を振り上げる。
スフィンクスの巨大な前足が振り下ろされた。
頭上で受け止める。押し返した。
「何をする。なぞなぞじゃないのか?」
「ドリアドを殺したからです」
スフィンクスが人間となぞなぞの勝負をすることに、ドリアドと呼ばれる樹木の魔物が協力していたとは、アキヒコは知らない。
「アキヒコ、大丈夫?」
背後から声がかけられた。アキヒコが拓いた道を、魔術師ペコが走ってきたようだ。
後ろからの声を聴きながら、アキヒコはスフィンクスに尋ねる。
「ドリアドって?」
答えたのは、駆けつけた魔術師ペコだった。
「樹木の精霊と呼ばれているわ。じゃあ……あれが……」
ペコの言葉に振り返ると、一面を覆っていた迷宮が消えていた。
ザラメ山脈に逃げ込もうと、根を振り上げて逃げていく樹々が見える。
「……恐れを成したみたいだね」
樹木の魔物を知らなかったが、アキヒコは迷宮を作っていたのが逃げていく魔物たちだろうと推測した。仲間を殺され、戦わずに逃げていく。
ペコが残された巨大な魔物に向かって言った。
「スフィンクス、なぞなぞで遊んでいる暇はないわ。兵士たちの邪魔をするなら、勇者アキヒコが殺すわ」
「ペコ……できれば、僕はこいつを従えたい。なぞなぞを僕が正解すれば、首輪をすると約束したんだ」
「……仕方ないわね。ペガサスも減ったし……任せるわ」
「ああ。好きにせい」
ギンタとクモコも追いついてきた。ギンタは足が短く、クモコは走り出す必要を感じず、歩いてきたようだ。
「えっ? 魔王様?」
スフィンクスの視線がクモコを捉える。スフィンクスが何を勘違いしたのかアキヒコは察し、利用することにした。
「ああ。魔王が立会人だ。なぞなぞの勝負が望みなら、受けて立つ」
スフィンクスがクモコを見つめ、もやがて頷いた。
「……わかったわ。魔王様がいる前で、これ以上の非道はしないでしょう。では、始めるわ。オークたちの村に、とても変わった、女神を崇める者が生まれました。そのオークは女神を信仰し、人間の町で店を開きました。人間はオークの開く珍しいお店にきましたが、誰もなにも買いません。どんなお店ですか?」
スフィンンクスは黙った。背後でペコが怒りの声をあげる。
「店を開くオークなんているはずがないわ」
「わしは知らんな。どこの国の話じゃ?」
背後でわめきたてるペコとギンタを制して、アキヒコは考えた。
オークのことは知っていた。人間に似た体を持ちながら、首から上に豚に頭部がのっている大柄な戦士だ。
「……オーク……豚……イノシシ……女神……信仰……僧侶……プリースト……ビショップ……」
アキヒコは、頭に浮かぶ関連する用語をつなぎ合わせようとした。
「答えられなかったら、アキヒコはどうなるの?」
「死にます」
ペコの問いに、スフィンクスが穏やかに答えた。
「アキヒコ、わかるはずがない。答えるな。罠だ。答えると、呪いで死ぬようにできているのじゃろう。無視して斬りかかれ」
二人の言うことはわかる。だが、アキヒコは何かがわかりそうな気がしていた。
「……相談してもいいか?」
「なんのために、ドリアドたちに協力させたと思うのです?」
一人ずつ、なぞなぞの勝負をするためだ。最後まで行けば、スフィンクスは2000回の勝負を楽しめたはずなのだ。スフィンクスが首を振る。
「それもそうか。オークプリースト……オークビショップ……オークビショップか? 大首ショップ……ああ……そのオークの店では、大きな生首を売っていたんだ。人間の町では、そんなものが売れるはずがない。だから、誰も買わない。これが、答えだ」
アキヒコは断言した。だが、ペコは崩れ落ちた。
「アキヒコ……死ぬつもりなの?」
「そんな答えなはずがあるか。自暴自棄になるな」
ギンタも叫ぶ。スフィンクスは、静かに言った。
「……正解です」
「はっ? ビショップって何? 聞いたこともいないわ」
ペコが声を荒げる。ペコもギンタも、なぞなぞというものを理解していない。これでは、スフィンクスは負けることを想像もしていないだろう。ペコの問いに、アキヒコが答える。
「ペコ……ビショップというのは、神に仕える者を意味する、僕がいた来た異世界の言葉だ。オークが女神を信仰していると言っただろう? あれがヒントさ」
「異世界の言語をなぞなぞに使うな。答えられるはすがなかろう」
「ペコとギンタの言う通りだね。でも……僕は正解した。さあ……」
言いながら、アキヒコは従魔の首輪をスフィンクスに見せた。




