144 残り29日 勇者、樹木の迷宮を焼き払う
巨石と化した聖剣を回り込むと、次の瞬間には勇者アキヒコは密集した樹々で作られた迷宮に迷い込んでいた。
背の低い木が多いとはいえ、人間の背丈よりは高い。
その全てが自ら意思を持ち、根を引き抜いて歩くことができる魔物だとは、アキヒコは知らなかった。
ギンタとペコ、クモコも続く。
『通れるのは一人だけ』
どこからか、声が囁いた。
アキヒコが振り返ると、ギンタとペコにも同様に聞こえていることがわかった。
アキヒコは無視して進む。
突然横合いから、矢が飛んできた。
アキヒコの頬にぶつかり、肌を凹ませただけで矢は止まり、地面に落ちた。
「クモコ、ギンタとペコに矢が飛んできたら頼む」
「はい」
アキヒコには、飛んできた矢は威力的に刺さらない。だが、ギンタとペコは無傷ではないだろう。
言いながら、途中で振り返ってみた。
ギンタとペコの周囲に、矢がまるで剣山のように、無数の刃をむき出してにして止まっている。
クモコが糸で止めたのだと、アキヒコにはわかった。ペコとギンタもわかっているのだ。クモコから離れないようにしがみついている。
アキヒコにしがみつかないのは、アキヒコは本人が無傷でも、ふたりをかばう方法は知らないことを理解しているのだ。
樹々の作る迷路は複雑だった。
何度繰り返しても、入り口に戻ってしまう。
『通れるのは一人だけ』
また、どこからか声が聞こえた。
「アキヒコ、試しに別れてみるか?」
「分断されるだけだと思うが……」
ギンタの提案に、アキヒコは難色を示す。
「なら……アキヒコだけが一人になるのはどう? 私たちには、クモコがいれば危険はないでしょう」
「だが……クモコが従っているのは僕だ。ああ……僕が命令すればいいのか。クモコ、ギンタとペコを守れ」
「はい」
クモコはハルヒの姿で、実によく言うことを聞く。
ギンタとペコが立ち止まり、アキヒコが離れた。
「迷路を抜けたら、合図を送る。そっちも合図をくれ。二人がいる場所まで、この邪魔な木を焼き払えればいいんだけど」
「……うん。そうね……炎よ道を拓け。ファイヤーロード。これが呪文よ」
「わかった。ファイヤーロード」
アキヒコは空に向けて魔術を放つ。青い空に真っ赤な火柱が立ち上がった。
※
アキヒコは、再び樹々の迷宮に挑んだ。
何度も迷いながら、ついに迷宮を抜ける。
目の前に、ライオンの体と女性の顔を持つ巨大な魔物が座っていた。
先客がいる。アキヒコの知らない兵士だ。
「正解は、リザードマンだ」
問題がなんなのかわからないが、兵士は言った。
巨大なライオンの体を持つ魔物は、歌うように答えた。
「不正解」
片手を振り上げる。
「ま、待て。なら、正解はなんだ?」
「教えるはずがないでしょう」
「そりゃおかしい。お前が不正解だといえば、全て不正解になってしまう。こんなの、なぞなぞじゃない」
「そんなことないわ。私は自分のなかにちゃんと答えがある。それを言い当てれば、正解にするし、私の命をあげる」
「その保証がどこに……」
兵士は最後まで言えずに、ライオンの巨大な前足に潰された。
「次はあなたね? 私はスフィンクス。ここを通りたければ、命をかけてなぞなぞの勝負をしましょう」
スフィンクスと名乗った巨大な魔物は、整った女性の顔で、実に楽しそうににまりと笑った。




