表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/203

14 残り94日 勇者、ドラゴンを見る

100日間の物語、7日目です。

 勇者アキヒコは王都に戻ってきた。

 遠くに王城が見える。

 たしかに、王城の屋根の上に黒い塊りが見える。


 勇者アキヒコは召喚されてすぐに旅立ったため、王都をゆっくり見たことはなかった。王都の民もアキヒコのことを知らないようだ。

 子どもたちが元気に走っている様は、王都が襲撃を受けたとは思えないほどだ。


「お昼寝ドラゴンだぞー!」


 叫びながら追いかけっこをしている子どもの声を聴くと、どうやらドラゴンが城で昼寝をしているのは間違いないようだ。


「アキヒコ、急ごう」


 魔術師ペコが促す。兵士も険しい顔で王城を見上げていた。


「わかった」


 勇者アキヒコは、役に立つかどうかわからないが、剣を握りしめていた。


 ※


 王城の門の周囲に、兵士たちが固まっていた。


「何をしているんです?」


 兵士たちが固まって、食事をしているようだ。見ればわかることを、アキヒコは尋ねた。

 飯を食べているのが不思議だったのではない。ドラゴンと戦おうとしているのだと思っていたアキヒコは、兵士たちの姿に違和感を持ったのだ。


「王様と主な大臣以外は、避難するように言われています。ドラゴン相手じゃ、無駄に死ぬだけですから」

「……王様はどうしている?」

「王宮の避難室にいると思います」

「……そうか」


 平和な世界だと聞いていたが、王宮には避難室があるという。魔物に攻められることもあるし、戦争が起こることも想定しているのだろう。


「ペコ、避難室の場所はわかるかい?」

「私だけ避難なんてしないよ。アキヒコと一緒にいる。アキヒコを一人にしたら、勝っても気絶しちゃうかもしれないでしょ」

「いや……」


 魔術師ペコは、自分だけ避難室に避難するわけにはいかないと言ったのだ。

 アキヒコは、まず王の無事を確認しようと思ったのだ。王と、ロンディーニャ姫の無事を。

 だが、ドラゴンと戦うために戻ったのであれば、避難室の場所を知っている必要はない。

 アキヒコは、ペコがドラゴンに直行するつもりだと知り、言葉を飲み込んだ。


 ※


 ブラックドラゴンは、王城の屋根を半壊させ、腹を上向けて眠っていた。

 日光浴をしているトカゲにしても、無防備すぎる姿だ。

 勇者アキヒコは、誰もいない王城を登り、半壊した天井から外に出た。

 瓦礫をどかせるのに、ペコの魔術が役に立った。


「おい、ドラゴン!」


 アキヒコは、うたた寝している巨大な翼を持つトカゲに向かって声を張り上げた。

 体の大きさは、象二頭分もあるだろうか。四肢があり、首が長い。全身が黒い鱗に包まれており、頭部には角がある。


 アキヒコの呼びかけに応えたのか単に寝ぼけたのか、ドラゴンは尻尾を振り上げ、下ろした。

 勇者アキヒコがいた真上である。

 勇者アキヒコはペコを抱きかかえて背中を向けた。


 背中にどっしりとした重みがかかる。

 足元が崩れたのがわかった。アキヒコはドラゴンの尾を背中で受けたのだ。


「アキヒコ、無謀だもん」


 崩れた瓦礫の中で、勇者アキヒコは王に会った。


「……王、避難室では?」

「避難室は、硬くて壊れないようにできているもん。余が逃げ込めない場所に作っても、意味がないもん」


 避難室は王の近くにあり、王は普段王城の上階にいる。

 意外と近くにいたのだ。アキヒコがドラゴンに立ち向かうのを見つけて、飛び出してきたのだろう。


「無謀だと言われても……僕は勇者です」

「ドラゴンなら、そのうち飽きて帰るもん。それより……ロンディーニャがさらわれたことの方が心配だもん」

「ロンディーニャ姫が?」

「一緒に来るもん」


 アキヒコは王に手を引かれ、眠っているドラゴンから離れて避難室に案内された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ