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12 残り95日 勇者、帰還する

100日間の物語、6日目です。


 王都へ戻る道すがら、兵士が笑い転げた。


「オ、オーク5体を一人で倒した勇者が、人間の死体を見て気絶したんですって……」

「わ、笑うところじゃないだろう。人間の死体なんて、そう見るものじゃない」


 勇者アキヒコが抗議するが、兵士は笑い止まなかった。


「そうかもしれませんが……オークを5体一人で殺せるってところで、もう人間離れしていますから。可笑しくて」

「兵士さんもそう思うよね」


 魔術師ペコが同調する。アキヒコとしては、不本意極まりないのだ。


「それより、ドラゴンのことを教えてよ。ドラゴンなんて、この世界にはごろごろいるのかい?」


 アキヒコが尋ねる。女神は、平和すぎる世界なのだと言った。オークが人を殺す。ドラゴンが出る。それほど平和とは思えなかった。


「いえ。ドラゴンなんて滅多にいるものじゃありません。魔の山でも……ドラゴンが住んでいるなんて噂はありませんでした」


 流石に兵士も真顔に戻って告げた。アキヒコは首を傾げた。


「魔の山というのは……どこだっけ?」

「勇者アキヒコの出現と同時に、黒い稲妻が落ちたとされるところだよ。多分、魔王が出現したんじゃないかって言われている場所だね」


 魔術師ペコが教える。王都から魔の山は遠い。肉眼で見えるはずのない場所だ。その場所の噂を知っているというのは、魔術師の情報網でもあるのだろう。


「魔王ハルヒとか……ああ。恐ろしい。あんな恐ろしい魔王と戦わなくちゃならないなんて……尊敬します」


 さっきまでアキヒコのことを笑っていた兵士に尊敬された。

 この異世界に転移した翌日に、庭園の池に現れた魔王ハルヒの姿は、人々に恐怖を植えつけたようだ。

その恐ろしい魔王と瓜二つで気性も同じ女と、一生共に暮らす約束をしたことは、アキヒコは黙っていようと決めた。


「魔の山にもドラゴンはいないのか……じゃあ、魔王とは関係ないのかな」

「魔王が呼び寄せたのかもしれないよ。特にブラックドラゴンは、魔の力に引き寄せられるって噂もある」


 ペコの問いに、アキヒコは兵士に尋ねた。


「ドラゴンの色は?」

「黒です」

「うん……魔王が呼び寄せたドラゴンだろうね。黒いドラゴンはとても珍しいんだ」


 魔術師ペコが請け負った。


「そのドラゴンは、城を襲って何をしているんだい?」


 アキヒコは王都に戻ろうとしていた。戻ればドラゴンと対面することになる。王が勇者を連れ戻すように命じたのだから、戻ることは仕方がない。

 だが、魔王の調査に出かけたとして、魔の山につくのは一月ぐらい先らしい。


 王都に戻れば、1日ぐらいでドラゴンに遭遇する。

 気が重い。できれば戦いたくない。

 勇者アキヒコは、オーク5体を倒したのが唯一の戦果なのだ。ドラゴンの相手は荷が重すぎる。


「私はすぐに城を出て勇者を追ってきたのではっきりとはわかりませんが、私が最後に見たときは、城の屋根の上で、腹を出して昼寝していました」

「……勝てるかもしれないな」


 あまりにも無防備な姿で寝ていたらしいドラゴンの噂に、勇者アキヒコは少しだけ勇気付けられた。

 ドラゴンに襲われた王都に、明日には到着するはずだった。

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