115 残り44日 魔王、ユニコーンに再会する
魔王ハルヒは、カバデールの北側が山地であることを警戒して、ハーピーの一族を従え戦力に組み込んだ。
ハーピーは鳥類の頭部と胸部だけを人間の女性に差し替えたような容貌の魔物である。
ザラメ山地北側の町ラーファは魔王の支配地にはしていないが、領主を屈服させ、事実上ラーファの兵が山地を越えてくることはなくなり、ハーピーを積極的に利用することはなかった。
だが、通常の移動手段が飛行であり、一定の知恵があるというのは戦場の情報収集としては非常に大きな利点だと、報告を受けてハルヒは気づいた。
魔の山に置いてきた山ガエルの王の指示だと知り、ハルヒは召喚して以降一度もあっていない醜い魔物を思い出した。
「では……王都の兵2000がザラメ山地東側の町道までくるのに、まだ5日以上かかるというわけね。ザラメ山地の東側からカバデールは徒歩で2日……軍隊の行進なら、もっとかかるでしょうね」
魔王ハルヒは、情報をもたらしたハーピーの報告を受け、地理に明るい動物系の魔物たちの見解からそう判断した。
まだ焼け焦げたまま、掃除が終わっていない領主の執務室でのことである。
焦げてはいるが焼け落ちてはいない頑丈なテーブルに、周辺の地図を広げてハルヒと魔物たちが覗き込んでいた。
「武装した兵士が2000となると……人間とはいえ、相応の被害がでます。我らの出番ですかな」
ゴーレムマスターのテガが、となりのネクロマンサーを見ながら言った。ゴーレムたちとネクロマンサーが操るゾンビ兵は、命のない動く人形である。人間たちに殺されても補充が効く。
「しばらく留守にしていたけど、どのくらいの数がいるの?」
「ゴーレムで500ほどです。ゾンビ兵は……」
「墓地の古い死体でスケルトンになった者も入れれば、1000体はいます。町の外で農作業をしている者たちを含めれば、その3倍になりますが」
ネクロマンサーがあげた数字に、魔物たちは驚きの声をあげた。
「では、2000の人間など、ただの餌ですね」
森のクマさんチェリーが強気に発言する。単体では最強クラスの魔物だが、眷属たちが多数の死者を出すことを避けられると思ったのだろう。
「ゴーレムとゾンビたちで対応するという方法もあるでしょうね」
「魔王様は、何か心配なのかい?」
ドレス兎のコーデが尋ねた。
「心配……ということではないわ。ただ、ザラメ山地は、カバデールのすぐ北側以外は、ほとんど行ったことがないのよ。私の知らない魔物に協力させられないかしら……いるかどうか知らないけど」
神獣スモモが地図を前足で指した。
「こっちの方は、一つ目巨人のナワバリだよ。でも……あんまり数が多くない。仲間にするなら、黒くないエルフがいるらしい。それと……たまにスフィンクスが散歩していて、人間を見つけるとなぞなぞ遊びをしている」
スフィンクスは、ライオンの体に顔だけが人間という奇妙な魔物だ。人間に謎かけをし、答えられないと食べてしまうという噂もある。
「へぇ……面白いわね。軍隊が来るまで時間はあるし、そいつらを働かせてみようかしら」
「なぞなぞ遊び……ふむ。相手にとって不足はございません」
堕天使サキエルが闘志を燃やす。知恵を授ける天使だったという矜持だろう。
「では……2日後にカバデールを出るわ。2日間で、魔王が戻ったことを町に知らしめなければならないわね。魔の山は山ガエルの王がうまくやっているでしょう。町中で飛んで、スカートの中を覗かれたくないわ。近くにバイラコーンがいないかしら」
「魔王様にはユニコーンがいるじゃないか」
「私はこの手で、進化とやらの女神を殺したのよ。。流石に、純潔を司るユニコーンが私を乗せることは、もうないでしょう」
「……魔王様、厩に行ってみてください。魔王様の帰りを一番楽しみにしていたのは、多分あいつです」
チェリーが腹を掻きながら言った。ハルヒは首を傾げる。ハルヒの認識ではユニコーンがカバデールにいるはずがいないのだ。
「……魔の山に置いてきたはずだけど?」
「ユニコーンは、他の魔物と言葉が話せない代わりに、感覚が鋭いらしいですな。魔王様がこっちにくると思って、自分で勝手に厩に行ったんでしょう」
実際にハルヒを慕うユニコーンに会ったことのないサキエルが言った。ユニコーンとは、そういうものなのだということだろう。
「……汚れなき乙女……自分で、滑稽だと思うけどね」
ハルヒは笑った。
だが、厩に行ったハルヒに、ユニコーンは全力で喜びを表現して見せたのだ。




