111 残り46日 魔王、勇者の企みを知る
それはたまたまだった。
魔王ハルヒは、胴体を神殺しの剣で貫き、半死半生にしたクモコの治療をするため、森のクマさんチェリーに堕天使サキエルを呼びに行かせた。
オオカミのスモモを部屋に入れ、蜘蛛の糸が覆われた痕を炎で焼き払ったためにススだらけになった部屋の掃除を命じた。
ハルヒ自身は掃除に加わることはせず、床に這いつくばったクモコがのたうつのを眺めていた。
サキエルがドレス兎コーデを抱いたまま部屋を訪れ、ハルヒはサキエルにクモコの治療を命じた。
「勇者の仲間だと思いますが……生かしておくのでしょうか?」
「魔物だもの。私に従うかもしれない。それに、私によく似ているのなら……存在がわかっていれば、利用できるはずよ」
「ふむ……影武者などには最適でしょう。しかし、私には怪我を癒す能力はありません。蜘蛛ならば自分で癒せるでしょう。私の権能は知恵を授けること。これで、自分で癒しなさい」
サキエルがクモコを立たせる。クモコの腹には穴があいているが、刺さっていた神殺しの剣はすでに抜かれている。
サキエルが頭部に手をかざすと、クモコは自分の糸を傷口に塗りつけた。
天使の権能で、クモコに知恵を与えたのだ。知恵を与えられた傷の治療法は、とても簡単だった。
「それでいいの? 邪神の力で進化した割には、簡単な体の構造ね。いえ……進化して弱体化しては意味がないわ。進化したからこそなのかしら……」
ハルヒが感心していると、突然部屋に複数ある姿見の金属板の映る景色が変わった。
ハルヒは、何が起きたのかすぐに理解し、自らは姿見に写り込まない位置に移動し、クモコを正面に立たせた。
『クモコ、無事かい?』
姿見から聞こえた声に、ハルヒは苛立ちながら、クモコに返事をしろと手で合図を出す。
クモコを瀕死に追いやってから、ハルヒはクモコと話していないが、ハルヒの指示に素直に従った。
「はい。大丈夫です」
『よかった……心配していたんだ。こっちのことは片付いた。できるだけすぐ、ぼくたちもカバデールに戻る』
「私は大丈夫です。気をつけてください」
『ああ……クモコは優しいな。なんだか……焦げた部屋にいるみたいだけど……』
「掃除します」
『クモコが無事ならいい。実はちょっと頼みがあるんだ。危険だと思ったらやらなくていい』
「なんですか?」
『その場に、ほかに誰かいるかい?』
ハルヒが腕でバツを作る。クモコは頷いた。
「いません」
『よかった……魔王は、まだカバデールにいるのかい?』
ハルヒが手で丸を作る。
「はい」
『クモコは、魔王に似ている。それを利用して……魔の山に人間を送るよう、指示してくれないだろうか。奴隷でも、犯罪者でもいい。生贄としてでも構わない。できれば、魔の山で魔王が住んでいる場所に運ぶよう指示できれば一番いいんだけど……』
アキヒコが話している間に、ハルヒは布に文字を描いた。サキエルに見せると、しっかりと頷いた。現在のクモコが理解できることを、知恵を与えた本人が保障したのだ。
ハルヒがクモコに布を見せる。
「どうしてですか?」
クモコはそのまま読み上げた。
『魔王ハルヒの寝首を掻く。残念ながら、魔王に正面から戦っても勝機は薄い。近づけさえすれば、取り入る方法はある。ハルヒの好きなスイーツの開発に着手した。でも……魔の山には人間がいないだろう。人間がいてもおかしくない状況を作らなければならないんだ』
「わかりました。やってみます」
『頼む。でも、無理はするなよ』
「はい」
姿見の映像が消える。
「ふうん……勇者アキヒコ、私に勝てないと判断して、搦め手できたわね」
「魔王様の温情が、さっそくうまく生きましたな。むこうの計略がわかれば、防ぐことは簡単です。魔王城に人間など1人も入れません」
「待ちなさい」
意気込む魔物たちに、ハルヒは言った。
「魔王様、どうしました?」
「私が好きな……スイーツ……ね。寝首さえかかれなければ問題ないわ。少し泳がせてから潰した方が、面白いでしょう」
「さすが魔王様……あくどいぜ」
コーデが震え上がる。魔王ハルヒは、自ら魔の山に人間を送る計画を検討し始めた。




