106 残り48日 勇者、秘密を語る
勇者アキヒコは、聖剣を手に入れたが魔王に奪われたこと、聖剣に封じられていた女神セレスが魔王に殺されたこと、セレスの血でアキヒコとクモコが進化したことをロンディーニャ姫に報告した。
王はいない。逃げて行った人間たちを集めるのに奔走していたのだ。
アキヒコに自室として与えられた、王城内の部屋である。
「では……アキヒコは直接魔王と戦ったのですか?」
「ほんの短い間でしたが」
「その短い時間で、負けたのですね?」
ロンディーニャは責めるような口調ではない。ただ、淡々と事実を確認している。
「はい……負けました」
「魔術師ペコもその場にいたのでしょう? 何をしていたのですか?」
魔術師ペコと毒ドワーフのギンタは、壁際で小さくなっていた。ロンディーニャ姫は相変わらず優しげだったが、追求するときは容赦がないのだと、かつてペコが語ったことを思い出した。
ペコが答える。
「私たちは、その前にゾンビ兵に怪我を負わされて、戦いには参加できませんでした。もっとも……戦いに参加したとしても、同じことだったと思います。アキヒコが持ち上げることしかできなかった剣を、魔王は軽々と振り回していましたから……」
ペコは、アキヒコの手を離れて巨大化した剣を、魔王が再び小さくしたことは言わなかった。山が崩れた原因が自分たちにあることを、言わなければならないからである。
ロンディーニャ姫が唸るように言った。
「しかし……勇者アキヒコの能力が低いはずはありません。アキヒコは、すでに十分な力を得ているはずです。進化と豊穣の邪神は、結果的にあらゆる邪神の中でも最悪の結果をもたらすことから最も忌避されました。その邪神を殺したのは、魔王のお手柄といってもいいでしょう。つまり……邪神セレスの力は本物です。アキヒコが進化の力を得ているなら……今以上に強くなるのは難しいかもしれません。もし、魔王がそれほど強いのなら……魔王の治世になる……それも、仕方のないことかもしれません」
「デュラハンのような化け物を王都に放つ奴の治世など、ごめんじゃがのう」
ギンタが髭を掻いた。
「方法は……あるのではないでしょうか?」
魔術師ペコが頭をあげる。
「力の強さだけが、強さじゃないはずです」
アキヒコは、ブラックドラゴンに食い殺された剣聖サルモネラを思い出した。剣の技術については、今でも素人同然だ。だが、ペコの言いたいことは違ったようだ。
「油断しているところで不意をつかれれば、どんな魔物でも大怪我をします。近づいて……油断させることができれば……」
ペコが考えながら言っている間に、ギンタが言い添える。
「それに、強い魔物をもっと従えてもいいじゃろう。今のアキヒコなら、ドラゴンとは言わずとも、クモコより強い魔物でも従えられるじゃろう。より強い魔物をねじ伏せ、その度にあの首輪を使えば……いずれドラゴンにも手が届くじゃろう」
ロンディーニャ姫が首肯する。考えながら、言葉を発した。
「それでは……私は王家の秘法と文献を調べてみましょう。どんなに強い魔王でも、倒す方法はあるはずです。かつて……進化と豊穣の邪神セレスが最も厄介だったのは、人々の信仰を集めていたことです。人間に恨まれている魔王なんて、本当に恐るべき相手ではありません。当時信仰を集めていたセレスが、どうやって封印されたのか、調べてみましょう」
「では……ロンディーニャ姫の答えが出るまで、僕たちはそれぞれに魔王を倒す方法を考えてみます」
アキヒコが締めくくった。だが、ロンディーニャ姫はさらに尋ねた。
「ところで……クモコとはなんですか? 先程から、時々名前が出ていますが……」
「クモコは、白精霊の森のダンジョンで出会い、従魔の首輪で従えた最初の魔物です。セレスの血で進化し……魔王の姿になりました」
「そこが、私もわからないのだけど……どうしてクモコは魔王の姿になったの? 本人がそう望んだから?」
アキヒコの答えに、ペコが尋ねた。アキヒコは覚悟を決めた。これ以上、隠してはいられない。アキヒコはそう判断した。
「クモコが魔王の姿になったのは……たぶん……僕の影響です」
「どういうことですか?」
「魔王は、魔王ハルヒは……僕と同じ世界から、同時に来ました」
「……知り合いだったのか?」
ギンタが顔を曇らせる。
「夫婦だった」
アキヒコの言葉に、ロンディーニャ姫とペコが凍りついた。




