102 残り50日 勇者、ダークロードに挑む
勇者アキヒコと魔術師ペコ、毒ドワーフギンタの3人は、王城を占拠した忌むべき者たちを蹴散らしながら、王城の奥にある玉座の間にたどり着いた。
真っ直ぐに玉座の間を目指したのは、ペコの魔術『マルコ』で、ロンディーニャ姫のいる場所がわかっていたからである。
忌むべき者たちを退けたのは、もっぱら勇者アキヒコである。怪我の治りが早く出血が止まったアキヒコの体に傷をつけるのがギンタの役割で、飛び散った血液を色々な道具に擦り付けて武器とするのがペコの役目だった。
結果として3人が玉座の間にたどり着いたときには、大部分の魔物たちが行動不能に陥り、勇者アキヒコは血まみれになり、足元をふらつかせていた。
「……貴様は……勇者か? 我輩が何もしておらぬうちに、死にかけているようだが……」
玉座に腰掛けているのは、いつもの穏やかな王ではなかった。
真っ黒い服に黒い頭部を乗せた、目だけがはっきりとわかる不気味な存在が腰掛け、頬杖をついていた。
「……アキヒコ、気をつけて。たぶんこいつ、ボスだわ」
ペコが背後から囁く。持っている短剣には、べっとりと魔物たちが苦手とするものが付着している。勇者アキヒコの生き血である。
「ボス? 魔王以外にかい?」
「ええ。これだけ連携を嫌う魔物たちが王城に集まるには……誰かが統率しているのに違いないと思っていたわ。それをやっているのが、あいつよ」
「我輩はダークロード。魔王ハルヒ様より、この国を滅ぼす任を受けた」
「お前の従えていた魔物は、全て退けた。残っているのはお前だけだ」
アキヒコが雷鳴の剣を突きつける。勇者の血が滴った雷鳴の剣だ。ダークロードは慌てなかった。
「我輩の任務は、この国を滅ぼすことだ。配下の者たちが、どれほど死のうが構わない。それに、我輩だけではない」
ダークロードが指を鳴らす。その合図を待っていたかのように、天井から二つの糸に巻かれた物体が落下し、床の上で止まった。
「王、ロンディーニャ姫!」
二人は、まるでミノムシのように天井から吊り下げられていた。糸を作ったのは、天井を這っている女郎の頭部をした巨大な蜘蛛だと、ギンタが指摘した。
ロンディーニャ姫の居場所を突き止めるために、ペコは魔術で地図を使用する。部屋の床に居るか天井にいるかまではわからないのだ。
「……アキ……ヒコ……」
釣られた姫が、うっすらと目を開ける。全身が糸で巻かれたまま、首から上だけが露出している。
「姫! いま助けます」
「頼むぞ、アキヒコ」
王が呟いた。勇者アキヒコは、火事場の盾と雷鳴の剣を構え、玉座に向かって床を蹴った。
「生命の力よ、闇をうちはらえ。エナジークラッシュ」
魔術師ペコの魔術がダークロードの前で爆発する。アキヒコが飛び込んだ。
ダークロードが立ち上がっていた。雷鳴の剣がダークロードの腹に吸い込まれる。
「人間の武器など、我輩には……なんだ? これは?」
「アキヒコ! 続けて!」
「エナジークラッシュ!」
アキヒコは、魔力を制御せずに魔術を解き放った。
ダークロードの体が吹き飛ぶ。同時に、アキヒコも飛ばされた。
すぐに態勢を立て直す。だが、膝が笑った。足がもつれ、床に突っ伏した。
ダークロードが宙を舞う。アキヒコの目の前に降りる。
ギンタのハンマーが唸り、アキヒコの背中を打ち付けた。
「ギンタ?」
「仕方あるまい」
「そうね」
言いながら、ペコが短剣でアキヒコの体を突き刺す。
「お前ら……何をしている?」
勇者の仲間のあまりの凶行に、忌むべき者たちを統率するダークロードが訝しんだ。
「アキヒコ、逃げて! ペコとドワーフが裏切りました」
ロンディーニャ姫が拘束されたまま叫ぶ。だが、ペコとギンタは正気だった。
アキヒコの血がたっぷりと乗った短剣とハンマーを、ダークロードに叩きつけた。
「エナジークラッシュ……10連」
アキヒコの渾身の魔術がとどめとなった。魔王ハルヒの召喚した幹部の一人が消滅し、勇者アキヒコは失神した。
血の流しすぎである。




