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1 プロローグ 100日間の始まり

今日から100日間、掲載します。お愉しみ頂けると嬉しいです。

 女神ソネックは不満だった。

 自分の守護する世界が、あまりにも平穏で豊かであることに。

 戦争も疫病もなく、植物はよく育ち、魔物も大人しい。


 人間は世界のあり方に満足し、進歩をやめた。

 神々の集まりがある。

 ある神は人間に捧げられた高級スイーツを自慢し、ある女神は人間が開発した化粧品を見せびらかした。


 女神ソネックは、十分なお供えと信仰を得ていた。

 だが、お供えの質はずっと変わらず、量は徐々に減っていると思っていた。 

 人間たちが満足してしまっているため、文明は発展せず、熱心に信仰を捧げることを強要できるほどの困難も存在していない。


 ある神は言った。魔王を妥当するため、人間は切磋琢磨する。

 ある女神は言った。他の世界から勇者を連れてくることで、人間たちの啓発になる。

 女神ソネックは見つけた。


 幸せの絶頂にあった男女の魂が、魂だけが、ある世界を離れようとしていた。

 女神ソネックは、本来いるべき世界から弾き飛ばされた魂を、両手で鷲掴みにした。

 まだ、魂はその世界と切れてはいない。ごく細い線で繋がっていた。


 女神が観ると、二つの魂は夫婦だった。

 新婚である。

 どのぐらい新婚かというと、新婚旅行に出かけた直後であるというぐらいの新婚ぶりである。


 高速道路を移動中、前のトラックから転がり落ちた大量のバナナを踏み、スリップして三回転半空中で回った挙句、道路に叩きつけられたのだ。


 それでも即死ではなかったのは、シートベルトとエアバックの力であり、一命を取り留めそうなのは、高速道路上の派手な横転であったため、救急車の到着が早かったことによる。

 女神ソネックは魂に告げた。


「貴方達の肉体は、100日後に死にます。それが、貴方達の世界の神が定めた天命です。ただ……私には、その天命を覆す力があります。ただでとは行きません。私の守護する世界に趣き、仕事をしてもらいます。その仕事の成果によって、貴方達の世界の神が定めた天命を変更しましょう」


 女神ソニックが鷲掴みにしていた丸いほわほわした不定形の魂が、男女の姿になった。

 魂に人格が宿ったのだと女神は理解した。

 つまり、女神の話を聞く準備ができたのだ。


「仕事とは、なんでしょうか?」


 女性の姿をとった魂が尋ねた。

 女神が言ったことを正確に理解していることがわかった。


「私が守護する世界に、勇者か魔王として降り立ちなさい」

「どちらでもいいのですか?」


 男性の形をとった魂が尋ねた。


「構いません。勇者生じれば魔王が生じ、魔王が生じれば勇者生まれん。神々の間で言われていることです。勇者と魔王は、表裏一体の存在なのです」

「今は、どちらもいないのですか?」


「残念ながら、私の守護する世界は平穏で豊かなのです」

「どうして……勇者や魔王が必要なのです?」

「私への供物……間違えました。世界の進歩のためなのです」

「「……はぁ」」


 なぜかこの時だけ、二人の声が揃った。


「天命に干渉するだけとは言いません。仕事をする以上、報酬が必要でしょう。私の世界に勇者、あるいは魔王として降臨したのであれば、ふさわしい能力を授けます。元の世界に戻る時に、私の世界で得たものを3つ、元の世界に持ち帰れるよう計らいましょう」


「春日、いい話だと思う」

「そうね、秋彦さん。受けなければ、どうせ死ぬだけなんだもの」


 魂どうしが手を取り合う姿を、女神は満足して見つめていた。


「さあ、選びなさい。勇者か魔王か」

「勇者でお願いします」「魔王がいいです」


 二人が同時に言った。

 秋彦は勇者を、春日が魔王を選んだ。


「はっ?」「本気?」

「選び直すことも……あっ……やっちゃった……」


 女神はうっかり、魂を掴んでいた手を離してしまった。

 女神の手を離れ、魂は飛んでいく。

 二人がいた現代世界とははるかに遠く、女神ソネックが守護する世界に。


「……まあいいか。どうせ100日だけなのだし。人間側にとっても、魔族側にとっても、いい刺激でしょう」


 女神ソネックは、100日後、自分への捧げものが進化することを夢見ていた。


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