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召喚した勇者が自室から出てこない! 〜召喚ガチャに失敗した王国の末路〜

「勇者様、どうか話を聞いて下さい!」


ドアの向こうからは何の反応もない。勇者様が自室に引きこもってもう3日目。私がどんなに呼びかけても音沙汰なしだ。


「もう!聞こえてるんでしょ!」


私は思わずドアの前で悪態をついてしまった。


「勇者様が気を悪くなされます……控えてください」


「……どうして、こんな男が召喚されたのよ……」


「ルクア様。召喚の儀は神の命で行ったものです。それ以上の発言はクルセハ教の司教として認められません」


マルド司教がゆっくりと諭すように言った。私だってわかっている。神の声は王国全土、いや世界中に響き渡ったのだ。神が魔王の復活に備え、各国に勇者の召喚を求めたことはスラムの孤児だって知っている。


だから、私はこんなにも困っているのだ。


「……勇者様。ごめんなさい」


やはり反応はない。


「まだ時間はあります。勇者様だって、きっと分かってくれますよ」


10日後には各国が召喚した勇者が一堂に会する式典がある。


大陸で最大の勢力を誇るシンプリア王国。その第一王女である私が勇者を召喚したのだ。大陸中が注目している。何としてでも、ドアの向こうにいる勇者様を引き摺り出さなくてはならない。


「……そんなに時間はないのだけどね……今日はここまでにしましょう。おやすみなさい、マルド司教」


「では、失礼致します」


何日も碌に寝ていなかった私は、自室に戻るとすぐに意識を手放した。



#



「──פִּין פִּין פִּין פִּין פִּין פִּין פִּין!」


最後の詠唱を終えると、巨大な魔石が粉々になって消え去り、召喚陣から伸びた光が天を突いた。魔石に100年以上の永きにわたって貯め込まれていた魔力が、一気に召喚陣に流れ込んだのだ。


天に伸びた光はやがて収束し、召喚陣の中央に男が現れる。


「勇者様!」


思わず叫んでしまった。男は下を向いたまま、反応がない。しかしその手の甲には言い伝え通り、勇者の証たる神の刻印が見える。間違いなく勇者様だ。


「……勇者様?」


召喚陣には様々な神の恩恵が刻まれている。この星の言語や一般常識、魔法やスキル等も授けられる。私の言う事も理解出来ている筈。


「私はルクア。このシンプリア王国の第一王女です」


「……はぁ」


伸び放題でボサボサの髪が顔にかかって表情は見えない。


「クルセハ神の命により、私が勇者様を召喚しました。魔王の復活が迫っています。どうか、私達に力を貸してください」


勇者様は急に挙動不審になり、ボソボソと何か言っている。


「いかがなさいました?」


「……えっ、いや、なんというか、それ、僕じゃないと駄目なんですか?」


どうやら勇者様は不安な様子。


「ご安心下さい。お一人で戦うわけではありません。各国が召喚した他の勇者達と一緒です」


「……他の人と一緒……」


「何か?」


「……ちょっと、疲れちゃうんですよねぇ。そーいうの」


どういう意味だろう?とにかくお疲れなのは間違いない。


「勇者様はお疲れのようです。お前達、勇者様をお部屋に案内しなさい」


これが、間違いだったのだ。



#



「……ア様」


「…クア様」


「ルクア様!」


目の前には長く私に仕えている女官の顔がある。


「……なに?」


「ずっと起きてこられないので、お部屋に失礼しました」


「私、そんなに寝ていたの?」


「はい。もう夜です」


随分と時間を無駄にしてしまった。


「勇者様は?」


「特に何も聞いておりませんけど……」


少しでも期待した自分を引っ叩きたい。


「そろそろ夕食のお時間です。こちらにお持ちしますか?」


「そうして頂戴。あなたも一緒に食べましょう」


「ご一緒します」


予め用意していたのだろう。女官は2人分の夕食の乗ったワゴンを押して部屋に入ってきた。


「ねえ、どうしたら勇者様は部屋から出てきてくれると思う?」


「さて、お腹が減ったらですかねぇ」


女官はスープを上品にすすった。


「勇者様、どうやっているか分からないけど、食べ物を手に入れているようなのよね」


「魔法ですか?」


「でしょうね」


「そんな魔法が使えるなんて、凄い勇者様なのでは?」


「だとしても、部屋から出て来てくれないと……」


「では、勇者様のお部屋の前で演劇でもさせましょうか?気になって出てくるかもしれませんよ?」


「もうやったわ。演劇も曲芸も」


「そうだったのですね……」


「……はぁ」


明日こそ、勇者様の心を開かなくては。もう本当に時間がない。このままではシンプリア王国の沽券に関わるのだ。


「あっ!では、こういうのはどうでしょう?」


急に何かを思い付いた女官は、楽しそうに話し始めた。

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