【没作品】ヤクザ転移4
さっきまで人間の女だったモノが、黒くヌラヌラとした物体に変わっていた。それは地面に溢れたタールのようにドロリと広がり、ドクドクと脈打っている。
「魔人よ!」
エミーリアが叫ぶと、騎士達が一斉に剣を抜き黒い物体を取り囲む。
「坊ちゃん!」
「恭司!」
パレードの後ろにいた緒方と鮫島が騒ぎを聞きつけ、若衆達とやってきた。
「どうやら厄介事らしい。人間の女に化けた魔人だとよ」
そう説明すると二人は険しい顔になり、懐から拳銃を取り出した。若衆達も同じようにそれに続く。
「もう親分はやらせねぇ」
鮫島がギョロ目を充血させて黒い物体を睨む。ボコボコ沸き立ち、それは大きく吹き上がった。そして人の形になる。
「愚カナ人間ドモヨ! ココデ勇者ヲ亡キモノニ──」
──撃て! という鮫島の合図に乾いた音が幾つも連なる。
タール魔人は体を穴だらけにしてするが、ダメージは無さそうだ。
「異世界ノ銃器ナド効カヌワ!!」
「キョウジさん! 魔人には聖なる魔力を持った攻撃が有効です! 聖剣を!!」
結局、オヤジがやるしかないってことか!?
「オヤジ、その黒いヤツを斬れ! 魔力を込めるんだ!!」
「ノー! ノー!」
オヤジは首を振る。
「フハハハハッ! 当代ノ勇者ハナカナカ見込ミガアルナ。コチラノ世界ニ連レテコラレタショックデ狂ッテシマッタカ? 苦シマヌヨウニ一撃デ仕留メテヤロウ」
タール魔人の右腕が槍のように鋭くなる。そして、空気を巻き込むように激しく回転を始めた。凶悪なドリル……。
「怯むな! 撃て!!」
鮫島の号令に若衆達が一斉射撃を浴びせるが、ただ穴が開くだけで足止めにすらならない。
騎士達はエミーリアを守る為に馬車を囲んでいる。まぁ、そうだろう。王女が大事に違いない。緒方や鮫島が必死にオヤジを庇おうとしているのと同じだ。
「ドケッ!」
魔人の左手が鞭のようにしなり、オヤジの周りにいた若衆を払い除ける。
オヤジと魔人が対峙した。
「オールオッケー!」
「死ネ! 異世界ノ勇者ヨ!!」
ズドンと地面を揺らす踏み込み。
「「親分!!」」
緒方と鮫島の悲痛な声。
「オヤジィィ!!」
黒い槍がオヤジの胴体を貫いていた。
「バスロマンンン!!」
えっ……!? 聖なる魔力に覆われ、青白く輝く聖剣が勢いよく振り下ろされる。オヤジ……動けるのか……!? そして──
「ギャアアアアア嗚呼……!!」
まさに断末魔の叫び声。タール魔人の体は聖剣の軌道通りに消し飛んでいた。
聖剣は二度三度と振り下ろされ、黒いタールは地面に小さなシミを残すのみとなった。
──静寂。
「……勇者リュージが、魔人を討ち取りました……!!」
エミーリアの勝名乗りが爆発的な歓声を呼び込んだ。先程の何倍もの花が広場に投げ込まれる。
オヤジは何を思ったのか、それを悉く聖剣で斬り落としているが、まあいい。とりあえず元気みたいだ。
「キョウジさん、ありがとうございます」
いつの間にか馬車から降りていたエミーリアが、俺の横に立っていた。
「礼はオヤジに言ってくれ」
「ちょっと今は危なくて近寄れないので……」
確かに。聖剣のシミになりかねない。
「さっきの魔人。あれは魔王の手下なのか?」
「そうです。暴虐のバトラと呼ばれていた、魔王軍幹部の一人です」
幹部が直接襲ってきたのか……? 普通は下っ端が鉄砲玉として襲撃をする筈だが……。
「もしかして、ウチのオヤジ、強い?」
「……ええ。一撃で魔人を吹き飛ばす勇者なんて聞いたことありません……!」
「あれ、期待しちゃってる?」
「きっと魔王も倒せますよ! キョウジさん、お願いします!」
キラキラとした瞳が俺を見上げる。あれ、可愛いぞ。しかも胸元の空いたドレスから豊満な双丘が俺を誘っているぞ……!? これもう、セックス始まってないか……!?
「今、エミーリアのことが好きになった。付き合ってくれ。そしたら考える」
「はい……!?」
「エミーリアが俺の彼女になって、一発やらせてくれたら、魔王討伐を検討する」
「ちょ……な、何を言い出すんですか……!?」
護衛の騎士達がざわめき、さっと俺とエミーリアの間に入った。
「俺はセックスの邪魔をされ、怒り心頭の状態でこの世界に転移させられたんだ。可哀想だと思わないか!?」
「坊ちゃんの色馬鹿が始まった!」
「恭司、相手は王女だぞ!」
緒方と鮫島が俺を止めようとするが、そうはいかない。
「五月蝿え! ボンクラども! 俺はエミーリアに聞いているんだ! エミーリア、俺と付き合って平和を手に入れるか、処女を守って魔王に滅ぼされるか。選べ!!」
エミーリアは周囲を見渡す。
騎士達が、民衆達が、どのような決断を下すのか息を呑んでいる。
ヤクザ共は、ニヤニヤと下卑た表情だ。
「わかりました……! 私はキョウジさんと付き合います!」
ォォォオオオオオオオオー!!
聴衆が騒ぐ。
「よし! じゃぁ、今晩さっそく──」
「ただし! セックスは魔王を倒してからです!」
「何故だ……!?」
「WHY……!?」
オヤジが加わってきた。とてもうざい。
「だってキョウジさん、一回セックスしたらすぐ私に飽きたとか言いそうなんですもの」
「バレてますよ〜坊ちゃん」と緒方達が囃し立てる。
ふん。いいだろう。
「分かった! 俺はエミーリアとのセックスの為にオヤジを操り、魔王を倒してみせる!! 皆んな、応援してくれ!!」
ォォォオオオオオオオオー!!
何故だか盛り上がった。




