お前は話が通じない!! と天然聖女を追放したのに、翌日には戻ってきて困ってます……。どうすれば分かってもらえますか?
「聖女クレア、お前をパーティーから追放する」
俺の言葉を聞いて、十七歳の少女クレアは琥珀色の瞳を丸くした。そしてパーティーメンバーの顔を見渡す。
「えっ、アレス君にミーミルさん。あと、えーっと……」
「ヘルグだ! 何度言えば覚えるんだ!」
若手ナンバーワンのタンクとして知られるヘビーナイトのヘルグが声を荒げた。酒場の喧騒が一瞬鎮まり、またすぐに賑やかになった。
「ヘルグさんでした……。すみません。あの、なんで私はパーティーを追放なんですか?」
それを聞いて氷の魔女、ミーミルがため息をついた。
「……簡単に言うと、話が通じないからよ」
「えっ。私はいつもみんなの為を思って……」
「……そう言うところよ。昨日のレッドドラゴン討伐のことを覚えてないの?」
クレアは曖昧な笑顔を浮かべて黙り込む。都合が悪くなるといつもこの顔だ。
「昨日の作戦はこうよ。先ず、最初にクレアはヘルグにだけ防御魔法、ホーリーウォールをかける。ホーリーウォールをかけられた者は防御力が大幅に向上すると共にモンスターからのヘイトが増す」
「つまり、俺にレッドドラゴンの攻撃を集めている間に、アレスはユニークスキル【愚者の天秤】を使う。防御力を捨て、攻撃力を五倍にした斬撃で、ドラゴンの硬い皮を切り裂き──」
「露出した竜核に私が氷結魔法アブソルート・ゼロを叩き込む。これで終わりの筈だった……」
クレアは相変わらず困ったように笑っている。
「でも、いざ戦いが始まるとクレアはなかなかホーリーウォールを唱えない。そして、やっと発動したかと思うと、ヘルグとアレスにホーリーウォールをかけた。かけてしまったの。おかげでアレスは紙防御のところにドラゴンの薙ぎ払いを食らって死にかけたわ!」
昨日の状況を思い出したのか、ミーミルは熱くなった。
「私、そんなことを……」
「とぼけるな!」
ヘルグが再び声を荒げた。
「……ヘルグ。もういい。最終的になんとかなったし、クレアのオールヒールで俺は今も生きている」
「……ごめんなさい」
クレアは下を向き、声を震わせている。
「昨日が初めてってわけじゃないわ。ここ最近、どんどん作戦無視が酷くなっている。あなたのせいで、私達は何度も危ない目にあっているのよ」
ミーミルが冷たく言い放った。
「……わかりました。私はパーティーから去ります。……最後に皆さんに祝福を……。【ゴッド・ブレス】」
クレアの身体に光の粒が集まったかと思うと、それは俺とヘルグ、ミーミルに降り注いだ。それはとても美しく、何処か儚い。その光の粒がなくなった頃、クレアは席を立って酒場から出ていった。
「仕方のないことよ。これ以上一緒にやっていたら誰かが死んでいたわ」
「そうだ。冒険者ってのはお情けでやるもんじゃねえ。それに俺達はS級パーティーだ。クレアの穴なんてすぐに埋まるさ」
「……あぁ。分かっている。先に進むには必要だったんだ」
俺はひどく苦いエールを飲み干した。
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冒険者の朝は早い。
やっと夜が明けようという時間なのに、木漏れ日亭の食堂は早くも活気に溢れている。
俺達がいつも座るテーブルにはまだ誰もいない。俺が一番乗りのようだ。
テーブルについて女給に合図を送ると、朝食が置かれる。焼きたての白パンにマッドブルの肉がゴロゴロと入ったスープだ。
ミーミルは「S級パーティーなんだからもっと良い宿でも……」なんていうが、俺は木漏れ日亭の料理が好きだ。リーダー権限でここを定宿としている。
「早いな。アレス」
ヘルグが豪快に椅子を引いてテーブルにつく。
「おはよう。二人とも」
朝が弱いミーミルが気怠そうにテーブルについた。
「皆さん、おはようございます!」
元気いっぱいのクレアがぴょこんと椅子に座った。
「「「……」」」
どういうことだ? クレアは昨日の話を理解していないのか?
「どうしたんですか? 皆さん、不思議そうな顔をして?」
「……クレア、あなた。昨日のこと……」
「あぁ、昨日の酒場のお肉美味しかったですねー。また食べたいです!」
その屈託のない笑顔に俺達三人は何も言えなくなってしまった。




