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花粉症のない世界に行きたいと叫んだら異世界に飛んだ件

作者: 小田 ヒロ

 最悪だ。

 眼はしゅぱしゅぱ、鼻水は垂れっぱなし、鼻の奥が延々に不快、くしゃみばかりしてるが鼻奥はちっともスッキリしない。喉は乾くし頭の右後ろがガンガンする……眠れてないから思考力だだ下がり。

 先週もらった耳鼻科の薬、数日は効いていたが今は効果なし。身体が慣れたのか、花粉がいよいよクライマックスに入ったのか?

 耳鼻科の先生の言葉を思い出す。

「うーん、スギにヒノキにブタクサにハウスダスト、全部アレルギー反応出ちゃったねえ。これは日本に住んでる限り治らないよ。諦めて?」



 ヤバイ!車で営業途中だってのに、くしゃみして追突しそうになった。やべえよ。運転なんて無理だって!でも、

「花粉症だから休みます、はいそうですか!、ってなるかっつーの!」

 オレはヨロヨロとコンビニにたどり着き、メンソールが目一杯効いてそうなドリンクを一気飲みする……解放時間はたった2秒?


「チッキショーーーー!花粉症のない国に行きてーーーーえ!!!」



『あ、私の世界、花粉ないけど来る?』

 突然、保険の勧誘のようなおばさんの声が耳元で聞こえた。軽の営業車の中はどう考えてもオレ一人。いよいよ幻聴まで聞こえるよ……。


『幻聴じゃないわよー!ねえねえ、私の世界に呼んであげようか?そのかわりドラゴン倒してもらうけど!』


「行く!花粉さえ無けりゃどこでも行く!何でもする!頼む!オレをおばさんの世界に連れてってくれ!』

『…………なんか案外簡単に釣れちゃったわね、じゃ、りょうかーい!』


 地球の田中大作はまばゆい光に白い営業車ごと包まれた。


 異世界ナシカーフンでダイサックという勇者が誕生した!




 ◇◇◇




 おばさん女神の世界は荒廃していた。軽自動車と共に降り立ったサバンナのような荒野には動物とも人間ともわからない、白骨化した骨がそこここに散らばっており、生命の痕跡は見当たらない。


 ダイサックは怖々とドアを開け、異世界に降り立った。恐る恐るマスクを取る。途端に土やら何やらが焼け焦げた刺激臭が鼻をつく。


「う、うう………なんだこの匂いは……う……うふふふ……や、やったぜーー!嗅覚戻ってるーう!鼻ムズムズしなーい!くさーい!でも頭スッキリー!涙も止まったー!カンドー!女神様、ありがとーーーー!」


『ど、どういたしまして……』


 車に戻り、るんるんと、最近つけられなかったコンタクトレンズをつける。おお!二か月ぶりに視界がハッキリした!


 フロントガラスから前方を見ると遠くで煙が立ち上っている。あそこに人かドラゴンかいるか、温泉があるに違いない!オレは〈(株)テクノロジー〉のシールがボディのあちこちに貼ってある営業車を相棒テクちゃんと名付けた。

「テクちゃん!行くぜ!」

 エンジンをかけ、オレたちは走り出した。花粉のない土地に敵などいない!





 二時間ほど……渋谷から御殿場までくらい走ると、真っ赤なドラゴンが火を一面に吐いているのが目視できた!身体はそうだな赤いし東京タワーくらいだ。スカイツリーほどではない。ノープロブレム!

 その東京タワーの足先に、ちっぽけな人間が一人座り込んでいるのがスッキリした(←ココ重要)コンタクトレンズの瞳に写った。

『ああ、まだ人類が残っていた!助けてあげて、ダイサック!!!』


「うおおおおい!行くぜテクちゃん!」

 オレはハンドルのチャージボタンを押した!テクちゃんが今日の最速で走る!ドラゴンまで50mというところでキキキッと急ブレーキ!営業カバンを持って降りる。


 オレを早速見つけたドラゴンが、ガオッーっと炎をオレに向かって吐き出した!が、しかし、花粉さえ含まれていないなら、こんな炎なんてことない。オレはカバンから三段式折畳み傘をパッとボタン一つで広げ(←めっちゃ便利、でも畳むのなんかメンドイ)、鮮やかにガード!そしてマイナスドライバーをドラゴン目掛けて投げつけた!やった!左目に命中!コンタクトをつけたオレは無敵だ!


 悶え苦しみ大口を開けて炎を吐くドラゴンを眺めながら、オレはカバンから調剤袋を取り出す。中にはもはや無用の長物となった、先週処方された山程の抗アレルギー剤!


「これで終わりだあああ!!!」

 オレはアルミから出すこともなく、二週間分の薬の束をドラゴンの口に放り込んだ!!!


「ウギャアアアア!!!」

 ドラゴンが泣き叫ぶ!口から血が流れている。あのカプセルの入ったアルミの角っこで口内を切ったのだろう。少し非道過ぎたか?お、調剤袋に再び薬が満タンに入っている。まだまだオレに花粉症を忘れさせないつもりだな……おのれ……。


 オレには全く効果のなくなった抗アレルギー剤だがドラゴンにはズバリ効いた。やはり花粉より弱いな……。

 ドラゴンは身体をよじると、もう一度大量の血を吐き、ドシャーンと倒れ、息絶えた……。


『まさか……召喚したその日にバーストドラゴンを倒してくれるなんて……ありがとう!ダイサック!!!』

「いえいえ花粉のない世界に連れてきてもらったんです。このくらい当たり前のことです!」

 オレは姿なき女神に向かってニパッと笑った。おう、口からも息できる!最高だ!


「あ、あの……」

 おっと忘れていた人間A。ぼろぼろで衰弱はしているが大した怪我はなさそうだ。

「大丈夫ですか?ごめん、オレ大したもの持ってないんだけど、水もないしな……これでも食べて元気だして」

 オレは営業ジャンバーのポケットから〈鼻スッキリキャンディー〉を出して、包みを開けて彼?の口に入れた。


「こ、これは……ううっゴホゴホゴホ……」

 おっと素人にはきつすぎたか、辛さ☆☆☆☆☆だったからな。彼?はすっかり涙目だ。すまん。


 急に彼?身体が光り、薄汚れていたものが一枚剥がれ、緑の髪がきらめき腰まで伸びてその髪の下からとんがった耳がのぞいて……背中から立派な翼が生えていた。


『え、ウイングドラゴン?』

 女神も衝撃を受けている。さっきの赤いのに比べると人型に近い。女性だったのか?ダイナマイトボディー!ハリウッド女優みたいだな……なんて洋画なんて見ないくせに知ったかぶりしてみる。とっても美形だ。でもドラゴンなんだ。


「ああ、あなたの下さった〈神の雫〉のお陰で呪いが解け、翼が解放されました。ありがとうございました」

「いえいえ花粉に比べればいかほどでもない」

「私はウイングドラゴンの長、空の覇権争いをしていたバーストドラゴンが呪いという禁じ手を使い……我らは翼をもがれ地上で戦わざるをえず……」


『なんて迷惑な!』

 声だけ出演のおばちゃん女神が苛立った!


「あなた方が地上戦をしたために地上が荒れてしまって、女神様は大変ご立腹ですよ?」

「やはりあなたは神の召喚した勇者なのですね!ああ、古代の文献に乗っていた通りだ!ウイングドラゴンが危機に陥ったとき、勇者がつるんとした乗り物でやってきて我らを救うと!」

 テクちゃん、神話に登場してるのか?すげえな。


「この地は我ら一族が誠心誠意元に戻しますので、女神様、怒りを抑えてくださいませ。さあ、勇者様、われらの里にお越しくださいませ。里の者全て伝説の勇者を歓待いたします」

 超絶美人が目を潤ませてオレを誘っている!!!ほんっとここいいとこだよ。異世界万歳!


「ここから遠いの?テクちゃんでどんくらいかかる?」

「我らの里は天空の一年中風が通る、この世の全ての花が咲きほこる場所にあり……」


「無理!」

「は?」

「一年中風が通り、全ての花の花畑、超無理!」

「え?」


 ブルブルルーン!!!

 オレはテクちゃんに乗って走り去った。


『ぎゃあー!ダイサックー!大変!南に魔王が復活したわ!助けて!』

「りょーかーい!!!!」



 ◇◇◇



 いけいけ勇者!ゴーゴーダイサック!異世界ナシカフーンの平和を守るのだ〜!!!








おかしなテンションで書いたのでおそらく質問には答えられません……

文中のドクターの言葉は作者が言われたそのままです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふはははははっ! 勝った!! 私はスギ、ヒノキ、ブタクサ、イネ、キク、セイタカアワダチソウ、ハウスダスト、ダニの全てに反応した!! 一年中、花粉症だーーー!チクショウーーーー!! そして…
[一言] 花粉症の季節なので来ました!wこの時期は辛いですね。 しかし主人公は気づいていない。ハウスダストは花粉ではないことを……。むしろ埃は現代日本よりすごそうだけど、大丈夫かなあ。 あと、花粉だけ…
[良い点] これほど動機に共感出来る異世界転生物は初めてです。 良いなぁ。 車社会なので、眠気が来る花粉薬と踏切や緊急車両の音がした時に窓を開ける事による前を見れなくなる目のかゆみはほんと困ります……
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