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平凡騎士の英雄譚  作者: 狛月ともる
第一章 英雄譚の始まり

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第一章25 『絶対砲撃』



 城門前まであっという間に辿り着いたラウルは、城壁の上に行く為に壁を踏み場に蹴り上げて自身の体を上へ上へと持ち上げる。

 通常ではありえない登り方で城壁の上へと突如現れたラウルを、そこに居た兵士が唖然とした表情で見ていた。


「お、お前どこから登って……その騎士服は第二騎士団じゃないか!」


「自分でもおかしいのは分かってるから細かい事は気にしないでくれ、頼む。それより、今の状況はどうなってる?」


「あ、ああ……第一騎士団が付かず離れずで応戦してるんだが、どうも芳しくねえな。とはいえ、まだ城壁に取り付かれてないだけマシだがな。そこは騎士団が注意を引いてくれてるおかげだ……見てるだけでも俺達には手に負えない事が分かるぜ」


 そう言って兵士が視線を送る方向を見ると、城壁から程なく離れた場所で火竜と思わしき化け物がいた。

 その巨体はどろどろに腐敗していて、ところどころから白い骨が見え隠れしている。

 ラウルが知っている火竜の原型を留めていない。その変わり果てた姿に、そんな事がまかり通ってしまう死霊術という魔術に嫌悪感を抱いた。

 これは死者への冒涜だ。火竜自身の意思は知らないが、屍を弄ばれ、あげく操られるなど到底許される事ではない。


 そんな火竜に向かって、距離を保ちながら魔術を一斉に放つ集団が見えた。

 率いているのは第一騎士団団長であるマクルス・ハーデルムだ。

 対する火竜が吐く毒霧を警戒して、魔術による遠距離攻撃に終始している。

 しかし、火竜の動きは止めれてはいるが決め手に欠けているように見受けられた。


「ずっとあの調子だが、じり貧もいいとこだ。このままだと騎士団の魔力の底がついちまう。なああんた、第二騎士団の騎士だろ? 第二騎士団は何してるんだ?」


「こちらには来てないのか? 悪いが、俺は単独で動いている身だから騎士団の動向は把握してないんだ」


「くそっ、どうにかなんねえのかよ……」


「任せてくれ――俺が何とかしてやるさ」


 兵士の毒吐きに対し、ラウルは兵士の肩を叩いてそう言った。

 そんなラウルの言葉を兵士は鼻で笑い飛ばす。


「へっ、騎士一人でどうにかなる相手じゃ――ってお、おい!」


 兵士の言葉を遮るようにラウルは城壁の上から空中に身を投げ出し、その視界から姿を消した。

 身体強化(ブースト)された体は頑丈でしなやかであるから、高い位置から飛び降りる事は造作もない事である。

 地面に着地したラウルは、そのままの勢いで騎士団の方へと駆ける。


「あ、ありえねえ……何者だあの騎士」


「俺は見た事あるぜ。確か知り合いの騎士が言ってたが、騎士の間で『平凡騎士』なんて渾名で呼ばれてるらしい」


「『平凡騎士』だあ? 今の人外じみた芸当をした騎士がか? 何かの間違いだろ」


「なんでもそいつの実力が騎士の中での基準になっているらしいけど、確かにあれが基準ってのは信じがたいな……」


 ラウルの行動に唖然とする兵士達は突如現れた一人の騎士がどう戦況を変えるのか、僅かな希望をその心に灯し見守る事にした。






 騎士団を率いるマクルスは、見当違いの方向からこちらに向かってくる一人の騎士に気が付いた。

 黒い騎士服を着たその男が第二騎士団所属の騎士である事は分かるが、何故ここに一人で現れたのかは不明だ。

 第二騎士団は王都内で発生したという化け物の討伐と住民の避難を担当している筈。

 

「そこの騎士よ、何をしに来た! ここは第一騎士団である我らが受け持つ戦場である! 第二騎士団は王都内の防衛ではなかったのか?」


 そう問われたラウルが馬上のマクルスの近くで膝をつく、


「突然の介入、失礼します! 私は第二騎士団所属、二等騎士ラウル・アルフィム。故あって今は騎士団から単独行動しています。 第二騎士団は王都内の防衛との事でしたが、その原因たる不届き者は私が討伐しました。時期に王都内の混乱は収まるかと。今対峙しているあの火竜も、恐らくそれに関係したものと思われます」


「ガイルの倅か。しかし火竜……だと? 貴公はあれがなんなのか分かるのか?」


 父の事を知っている様子のマクルスに驚き目を見開くが、話を続ける。


「はい。今はもう原型を留めていませんが……あれは以前私が討伐した屍が禁忌魔術である死霊術によって動いています。術者は討ち取ったのですが、何故か動きは止まらず」


「死霊術……! なるほど、それで貴公はここに来たという事か……しかし、術者が死んだのにも関わらず動いているのはどうしてだ」


「恐らく……死霊術よりも火竜を縛り付ける力を持った者の支配下に置かれているからだと思われます。その者の居場所には見当がつかず、火竜そのものを倒すしか止める術はないかと」


「むう……とはいえ、我らの攻撃は動きを止める事は出来ているが一向に倒れる気配がない。かといって近づけば毒の霧の餌食となる」


 マクルスは鋭い眼光を火竜に投げつけながら、歯噛みするように現状の厳しさを吐露する。

 ラウルも火竜を観察する。魔術が直撃して肉片を撒き散らしているが、ラウルの強化された視力でよく見てみるとその傷の奥から肉が盛り上がって新たな腐肉が生み出されている。

 どうやら、屍であるのに再生能力に長けているようだ。

 魔術の集中砲火を食らい続けてなお、倒れずにいるのはその再生能力が原因だろう。

 そうなると、ラウルが近づいて斬撃を与えても倒すことは難しい。

 いくら身体能力が強化されているとはいえ、次から次へと再生されては手数が間に合わない。

 ラウルにも今の火竜を倒す術は思いつかなかった。

 考え込んでいると、この場でラウルにしか聞こえない声が響く。


『あの再生能力は厄介だけど、要は火竜に再生させる隙もない程の威力の攻撃を与えればいいのよね』


「そうだけど……出来るのか?」


 小声でティルに返事をする。マクルスにはラウルの声は届いていないようだ。


『……あるわ。あたしが持つ三つ目の力なら、火竜を跡形もなく消し飛ばせる。けど……他の二つの力より契約紋の進行が速くなるし、ラウルの負担も大きいわ。それだけ大きい力なの』


 それを聞いてラウルは数瞬、瞑目して考えた後頷きで返す。

 元より、ラウルの手で火竜に引導を渡しに来たのだ。それはもちろんティルの力に頼る前提での決意であり、今更悩む事でもなかった。

 それが例え、身を蝕むものであったとしても――。


「マクルス騎士団長。私に火竜を倒す術があります」


「……何?」


 ラウルの決意に満ちた瞳を見返し、マクルスはしばし考えた後に言葉を続ける。


「貴公があの火竜を倒す力を持つだと? その自信はなんだ」


「いいえ、私の力ではとてもではないですが無理でしょう。ですが……この魔剣の力であれば、火竜を倒す事が出来ます」


「魔剣? それは……ああ、そういう事か。貴公は聖女の護衛に付いたと言われていたジークムントと一緒にいたもう一人の騎士だったのか」


「はい。何の因果か、魔剣と契約した身なのです。私には過ぎた力ですが、現状を打破するにあたっては私以外に火竜を倒す術を持つ者はいないかと」


 マクルスは目の前にいる若い騎士を改めて見る。

 父譲りの暗い茶髪に、真っすぐな性根が垣間見える瞳。

 一見、どこにでもいるような風貌の青年だ。とてもあの怪物を前に自分が倒す、などと言う気概を持つようには見えない。

 だが、彼は言い切ったのだ。魔剣の力だと前置きしたとはいえ、自分が倒す、と。

 マクルスは彼が騎士の間で『平凡騎士』と揶揄されている事は知っていた。

 かつて共に戦った戦友の息子であるから、その存在に気はかけていたのだ。


 彼にとって大きな決断なのだろう。

 マクルスにはこれが、彼が英雄の道へと歩み始める第一歩のように感じた。

 ならば、それを阻むのは無粋というもの。

 若く勇敢な騎士の意思を尊重するように、マクルスはその提案に承諾する。


「……いいだろう、ラウル・アルフィムよ。貴公が出来るというのなら、私はその意思を尊重しよう。やってみるがいい。貴公の勇姿を見届けてやる――援護は任せてもらおう」


「マクルス騎士団長……ありがとうございます!」


 マクルスに頭を下げ、ラウルは騎士団から離れていった。

 その後ろ姿を見届け、マクルスは騎士達を鼓舞する。


「誇り高き騎士達よ! 我らの底力を見せてやろうではないか! 若造に手柄を取られんように気張れ!」


 その発破に騎士達が威勢よく雄叫びを返し、魔術の勢いが増した。

 これで、しばらくは火竜の足は完全に止まるだろう。

 若い騎士に希望を託し、老練な騎士団長は不敵に笑みを浮かべた。






「ティル、啖呵切っちゃったけど絶対に倒せるんだよな?」


『勢いで言って後から不安になってどうすんのよ……心配いらないわ。あんたの魔力量なら十分な威力を出せるわよ』


 走りながら先程のやりとりに不安を覚えて弱音を吐くラウルに、ティルは呆れた声でその心配を一蹴した。

 火竜の正面には騎士団が陣取り、魔術によって足止めをしている。

 ラウルはそこから少し離れた場所に一人陣取った。


「……で、どうすればいい?」


『しばらく時間がかかるわよ。ラウル、あんたのありったけの魔力をあたしに注いで』


「了解!」


 魔剣を上段に構え、言われた通りに手から魔剣へと流すイメージで魔力を注いでいく。

 体内から失われていく魔力の感覚に眩暈がしてきた。

 それでも意識を強く持ち、魔力を注ぐのに集中する。


「まだ、か?」


 全力で魔力を注ぎ込むラウルの意識が飛びそうになる。

 ここで意識を失うわけにはいかないものの、体内魔力低下による症状がラウルの身に起こっていた。

 ぼやけた視界に、うっすらと変わり果てた火竜の姿が映る。

 まだ、気を失うわけにはいかない。火竜はなんとしてもラウルの手で倒さなければならないのだ。


『もう少し、もう少しだけ頑張って! よし、これだけの魔力があれば……! ――ラウル?』


 ティルの呼びかけに、ラウルはもう返す余裕も気力もなかった。

 魔剣の力の連続行使による反動に度重なる戦闘の疲労でラウルの体力も魔力ももうなにも残っていなかった。

 意識が混濁した中で脳裏に浮かぶのは、一人の少女の姿。

 キラキラと舞う金色の髪と月明かりの下で微笑を浮かべる少女。

 そんな光景を思い出していたラウルの背後に、不意に温かい存在を感じた。

 首に腕を回され、後ろから抱擁を受けるラウルの視界の端に、懐かしい紫色の髪が漂っているのがちらついた。

 鼻をくすぐるこの甘く優しい香りを覚えている。

 それは、ラウルにとってかけがえのない存在になりつつある――。


「――ティ、ル?」


『しっかりしなさい! 意識をしっかり持って! 準備は整ったわ。後はぶっ放すだけよ!』


「ああ、そっか……ティルが傍に居てくれてる気がしたわけだ」


『何言ってんのよ! 今は寝ぼけてる場合じゃないわよ』


「そりゃそうだ。ありがとう、ティル。お前は最高にいい女だよ」


『と、とと当然でしょ!? なに、急にどうしたの? 気でも触れたかしら……』


 意識は未だおぼろげだ。

 だが、最後にやらなきゃいけない事がまだ残っている。


「ティル、俺に力を貸してくれ――守りたい人を守れる力を」


『……ええ、あんたがそう願う限り、あたしはそれに全力で応えてあげる。三つ目の力、とくと御覧なさい――絶対砲撃(アブソリュートシェル)!!』


 ラウルの契約紋が、そしてティルの宝石から今までにない程の光が迸る。

 そして真っすぐに構えた剣の切っ先に術式が展開され、そこから高密度の純粋な魔力の塊が撃ち出された。

 白く光る砲撃は火竜へと真っすぐに迫り、その巨体を丸ごと飲み込んでいく。

 砲撃が通り過ぎた後、そこには何も残っていなかった。

 全てを消し飛ばす暴力的な魔力の波動。

 火竜を消し飛ばした光景を視界に収めた瞬間、それを撃ち放ったラウルの意識は途切れ、その場で崩れ落ちた。


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