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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一日転移〜双子は水魔法使い〜

作者: 瀬口恭介

キーワード小説というイベントで書くことになりました。

ちょっと長くなってしまいましたが読んでいただけると幸いです。

キーワードは:双子・洞窟・犯す

です。

探してね!

 埼玉県に住んでいる双葉瑞斗(ふたばみずと)には妹がいる。妹の名前は双葉霧花(ふたばきりか)、瑞斗に顔がよく似ている。

 双子なのだから当然ではあるが。


 LHRが終わった瑞斗は隣のクラスの霧花を迎えに行く。

 たまたまなのか双子だからなのか瑞斗と霧花は今まで同じクラスになった事がない。

 霧花のクラスでは既にLHRは終わっているらしく、カバンを下げて歩く生徒がぽつぽつと教室の外に出てきている。

 瑞斗は教室の(すみ)で友達とだべっている霧花を見つけると、声をかけるために短く息を吸った。


「霧花、帰るぞー」


 瑞斗は短く言うと、カバンを肩に掛けて教室を後にする。


「あ、待ってよにぃに!」


 自分を置いて帰ろうとする兄を追いかけようと霧花は友達に早口でさよならと言うと兄めがけて廊下に飛び出した。


* * *


 瑞斗に追いついた霧花は並んで歩幅を合わせる。


「いやー、こうして並んで歩いてるとカップルに見えてたりするのかなー?」

「ないだろ、顔が似てるんだから兄妹だと思われてるはずだ」

「そだね、でもにぃに女顔だから姉妹だと思われてるかもよ?」

「それこそないだろ、制服着てるんだぞ」

「あ、そっか」


 そんなしょうもないことを話しながら帰路(きろ)についた。

 その日は車の通りが少なかった。

 そのせいか、瑞斗は車を危険視していなかった。


「にぃに! 青になるよ!」

「別にすぐに渡らなくてもいいだろー」

「もう! 先行くからね!」


 霧花は黄色信号が赤に変わる瞬間に走り出した。

 瑞斗の目には横断歩道を走る霧花とスピードを(ゆる)めずに走り抜けようとする赤い乗用車が写った。


「霧花!」


 瑞斗は霧花の手首を(つか)もうと手を伸ばした。


「にぃに!」


 瑞斗は霧花の手首を掴むと、自分側に引き寄せるために踏み込んだ。

 霧花はその掴まれた手を引っ張った。


「え」

「え?」


——その瞬間(しゅんかん)、二人の体は(ちゅう)に舞った


* * *


 目が覚めると、雲の上に立っていた。


「どこここ?」

「なんで!」


 妹よ、この状況でよくネタを入れられたな。

 別にたーのしーくないから。


「お、目が覚めたんだ」


 背後から声が聞こえた。

 その声を出した人を見ようと振り向くと、そこには金髪ストレートに白いヒラヒラした服を着た女性が立っていた。

 霧花は信じられない物を見たような顔をしている。


「あ、あなたはまさか……」

「女神です!」

「でしょうね」


 やはり女神だった。

 それもなんか軽いタイプの。

 霧花は緊張しながら質問していたが、だいたい予想はついていた。


「女神様、俺たちどうなったんですか?」

「死んだよ」

「そうですか……」

「え、死んだの!?」


 やっぱりな、つまりここはアニメとかでよく見る神様と話す空間ってわけだ。

 にしても死んだのか……短い人生だったな……。

 霧花はなんで死んでる可能性を考えてなかったんだ。


「と、見せかけて生きてます、バッチリね」


 女神はウインクしながら舌を出して親指を立てた。

 うっざ。

 その整った顔立ちでそんなことされたらそれはもうウザい。

 どのくらいウザいかと言うと音ゲーやってる時にスタンプ連打されるくらいウザい。

 通知オフにしてない俺が悪いね。


「生きてる……車にはねられて死んだんじゃないんですか?」


 俺がそう言うと霧花はうんうんと首を縦に振った。

 君はもう少し喋った方がいいって瑞斗思うな。


「確かに君たちは車にはねられたよ、でも死んじゃいない」

昏睡状態(こんすいじょうたい)……?」

「そう、今君たちは病院のベッドの上で意識不明(いしきふめい)の重体だ、起きることはまず無いだろうね」

「そうですか……」


 死んでいないだけマシだろう。

 いや、この場合は死んだほうがマシなのか。

 迷惑かかっちゃうからな。


「そこで! 女神である私が直々(じきじき)に君たちを助けるってことだってばよ!」

「どういうことだってばよ」

「にぃに何言ってるの? 異世界転移(テンプレ)に決まってるじゃん!」


 決まってねぇよ、そういうのは漫画とかアニメの世界だけだ。

 あとラノベとかの小説もだな。


「その通り! 君たちには異世界に行ってもらうよ」


 その通りなのか、異世界って本当にあるんだな……なんか常識が崩れたぜ……。

 女神がいる時点で常識なんてなかったんだけども。


「はぁ……で、それで助けるってどういう事です? 助けるだけなら女神パワーで俺たちを起こしてくださいよ」

「のんのん、リターンを求めるなら何かリスクを負わなきゃいけないんだよ」


 女神は人差し指を振りながらそう言った。

 つまり、助けて欲しくば異世界で何かを成し()げろという事だ。


「……何をしたら助けてくれるんですか?」

「魔王討伐、と言いたいところだけど昏睡状態を回復させるのに魔王討伐はリスクが高すぎる。それに、(すで)に他の転生者がその世界に行っているんだよねー」

「えー、魔王倒したりしないのー?」


 それはちょっと同意する、普通異世界転移と言ったら魔王討伐、または世界を救う、みたいな感じだ。

 ん?……今なんか大事な事言ってた気が……。


「ちょっとまて、他にも転移者はいるのか」

「そうそう、だからその世界に送るには人数オーバーなんだよねー」

「人数オーバーなら俺たちが異世界に行くのは無理じゃないか」

「それがさー、一日だけなら転移させられるんだよね」


 なんの意味があるんだそれは。

 一日だけだと? そんなの異世界転移じゃない!

 でも一日で日本に戻れるのは嬉しいです、やり残したことだらけだからね。


「え! 一日だけ? そんなのつまんないよ!」


 確かにつまんないな、でも簡単に助かるならそっちの方がいいと思うよ?


「一日だけねぇ……その一日で何してこいってんだ」

「とある村の禁忌(きんき)(おか)してもらいます」

「禁忌を犯す……?」


 禁忌、つまり決まり事を破ればいいのか。

 それなら簡単だ、かるーくクリアしてやんよ。


「そう、禁忌を犯すんだ。具体的には洞窟(どうくつ)の奥にある(ほこら)を壊して欲しいんだ」

「祠? その祠を壊したら帰ってこれるのか?」

「いや、それだけじゃないよ。壊したら魔物出てくるからその魔物も倒してきてね、ボスモンスターみたいなやつ」


 え? 異世界に行って一日でボスモンスター倒してこいって言ったの?


「おっしゃー! ささっと倒しちゃおー!」

「頭いかれてんのか」

「そのいきそのいき、さすがに何も持たせずに転移させるつもりは無いから安心してね」


 安心できるわけがない。

 こっちはついさっきまで帰宅部(ノージョ部)のエースだったのだ、積極的に体を動かしているわけがない。


「何くれるんですか?」


 と、今更敬語に戻しながら質問してみる。

 一日転移なのだからチート装備を貰わないと納得できない。


「じゃーん! 村人の服と普通の片手剣!」


 ダメかもしれない。


* * *


「本当に異世界だ……」


 結局村人の服と片手剣の装備で村の前に転移されてしまった。


「にぃに、なんでスマホ持っていきたいとか言ったの?」

「いや、スマホで無双(むそう)できたりするかなーっと」

「できるわけないじゃん」


 ですよね、スマホで無双ってどうやるんだよ。

 しかも持ってこれなかったし。

 だが、代わりに魔法ってやつが使えるようになっているらしい。

 人によって得意な魔法があるらしいので、自分に合った魔法を教えてもらった。

 属性的には俺もキリカも水魔法だ。

 俺は普通に水を出すのが得意で、キリカは水を細かくして出すのが得意と言われた。

 さらに、俺たちは珍しい特殊な魔法が使えるとのことだ。

 魔法の名前はシェアリー、使っている間はお互いの思考がわかるらしい。

 お互いが使っていないと効果が出ないのでプライバシーの管理は完璧! らしい。


「そんなことよりさ、ほら、とりあえず村に入ろうぜ」


 いつまでも村の前に突っ立ってるのは嫌なので、村に入る。


 村に入ると沢山の店が目に入った。

 行商(ぎょうしょう)(さか)んなようだ。

 とりあえず情報収集だな。


「あのー、すいません」

「ん、なんだい」


 俺は村人とおもわれる人に話しかけた。


「この村に詳しい人ってどこにいますかね? 村長とか」

「ああ、村長ね。 魔法道具屋の隣の家にいるよ、そこの角を曲がってまっすぐ行ったら看板があるよ」

「ありがとうございます」


 魔法道具屋か……なんか異世界に来たって感じするな。


「村長のところに行くの? 洞窟は?」

「その洞窟の場所とかを聞きに行くんだよ」

「あ、そっか、じゃあいこー」


 これキリカ必要あるのか……? 村で待っててもらった方がやりやすくなったりしないよな?


 と、いうわけで村長の家にやってきました。

 隣に『MAGIC ITEM』と書かれた看板が置いてある家があるので間違いはないだろう。

 ていうか何故かこの世界の文字が読める、女神すごい。

 文字が読めなくて困る展開のアニメとか結構好きだけど自分がそうなるのは好まないぜ。

 そもそも言葉が通じるんだから女神がなにかしたのはわかるよね。

 一日しかないもんな、そりゃサービスしてくれるよな。


「すみませーん」


 ドアをノックして村長を呼び出す。


「あ? なんだお前たちは」


 すると推定(すいてい)40代のおじさんが出てきた。


「旅のものなんですけど、話ってできますかね?」

「おう、いいぜ。入んな」


 お、あっさり入れてくれたな。

 優しそうな人でよかった。


「おじゃましまーす」

「おじゃましまーす!!」


 中は壁も床も木でできていた。

 なんとなくこういう木造建築に(あこが)れるんだけどわかるかな。


「俺はサイムってんだ、お前らの名前は?」

「俺はミズトです」

「私はキリカ、キリッ」


 あーはいかわいいかわいい。


「そうか、よろしく。で、話ってなんだ?」

「ああ、えっとですね。この村の近くに洞窟があると聞いたんです。でも場所がわからないんですよ」

「それならこの村から南にまっすぐ行ったらあるぞ」


 なんだ、南に行くだけで着くのか。


「ありがとうございます、それと、中に祠はありますか?」

「ああ、あるぞ。でも触るなよ?」

「なんでー?」


 こいつは礼儀(れいぎ)ってもんを知らないのか。

 俺も女神にタメ口だったから人のこと言えんが。


「祠に魔力が宿(やど)ってな、村にいた予言者が触ったら(わざわ)いが起こるって予言したんだ。だから、祠に触ることがこの村での禁忌になったんだ」

「禁忌……それです! その祠を壊しに来たんです!」


 最後まで言って気づいた。

 言っちゃいけないやつだこれ。


「なにィ? 祠を壊すだ? やめときな、ろくなことが起きないぜ」

「それでもやります」


 やらないと帰れないのだ。

 やめる訳にはいかない。


「へぇ、でも洞窟には魔物がいるぞ」

「大丈夫です、こっちには剣と魔法があるので」


 装備は貧弱(ひんじゃく)だけどな。

 祠を壊して魔物を倒すだけだ、強い魔物を前にしたら装備なんて関係ないだろう。

 関係ないと信じたい。


「ほぉ……忠告(ちゅうこく)はしたからな、あとは好きにしろ」

「ありがとうございます!!」

「一応村のみんなには話しておく、もしもの時に逃げられるようにな」


 よし、あとは洞窟で祠を壊して魔物倒せば終わりだ。

 なんだ、こんとんじょのいこ。

 と、え○りかずき風に言ってみる。

 その後、サイムさんの家から出た俺たちはわくわくしながら村を出ていった。


* * *


「ここか」

「ここだね」


 言われた通りに南に進んだのだが、思ったより近くにあってちょっと驚いた。


「よし、入る前に魔法とかの確認だ」

「シェアリーとかだっけ」

「そうそう」


 それじゃあまずはシェアリーからだな。


「キリカ、シェアリーを使ってみてくれ」

「ん、シェアリー」


 よし、俺も使うか。


「シェアリー」


 シェアリーを使うと一気に別の思考が混ざりこんできた。


『はぁ、疲れた』

『にぃにのせいで()かれた』

『お腹すいた』


 何考えてんだこいつは。


「うわっ! なにこれ気持ち悪い!」

「こっちだってそうだよ! なんだよ! 轢かれたのはキリカのせいじゃないか!」

「え!? 私はにぃにを引っ張って一緒に後ろに飛ぼうとしただけだよ!! にぃにが邪魔(じゃま)したんじゃん!」

「え!? 俺は普通にお前を引っ張って助けようとしたんだけど……」

「え!?」


 ……おおう、気まずい。


「お互いが助けようとしたってことでいいか?」

「……うん、なんかごめんね」

「こっちこそごめん、押し付けようとしてた」


 こんな気まずい空気の中でもキリカの考えてることが頭に入ってくる。

 つまり俺の考えていることもキリカの頭に入っているのだ。


「気を取り直して! 他の魔法を使おう!」

「お、おう。そうだな」


 よし、他の魔法だ。

 と言っても水魔法だろ? そこまで強くはないだろうな。

 ちなみにシェアリーは切った。


「んじゃ、そこの岩に試し撃ちだ」

「オーケー」


 いい返事だ、一瞬赤いハチマキを付けた筋肉ダルマが脳裏(のうり)をよぎったが気のせいだろう。

 筋肉イェイイェイ。


 と、いうわけで岩に水を当ててみよう。

 指先から水弾(すいだん)を撃ち出すイメージを考えながら指を銃の形にする。

 名前……名前はどうしようか、


「ええと……ウォーターバレット!」


 とっさに思いついた名前を叫ぶ。


「おわっ」


 すると、指先に小さな魔法陣が浮かび上がり、先に行くほど(とが)っていく、弾丸(だんがん)の形をした水が撃ち出された。

 驚いて少し仰け反ってしまった。


「にぃにすごーい!」

「これが魔法か……応用できそうだな」


 RPGなどを見るともっと形を変えたりして使えるのではないかと思っていた。

 なんでファンタジー世界の人達は一つの大技ばかり使うんだろうな。


「よし、次はキリカだ」


 キリカは俺の言葉に頷くと手を広げた。


「いくよ! はぁ〜〜!」


 なんか気の抜ける掛け声だな。

 てか技名を言え。


 先程同様、魔法陣が浮かび上がる。

 さっきは指先だったからなのか、キリカの魔法陣は少し大きかった。

 そして、魔法陣が一瞬光る。


——サーーッ


(きり)だ」

「霧だね」


 なんということでしょう。

 キリカが放った魔法はただ霧をだす、それだけなのです。

 なんということをしてくれたのでしょう。

 だけど霧の量は尋常(じんじょう)じゃない、このあたりの湿度が高くなった気がする。


「超強いね!」

「よえーよ」


 戦闘には使えなさそうだ。


 その後も色々と試し撃ちをした俺たちは洞窟に入っていった。


* * *


「着いたな」

「早かったねぇ」


 とてつもない早さでついてしまった。

 なぜかと言われれば簡単だ。

 実は洞窟から祠まではまっすぐ進むだけで着いてしまうのだ。

 来る途中に何個も道があったが知ったことか、一番大きい道を進むだけさ。

 多分この洞窟の祠まで行くのに時間がかかるやつはRPGで行きに宝箱を回収するタイプだろうな。

 後やけにエンカウント率が高いやつ。

 俺は帰りに回収するタイプだ、行きは良い良い帰りはこわいってな。

 怖いのはごめんだな、俺怖いの苦手だし。


「にしても魔物全然出てこなったな」

「ねー、見つけたと思ったら逃げて行くから戦えなかったよ」


 俺は戦わない方を(のぞ)んでるから魔物が逃げてくれて嬉しかったけどな。


「こいつを壊せばいいんだよな」

「確かそうだよね」

「でも壊したら魔物出てくるからな、気をつけろよ」

「え? そうだっけ」


 キリカは女神の話を聞いていなかったのだろうか。


 目の前には小さな石でできた祠が建っていた。

 祠からは何やら嫌な気を感じる。

 魔力だろうか。

 さっさと倒して帰ろう。

 俺は剣を抜いた。


「壊すぞ」

「うん……」

「すぅ…………はぁっ!」


 俺は剣を構え、そのまま振り下ろした。

 ガガっと音がなり、祠に当たった剣は弾き返されてしまう。

 弾き返されたが、その当てた場所にヒビが入りはじめた。ヒビは広がっていき、二つに割れ始める。


「よし! あとは魔物倒すだけだな! 普通の魔物だよな?」

「わたし、家に帰ったらコーラ飲むんだ!」

「おいばかやめ」


 グオオオオォォォ!!! と耳をつんざく咆哮(ほうこう)が洞窟内に響き渡った。

 そして、ドシンと音がなり、地面が揺れた。


「な……な、な………なにぃ!?」

「にぃにやばいよアレ!」


 祠から出てきたのは体長3mはあるリザードマンだった。

 右手には剣を、左手には盾を持っている。


「ワレの封印を解いたのは貴様らか……」

「は、はい! そうです!」


 つい敬語になってしまう。

 というかこいつ喋れるんだな。


「感謝するぞ、まあ数日後には勝手に封印は解けていただろうがな……。まずはどこか近くにある村を(おそ)うとするか」

「村を……?」

「安心しろ、貴様らは帰してやる。ワレに歯向かわなければな」


 そう言うとリザードマンはずんずんと俺とキリカの間を通り抜けようとした。


「待てよ」

「む? どうし」


 俺は持っていた剣でザクッとリザードマンの腹を()った。


「き、貴様!!」

「悪いねぇ、こちとら倒してこいって言われてんだ」


 斬った場所を見ると、赤い血が流れ出ていた。


「キリカ!」

「わかってる!」


 俺はシェアリーを使う。

 使った瞬間にキリカの思考が流れてくる。


『にぃに、左に回り込んで』

『了解』


 俺は指示に(したが)って左に回り込む。


「くそっ、お前らは命が惜しくないのか!」

「お前を倒さないと死んじまうんだよ! ああ、あと、お前はさっきまで貴様と言っていたはずだが? わざわざかっこつけてたのか?」

「うるさい! まずはお前らからだァ!」


 適当に(あお)るとリザードマンは俺に向かって剣を叩きつけた。

 わかりやすい振り方だったため、ちょっと横に避けただけで回避できた。


「おいおいどうした? 集中しろよ」


 そんなことをいいながらも自分は汗ダラダラである。

 相手は3mもあるトカゲなのだ、怖くないはずがない。


『斬れ、キリカ』

『まかせて!』


 背後からキリカが()()かる、ダジャレじゃないよ。


「グァァ! 俺の……俺の邪魔をするなァァ!」

「おっと、今度は一人称がワレから俺に変わってるぜ? それが本来のお前だろ?」

「ウオオオオォォォォ!! 殺す!」


 こいつはあれだ、単細胞(たんさいぼう)だ。

 こんな適当な煽りでもめちゃくちゃ怒ってくる。

 魔法を試してみよう。


「ウォーターバレット!」

「なっ!?」


 指先から水弾を撃ち出す。

 水弾はリザードマンの足に当たる。

 一瞬、リザードマンが体制を崩す。


「今だ!」


 その隙をついて今度は剣を腕に当てて……。


「させるかァ!」


 ギィン! と音を立てて剣と盾がぶつかった。

 あ、やっぱり?

 剣なんて使ったことがないため振りが甘く、弾かれてしまった。

 だが、意外なことにリザードマンの盾も簡単に弾き返せた。

 明らかにリザードマンの方が力が強いのにだ。


「お、お前の武器は……」

「あ? 普通の剣だろ」

神聖武器(しんせいぶき)……だと」


 神聖武器……ああ、女神から貰ったやつだからか。

 それにしてもキリカは何してんだ。


『やばいやばい! 剣折れちゃった!』


 マジかよ。

 俺一人で戦わなきゃいけないのか。


『とりあえず後ろに下がっててくれ』

『わかった!』


「んで、その神聖武器ってのはお前にどういう効果があるんだ?」

「知らずに持っていたか、ならば教える理由はない!」

「だよね!」


 俺はリザードマンの攻撃を避けながら苦笑いする。


「ちっ、すばしっこいな」

「あいにく小柄(チビ)なもんでね」


 なんでリザードマンが東京方言を使っているかはさておき、考えるのは神聖武器についてだ。

 さっきリザードマンの盾を弾いた時、弱い力にも関わらず容易く弾き返せた。

 ならば。


「それにしてもその武器カッコイイな、何でできてんだ?」

「ほほう、いい趣味しておるな。この剣と盾は、魔鉱石(まこうせき)でできているのだ!」

「ああ、それで神聖武器が効くわけね」

「しまった!」


 馬鹿だコイツ、ただの戦いのできるトカゲだよ。

 つまりは魔鉱石っていう鉱石から作られた武器ってことだ、その鉱石には神聖武器ってのが効くのだろう。

 もっとわかりやすく言うと、きゅうしょにあたった、とか会心の一撃、とかそんな感じだろう。


「今度はこっちの番だぜ」

「ハッ、剣もまともに扱えないガキが俺に勝てるわけないだろう」

「やってみなきゃわかんねぇぜ?」


 盾は弾けるからなんとかなるな。

 でも今は一人だ、キリカが戦えない今普通に戦えるのは俺だけ。

 この世界で死んだら普通に死亡。

 死ななくても一日経過したら死んだと同じ(あつか)い。

 生き残る方法はこいつを倒すしか道はない。


「オラァァ!」

「なっ!?」


 ——速い。

 そう思った瞬間、(ほお)に激痛が走った。


「あ、ああ……ああああ!!」

「にぃに!!」


 頬から血が流れる。

 痛い、今までこんな痛みを感じたことは無かった。

 脳内には、キリカの心配する声が流れてくる。


『にぃに、大丈夫!?』

『大丈夫じゃねぇよ……』


 リザードマンの動きがだんだん早くなっている、封印されていたから体が(なま)っていたのか?


「ウォーターバレット! ウォーターバレットォ!」

「くっ、その程度の魔法なら盾で防げるわ!」


 俺はリザードマンが盾で水弾を弾くと同時に斬りかかった。


「せあぁぁ!」

「ぬぁ、なに!?」


 剣で()(はら)い、盾を弾き飛ばす。

 そして左手の指先に魔力を集める。


「ウォーターバレットォ!!」


 狙うは目だ、失明(しつめい)させるまではいかないが数秒の目潰しになる。


「クソがあァァァァ!」


 リザードマンは目をつぶったまま、剣を振り回して攻撃した。

 当然、距離を置けばそんな攻撃は当たらない。


『キリカ! 魔法だ!』

『ま、魔法? だって霧を出すだけだし……』

『それでいいんだ! 全力で霧を放出(ほうしゅつ)させろ!』

『わ、わかった!』


 にしてもこのシェアリーは便利だ、相手に気づかれずに指示が出せるんだからな。

 キリカは両手で魔法陣を作り出し、霧を放出させた。

 ものすごい量の霧が洞窟内に広がる。

 すると、視界がたちまち白く染められる。


「はぁ!」


 俺は見えなくなる前にリザードマンの目を狙って剣を投げた。


「グァ! おのれぇぇぇ!!」


 結果は目を抑えていた左手にクリーンヒット。

 リザードマンはまた闇雲に攻撃しているが当然当たらない。


「はぁ……!」


 そう声を出して気合を入れる。

 水魔法を使うのである。

 気合を入れると同時に手のひらの先に小さな魔法陣が浮かび上がる。

 この魔法は水の塊を撃ち出すウォーターバレットとは違い、(うす)い水の(やいば)で斬る魔法だ。

 洞窟前の岩に試し撃ちした結果、魔力を貯めれば貯めるほど(するど)さが増すことが分かった。

 そしてその鋭さは魔法陣の大きさによって決まる。

 ならばリザードマンが動けないうちに貯めるしかないだろう。


『すごい! なんも見えないよ!!』

『ああ、お前の魔法のお陰だよ』


 もうすぐだ、もうすぐ最大魔力でウォーターカッターをぶつけられる。

 そうしている間にも魔法陣は少しづつ大きくなっていく。


「な、なんだこれは! 見えん!」


 今更気づいたか、馬鹿め!

 あと5秒、4秒。

 3……2……1……


「ウォーターカッタアアアアアァァァ!!」


 俺の手から勢いよく水の(やいば)発射(はっしゃ)された。

 発射すると同時に洞窟内の霧が魔法陣に集まった。

 リザードマンの姿がはっきり見える。

 水の刃がリザードマンの首をはねた。

 水の刃の(いきお)いは止まらず、そのまま洞窟の壁に爪痕(つめあと)を残して消えてしまう。

 リザードマンは声を出さずに青い光に包まれ、リザードマンがいた場所に石が落ちた。

 

「終わった……のか?」

「よーし!帰ろー!」


 呑気(のんき)なやつだ、こっちは死にそうだったのに。

 そういえばキリカの思考が流れてこないな、シェアリー切ったのか。

 とりあえず、俺もシェアリーを切ることにする。


「っ! 痛い痛い!」


 リザードマンを倒したことへの安心感で頬に受けた傷の痛みが増した。

 必死になって痛みを忘れていたのだろう。


「にぃに! 帰ろ!」

「ああ、そうだな……帰るぞ!」


 俺はまだ痛む頬を気にしながら洞窟を後にした。


————————


 と思っていたのか?

 なぜか行きで逃げてくれたゴブリン達が襲いかかってきたのだ。


「なんでさ!」

「にぃに、魔法魔法」

「……よし、ウォーターバレットォ!」


 数分間、その洞窟には声が響き続けた。


* * *


「おお! ミズト!」

「あ、どうも」


 村に戻るとサイムさんが話しかけてきた。


「おいおいどうしたんだ? そんなにぐったりして」

「それが……」


 俺はサイムさんに洞窟で起こったことを説明した。


「なるほど、つまり数日後に村を襲うはずの魔物を倒してきてくれたってことでいいんだよな?」

「まあ、そうですね」

「にぃに凄かったんだよ! こう、しゅぱーんってね、首をこう、すぱっと」


 キリカの説明は擬音(ぎおん)を使いまくっててなんかよくわかんない感じだ。

 でもだいたいあってるな。


「よーし、このことは村のみんなに報告だ!」

「いや、別にいいですよ」

「いいや、報告するね」

「報告しよう!」


 サイムさんの呼びかけにより、村人の目の前で今回のことを話すことになってしまった。

 今はサイムさんと一緒に台の上にキリカと立っている。


「えー、彼はこの村を救ってくれた英雄(えいゆう)、ミズトくんとキリカちゃんです! 拍手」


 村人達はヒューヒューと口笛を吹いたりしながら拍手してくれた。

 結構ノリのいい人たちなのかもしれない。


「えと、ミズトです。リザードマンを倒しました」

「キリカです! キリッ」


 やめろ、村人の前でそれをするのはやめろ。

 なんか恥ずかしいから、自分と顔が似てる奴がやると結構恥ずかしくなっちゃうから。


 その後は村人達に洞窟で起こったことを説明してお開きになった。


「あ、サイムさん。この怪我(けが)って治せますかね?」

「うーん……すまんな、今傷を(ふさ)げる魔法を持ったやつは遠出(とおで)してるんだ」

「あー、そうですか。なら大丈夫です」


 治す薬などについても聞いたが、今あるポーションだと痛みを(やわ)らげるだけで傷を塞げるポーションは無いらしい。

 てか女神がポーションくれればこんなことにはならなかった。


「よーし!今日は宴会(えんかい)だ!!」


 サイムさんは村の人を集めて宴会を開いた。

 とても楽しかった、村人達と夜中までどんちゃん(さわ)ぎである。


 疲れきった俺たちは宿屋に泊めてもらえることになり、眠りについた。


* * *


 これは……夢?


「やあ」

「あ、女神様だ」


 ああそうか、一日経過したからここに戻されたのか。


「どうだったかな? 一日転移」

「どうもこうもあるか、リザードマンめちゃくちゃ強かったぞ」


 本当に強かった。

 ウォーターカッターが無ければ死んでいただろう。

 剣はあの洞窟に置いてきちゃったし。


「まあまあ、倒せたんだからいいじゃないか」

「そうそう」


 キリカ、お前はどっちの味方なんだ。


「それに、洞窟探検が楽になるようにいい武器選んであげたんだよ?」

「ああ、あの神聖武器とか言うやつか」

「うん、あれのお陰で雑魚(ザコ)モンスター寄ってこなかったでしょ?」

「あれのお陰だったのか……」


 思い出してみればそうだ、剣を持っていなかった帰りはゴブリンに襲われてしまっている。


「それじゃ、お別れの時間だよー」

「早かったな」

「うんうん、僕も見ていて飽きなかったよー」

「え、ボクっ()なの……」


 ちょっと女神がボクっ娘なのはどうかと思うよ?


「別にいいでしょ!さっさと日本に送るよ!」

「女神様さよならー!」

「うん! さよならーー!!」


 おお、いい返事だ。

 キリカよりもテンション高く返事するのかこの人は。

 そんなしょうもないことを考えていると、体が光出した。


「まあなんだ、ありがとうな」

「こちらこそ、楽しかったよ」


 俺たちは暇つぶしの道具じゃねぇっての。


* * *


「双葉さん! 目を覚ましましたよ!」

「本当ですか!?」


 騒がしい声が聞こえる。

 聞きなれない声と、毎日聞いていた声。


「霧花……戻れたな」

「にぃに……」


 たった一日だけの出来事だったがこのことを俺は一生忘れないだろう。

 また変わらぬ日常を送れることに安心すると同時に、頬がズキッと痛んだ。


一日転移〜双子は水魔法使い〜

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