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侍活撃 蕨手の刃紋 〜わらびでのはもん〜

0・父親と生き人形 


「父上!私は人形ではありませぬ」

 「ああん?またそんな事を言われたのか?」

 子供が父親の部屋を訪れ力なく話しかけた。仕事中であった父親は筆をすずりに置くと子供の

話に耳を傾けた。

 どうやら近所の子供達にまたバカにされたらしい。この子はまったくというわけではないが

産まれつき感情を表に出す事が苦手なのだ。それをよく人形と揶揄(やゆ)されるのだ。

 事実、楽しい時、悲しい時、いかなる時でも表情は人形のように変化することがない。

いや、むしろ人形浄瑠璃(じょうるり)(人形芝居)を演じる人形の方が表情が豊かなのではないかと

さえ思われた。

 その事でこの子は他の子達からたびたびイジメを受けるのだ。今この時もこの子は悲しみながらも

表情無く父親の前に立っている。

 部屋の棚上には高そうな市松人形が1体飾られていた。

 それをチラと見ながら、やれやれまったく子供は残酷な事を言う、

などと思いながら父親はいつもこう言ってこの子を(なぐさ)めるのだ。 

 


  1・狂人と与力


 「エヘヘ…エヘヘヘヘッ」


 人間が突然錯乱するのは勝手だがそれが刀という凶器を携えた侍だとしたら俄然話は

変わってくる。

 場所は江戸の中心日本橋、しかも往来激しい本町通りでの狂事。

 その錯乱した侍、陣笠をかぶり大刀を抜き身で構えながら悦に入ったように不気味に笑っている。

正確には陣笠に付いている日よけ布で隠れてその表情までは詳しく伺い知れないが

唯一隙間から見える左目は常軌を逸していた。

 その侍の足元にはすでに息絶えているであろう若侍二人が横たわっている。

この若侍達は背後から突然斬りつけられ、何が起こったかわからない内にさらに数太刀浴びせ

られアッという間に屍と化してしまったのだ。

 この世に産まれ出て二十年弱、数々の喜怒哀楽を経験し積み重ねてきた人生がこの一瞬で

血の海に沈むとは数刻前に誰が予想出来たであろうか?

 しかし錯乱した侍は狂気の笑い声を発しながら屍となった若侍を幾度も血糊がベットリと

付いた刀で突き刺し始めた。何度も何度も、執拗に執拗に、入念に入念に…


 

 日本橋という町は東海道の起点であり江戸経済の中心地。その物流を支えていたのが水路である。

 その拠点の日本橋は大商業街であり三井越後屋、高島屋、白木屋など呉服の大店が並び、

1日に千両動くと言われた魚市、芝居町や吉原などの盛り場もあるまさに日本の中心である。


 常盤橋御門(ときわばしごもん)から浅草御門までを走る本町通りは日本橋通りと並ぶ

メインストリートである。歌舞伎で取り上げられるほどの呉服の大店[大丸屋]も

この通りに面している。

 この大通りに店を構える事は商人の憧れであったが突然凶事に見舞われた今日は

たまったものではない。

 大小問わず通りに面していた店々はすぐに営業中止、日本橋を堪能していた市民、飴売りや

金魚売りの行商人、大道芸人らが一斉に悲鳴を上げ混乱し周囲は騒然となった。

 番所に通報する者、逃げ隠れる者、恐怖のあまりすくんでしまう者と反応はそれぞれで

あったが侍がその場から移動する事も無く執拗に屍を突き刺し続けている光景を見てやがて

野次馬の人だかりが出来始めた。

 当然逃げ道の確保とある程度の距離を置いての事だがその辺、さすがは好奇心旺盛な

江戸っ子といった所か。

 

 そうこうしている内に通報を受けた同心達と与力が奉行所から駆け付けた。

 江戸を取り締まる奉行所には南町と北町とがあるが、江戸を半分ずつ分割して担当して

いるわけではなく、月ごとに交代で江戸全てを取り仕切っている。

 今は南町奉行担当の月なのだ。

 [同心]とは今でいうヒラの警察官、[与力]とはそのリーダーのような役職である。

ハチマキ、タスキがけ、(もも)引きにワラジ、寄棒よりぼうを構えた捕り方と呼ばれる

定廻(じょうまわ)り同心が2名。さらに各同心の手伝い役[小者]と呼ばれる者がこの時は計5名。

小袖(こそで)に紋付の羽織、指揮用十手を構えた与力が1人。

 計8名。これがこの時代の出動の基本形態である。


 「まったくもう!何なのよっ!」


 普通、黒の紋付きの羽織りを着用しなければならない与力であるがこの場に駆け付けた

南町奉行所所属のこの与力[京楽愛之介(きょうらくあいのすけ)]はなぜか真っ白の羽織りを

身にまとい口調で愚痴を言いながら現場に現れた。

 年の頃三十前後、眉は細く整えられ、その細身の体と身なりと言葉使いで役人の中では

ひときわ異彩を放っていた。

もっとも、いまだまれに町を謳歌する奇抜な身なりの傾奇者(かぶきもの)に比べればかなり

マシではあるが。

 だがいざその凄惨な光景を見るや京楽は顔を歪めた。

「ひっ!何よコレっ!」

 町民からの通報をどうやら町中で暴れている輩がいるから何とかしてくれ、その程度に思って

いたらしい。普段の本町通りと違い静まり返ったこの大通りを見て京楽達は冷や汗を流した。

 本来、出動の際は鎖帷子くさりかたびら等で防御を固めているハズなのだがこの時の

京楽はまったくの軽装であった。

「ま…まあいいわっ!アナタ達とっととあの侍を捕まえてオシマイっ!」

 京楽は十手を振りかざし同じく腰が引けている捕り方達に命じた。


「ア〜〜?」


 捕り方達が恐る恐る侍ににじり寄ったその時、それに気付いた侍が赤子の様な声を発した。

全員の動きが緊張で止まる。まさしくダルマさんが転んだ状態である。

 ヘタに動けば本当に命を取られる。まさに狂った侍は鬼にふさわしい位置取りだ。

 江戸時代も中頃に入ると天下太平は円熟期を迎えていた。

侍が刀を持ち歩く事も半分形式化しつつあり、人を斬った事も無い、あるいは死体すら見た事も

無い、ひどいものになると抜刀すらしたことも無いという武士が大半であった。

 ゆえに役人達も無残な斬殺死体と刀身を赤くきらめかせながら笑う殺人犯を目の当たりにして

恐怖と動揺を隠せなかった。

 役人達が恐怖と動揺で動けない事を確認すると侍は再び屍を斬り付け始めた。

 こう着状態が永遠に続きそうな、そんな気配すらしてきた。

「これは…ダメだわ…」京楽は一言そうつぶやくと小者にボソッと何かを告げた。



2・狂人と看板娘


「兄様っ!」


その時、突然一人の女がそう叫びながら野次馬とそれを抑える役人をかき分けて飛び出して来た。

 長い後ろ髪の端を一カ所でまとめ、左の肩を通して前に垂らしている。

着物の上にどこかの店の羽織りをまとっているその女は錯乱した侍に向かって

確かに今、「兄」と叫んだ。

 普段はさぞ美しいであろうその顔は今は曇りきっていた。

 兄様…どうして…言葉に出せたかどうかすらわからなかった。

 「アナタ身内なの?どうでもいいけど大人しくしててちょうだいっ!」

 京楽が十手で自分の肩を軽く叩きながら面倒臭そうにあしらう。

 「ま、待ってください、兄は剣一筋の優しい…うっ」

 そう言いかける美女のあごを京楽は真鍮(しんちゅう)製の冷たい十手でグイと持ち上げた。

 「だまらっしゃい」言いつつ睨みをきかせ京楽は女を黙らせた。

 こういう事件に身内は説得の手段として非常に有効である。が、それは相手が正常な

精神状態であってこそ。分別がつかぬ狂人相手に大声を張り上げられても

下手に刺激を与えてしまうだけである。

 「あ…兄はどうなるのですか…!?」

 不安な表情をのぞかせながら美女は京楽に尋ねる。

 「当然、首・チ・ョ・ン・パ・よ」

 京楽は十手で自分の首を斬るしぐさをしつつ舌をベロリンと出して即答した。

 状況と身内に対して不謹慎極まりないが、これが京楽という男の元々の性格なのだろう。

 もっともその結末は美女も薄々わかってはいたが、しかし京楽はさらに追い打ちをかける。

 「まあ死体は試し斬りにされてポイね」

 町奉行所の取り締まりの管轄は一般市民であるが浪人であれば武士といえども市民と

同じ扱いを受ける。

 実際判決はどうなるかわからないが二人を斬り殺している時点で誰がどう

見積もっても[死]は確定していた。

 試し斬りとは罪人の死体を使って刀剣の斬れ味を試す事である。

当然その後、死体は捨てられ(とむら)う事は出来ない。遺品もすべて処分され

手元には何も残らない。

 それを聞いて美女の表情がますます曇った。

 無役の浪人…兄はその日暮らしの仕事で食いつないでいた。生活は苦しかったが優しく、

まっすぐ剣に打ち込む兄を美女は誇りに思っていた。兄が通う道場では時に指導を任され

門下生からも慕われていたという。

 そんな兄が目の前で錯乱し肉塊と化した人間をなおも斬り刻んでいる姿を見て黙って

いられるハズもなかった。


「兄様!私です!朱音(あかね)です!」


 美女は兄と自分とを隔てる同心の構える寄棒を振り切って叫んだ。

 しかしその瞬間、京楽によって朱音と名乗った美女は突き飛ばされてしまった。

 「おバカっ!刺激したら何するかわからないでしょ!」

 声を抑えつつ京楽は朱音を叱責した。

 朱音は野次馬の中にまで突き飛ばされて尻餅をついたような形になった。

 「その女とっととどけなさい!激しくジャマよっ!」

 京楽が怒りの表情で続けざまに放った次の一言に朱音は言葉を失った。

 「鉄砲隊が来たら一気に撃ち抜くわよ!」

 どうやら接近戦が不利とみるや飛び道具を用意したようだ。

 この場合、仮に相手が死亡しても致仕方なしという事である。大衆の面前で殺人を犯している。

どの道、吟味(取り調べ)も早々に死罪が確定するのは明白である。

 先ほど、共に駆け付けていた[小物]に鉄砲隊出動の要請を指示したらしい。

 

 「そんな…ま、待って下さい…待って…」

 朱音は地に伏したまま、かすれたような声を絞り出すのが精一杯だった。

 その光景を見て気が引けたのか、さすがの野次馬達もヤイヤイと騒ぐ事をやめた。



3・奉行と人形


 「お、お奉行様がいないっ!」


 日本橋本町通りでの騒ぎと同時刻、南町奉行所では大事件が起きていた。 

 つい先ほど京楽から鉄砲隊の要請を伝えに小者が駆け込んで来た。

 京楽ほどの男が鉄砲隊を呼ぶとは余程の事が!?奉行所の面々に緊張が走った。

 どうやら京楽愛之介という男、奉行所内では何故か評価が高いようだ。

 結論から言うと南町奉行・大岡忠相おおおかただすけは鉄砲隊出動を許可しなかった。

 大通りであるという事も当然あったが、たった一人の罪人のために鉄砲を用いるのは後々、

色々と問題アリと考えたからだ。結局大岡は数名の同心に刺叉さすまたや打込みといった

捕縛専用の装備を持たせ応援に向かわせた。

 町奉行大岡が消えていたのに気付いたのはその少し後だった。

 一人の与力が別件の事件の報告に大岡の部屋を訪れた時に発覚した。

その後、奉行所の役人総動員で散々役宅内を探し回ったが大岡はどこにも見当たらなかった。

 ただ大岡の部屋の作業机の前に置かれた座布団の上には女児を模した市松人形があった。

まるで生きているかのようなその人形は人形浄瑠璃(じょうるり)の人形を手掛ければ

右に出るもの無しと言われた名工「三代 狂衛門・長頼(きょうえもん・ながより)」作の

逸品であった。

 しかし生き生きとした姿をしているがしょせんは1尺(約30センチ)足らずの人形。

 本人は身代わりのつもりで置いたのであろうがそれがまた役人達の怒りと失望をあおった。

 町奉行とは江戸全ての司法、立法、行政の全てを管理する激務。

まさに24時間戦う男。そんな立場の人間がホイホイといなくなられたらどうなるか?

すべてのしわ寄せはその下の役人達に押し寄せるのだ。

 役人たちは口を揃えて言う。


「またかこれか……」


  

4・団子侍と貴船屋


「またこれは美味だな」

 その頃、一人の侍(以下団子侍)が料理茶屋で団子をほおばりながら舌鼓を打っている。

 襟が白抜きされた薄紫色の小袖(きもの)(はかま)を身に着けているが、

なぜかその体に合わないぶかぶかの着物を見に着けていた。

 餅は柔らかく口の中に入れた瞬間にヨモギの香りが心地よく広がる、

上に乗る小豆も甘い物好きの自分には丁度良い。

 この茶屋、日本橋のもう一つのメインストリート、日本橋通りに面していた。

 昼間は軽食、菓子や茶を振る舞うが夜には酒も扱う居酒屋である。

小奇麗な店内は清潔感と活気に溢れ、30席ほどの席は昼九つ半[午後1時]ということもあって

なかなかに混み合っていた。

 長床机(ちょうしぎ)(長い腰掛け)が外に用意され日よけの大傘の下で料理を味わう事も出来た。

 最近役人達の話題に上がっていたこの料理茶屋[貴船屋]に一度訪れてみたいと思っていたが、

どうやら話に間違いはなさそうだ。

 団子侍が店内でのんびりと舌鼓を打っていると突然隣席の職人風の男が冗談交じりに言い出した。

「なんでい女将〜、今日は朱音ちゃんいねえのかい」

 その一言を皮切りに周りの男達もそうだそうだと言い出した。

 そういう事か、それを聞いた団子侍は納得した。当然料理が美味くなければ客は来ないが

どうも看板娘目当てがほとんどらしい。

 仕事の合間なのか、よくよく見渡せば今、客層は大半が職人や商人風の男達だった。

 この店の紋付きの羽織をまとい、前掛け(エプロン)を付けた女将らしき人が

苦笑いをしながら出てきて対応した。年の頃30代後半であろうか。

「すいませんねえ、あのコ、朝は元気だったんですが急に体調を崩しまして…」

で、ついさっき帰したと女将は言う。男達の来店理由の半分は看板娘らしく、彼女を

見られなかった事に大半が落胆していた。

 この女将もかなりの美人であったが、そうなると男達が求めた朱音という人はどれだけの

美人なのだろう?団子侍は勝手に妄想を膨らませていた。

 イヤ、江戸っ子の目は肥えている。ただの美人看板娘など他の店にいくらでもいる。

見た目に性格も加味されているとして…

 色々考え出しているうちに新たに来店した大工風の男から物騒な話が飛び込んできた。

 「女将知ってるか?あっち(本町通り)で狂人が暴れてるぜ」

 男は本町通りを親指でクイッと指差しながら話してきた。

 それを聞いた周りの客の反応はそれぞれだった。

 が、基本的には現場付近の人達と大差は無かった。言ってみれば野次馬根性。

だが女将の反応だけは少し違っていた。

 女将はどうやら事件を知っているような感じだった。

 なんだ知ってたのかい?と客に聞かれると

 「え、ええ。さっきずいぶん急いだ感じのお役人様が水を所望されてウチに飛び込んできまして」

 その役人とは京楽に鉄砲隊の要請に使わされた小者である。その時に軽く事情を聞いたようだ。


 「陣笠をかぶった浪人風の男が狂って暴れている」と。


 実際暴れていたわけではないが事件を簡潔に伝えるには十分事足りる。

 陣笠とは戦の時に足軽(あしがる)と呼ばれる一般兵がかぶった笠である。

日よけの布が縫い付けてあり日射病を防ぐ役割がある。もっとも、戦の無い時代が100年以上も

続く昨今、そんなモノを見に付けている人間はいない。

 だからこの話を聞いた貴船屋の看板娘・朱音は察知したのだ。

 それは兄・宗三郎そうざぶろうだと。

 

 兄・宗三郎は「侍」というものに強い憧れと尊敬の念を抱いていた。無役の浪人ではあるが常に

侍としての誇りと覚悟を忘れぬように、もし戦が起れば幕府のために喜んでその命を捧げる、

との思いから陣笠を普段から愛用していた。

 朱音は兄・宗三郎の元に駆け出していた。女将は何も聞かず朱音を行かせた。

彼女の家庭の事情を知っていたからだ。

 駆けて行く朱音を見て女将はその時、ただただその狂人が宗三郎ではない事を祈っていた。


「女将、なかなか美味だった」

 団子侍がかわいらしい赤い巾着から出したお代を右手に、食べかけのヨモギ団子を左手に持ち

店を出ようとしている。

 一瞬考え込んでしまっていた女将はハッと我に返った。

 侍は代金を支払うと例の事件を言い出した大工風の男に詳しい場所を尋ねた。

 大工は団子侍を見てずいぶん怪訝(けげん)そうな顔をして場所を教えてくれた。

いや、怪訝そうな顔をしていたのはその店にいた人間ほとんどであった。

 見ると団子侍の腰には異様な黒塗りの大刀一振りが差さっていた。

 重い重いと言いながらやはり武士は常に大小二本差し、つまり大刀・脇差と二振りの刀を

腰に差している。この時代の刀は人間と比べるとだいたい腰の高さと同じ位の全長であったが

団子侍のソレは異様に長く、比べればおそらく団子侍の胸の高さまではあろう長大なモノであった。

それまさに平安・鎌倉期に主流であった長刀「太刀」の様であった。

 さらに刀の(こしら)えにも目を引く。(さや)には、こじり(鞘の先端を保護する金具)も

逆角(さかづの)(帯にかける止め具)も無く、形状から察するに刃に反りがまったく無い。

一方、(つか)には(つば)が無く、柄巻(つかまき)目貫(めぬき)(刀身を固定する金具)も無い。

柄頭には黒く塗られた金具が装着されていた。要するにその刀は黒い一本の棒の様であった。

 その異様な黒刀は十分に周囲の人間の目を引いた。


 もっとも、目を引いたのはソレが一番の理由では無かったのだが。


 一方、団子侍は美味い団子を口にしようが悲惨な事件の話を聞こうが好奇の目で見られようが

終始、一切表情に変化が無かった。まるで感情表現の出来ない人形の様であった。

 看板娘はまた今度見に来よう、そう思いながら食べかけの団子を片手に狂人・宗三郎が

凶行に及んだ本町通りへと駆け出した。

 そこに一目見てみたかった朱音がいるとも知らずに。


 

5・看板娘と団子侍


 団子侍は日本橋通りを駆け、本町通りに入り浅草御門方面に向かうとすぐに現場に着いた。

 貴船屋から駆ければ目と鼻の先といっても過言ではないほどの距離であった。

 店々が建ち並び、普段は人の往来が激しい大通りでその事件は起きていた。

 いまだに団子侍の左の手には1玉残された団子がある。店を出た時には2玉残っていたから

ここに来る途中に1玉ほおばったと思われる。

 貴船屋から駆け足で来たが普段から鍛えているのが功を奏しまったく息に乱れは無かった。

 見れば現場には人だかりが出来ていた。ひそひそと野次馬達の話し声が聞こえるが

その人垣のもう少し先の方から何やら役人と女性の話し声が漏れ聞こえてきた。

しかし人垣のせいで何が起こっているのかわからない。飛び跳ねてもまったく見えない。

 ふいに隙間から見た事のある羽織が目に入った。

 あれは…貴船屋の…。白地に「貴」という文字が染め抜かれた羽織は先ほど女将が

見にまとっていたものと同じであった。

 さらに団子侍は役人の特徴的な話し方からそれが誰であるかすぐに察知した。

 京楽か、と。


 「もうっ!まだなの鉄砲隊は!?」

 京楽は来ることのない鉄砲隊を待ち続けていた。こう着状態が続いているとはいえ

焦りの色は隠せなかった。

 「兄様…」

 朱音は地に伏したまま兄を見つめ続けていた。こう着状態が続いているとはいえ

不安と絶望の色は隠せなかった。

 「エヘヘヘヘッ」

 宗三郎はいまだに死体をなぶり続けていた。陣笠で顔は隠れて見えなかったが

狂気の笑い声は隠せなかった。

 「立てるか?朱音サン」

 団子侍は野次馬と役人をかき分け朱音に声をかけていた。相変わらずその表情から

感情は読み取れなかった。


 「へ?」

 予想外に差し向けられたその言葉に朱音は間の抜けたような声を出した。

 京楽に突き飛ばされ、倒れていたままの朱音の横には団子を持った侍が腰を下ろして

おそらく自分を気遣ってくれていた。

 おそらく、というのはその侍がまったくの無表情だったからである。

 朱音は混乱の中でわずかに冷静さを取り戻し二人ゆっくりと立ち上がった。

 そして改めて団子侍の姿を見て朱音は驚愕した。その理由は…


 1・あまりの無表情ぶりに驚いて……否

 2・腰に差している長刀に驚いて……否

 3・何故か左手に持つ団子への疑問……否

 4・自分の名を知っている事について……否

 5・侍が小さな女の子だった事に驚いて……正


 ち、小さい…お、女の子?

 役人や野次馬をかき分け朱音に声をかけたその侍は格好こそ武士であったが誰が

どう見ても女性…いや10代前半の女の子だった。

 しかも身の(たけ)5尺(約150センチ)程の華奢(きゃしゃ)な体であった。

 朱音自身、多少背の高い方ではあったがその女の子は見下ろせばつむじが見えそうな位の

勢いなのだ。

 髪は肩ほどまでの長さで所々ハネている。目は大きくクリッとしているが猫の目のように

鋭くキリリとして、眉は短く精悍(せいかん)に整えられている。

その小さな口からは男言葉が発せられた。

 しかしこの子はずいぶんと長い刀を差していると思っていたが違う、刀が長大なのではない、

その女の子が小さいのだ。着物も無理に男物を着ているため全然体に合っていないようだった。

 なんて可愛らしい子なのだろう。この状況で朱音は一瞬そう思ってしまった。

 

 だが二人のこのやり取りの最中に与力の京楽が「チッ」と舌打ちをした事に

朱音は気付いていなかった。



6・団子侍と看板娘


 団子侍改め女の子、改め「凛(りん)」は意外な所で出会う事が出来た

貴船屋の看板娘・朱音を見て、確かに綺麗さと可愛さを合わせ持った人だなと思った。

 だが男達が熱狂的になって鼻の下を伸ばす程のものか?と疑問に思ってもいた。

無論顔には出ていなかったが。

 もっともこの朱音という人も自分を見て不思議そうな顔をしていた。

 初対面で年頃の娘(14才満年齢)が侍の格好をして剣を差しているのを見れば当然といえば

当然だが。

 凛はそんな好奇の目にはすっかり慣れている。第一、初めは抵抗されるが意外と皆すぐに

慣れて普通に接してくれるようになるからだ。

 それはさておき、あの兄の方だ。凛はすでに野次馬から簡単な流れを聞きとっていた。

 朱音は凛に、危ないからアナタは下がって、と言いたかったのだが、それを(さえぎ)るように

凛の口からは予想もしない言葉が出てきた。


 「救ってくる」


 その言葉に朱音は耳を疑った。言うとすでに凛は朱音の兄・宗三郎に向かって歩を進めていた。

 「え??ちょ…ちょっと…!?」

 「そこで見ていろ」

 わけがわからなかった。いくら侍とはいえこんな女の子に何が出来るのかと。

それに救うなどと…朱音が制しようとするその刹那、凛の前に京楽が立ちはだかった。

 京楽も何だかんだで成人男性、身の丈6尺[約180センチ]はある。

凛と並べば頭一つ分以上の身長差があった。

 「ダメよ、鉄砲で一気にケリをつけるんだからネ」

 来るハズのない鉄砲隊をいまだに頼りにしている京楽に対し、それを知ってか知らずか凛は

無表情かつ冷静に答える。

 「たった今、朱音サンと約束した」

 「勝手にでしょっ!」

 まるで漫才のように即ツッコミを入れる。そのやり取りを見て朱音はこの二人は仲の良い

知り合いなのかと思った。が、どうやら何か違うようだ。

 「責任は取らせない、通せ」

 凛はその大きく鋭い目で京楽を威圧しながら続けざまトドメの一言を投げかけた。


 「でないと後でヒドイぞ」


 その言葉を聞いて京楽は冷や汗をかきながら黙ってしまった。

 朱音にはまるでわけがわからなかった。

 さっきの自分に対する威圧的な態度とはまるで違っている。さらに驚く事に京楽は

素直に道を開けてしまったのだ。

 他の同心や小者も何も言わずただただ沈黙するばかりであった。

 くやしそうに京楽がすでに背を向けて歩き出している凛に向かって言う。

 「もうっ!どうなっても知らないわよっ!どう転んだって死罪なんだから

助けるなんてムリよっ!」

 「かまわん」

 凛は振り返る事も無く軽く手を振って答えた。その顔を見る事は出来なかったが

当然その表情に変化は無かった。

 その手には団子の串だけが握られていた。



7・凛と宗三郎


 鉄砲隊出動の許可下りず。

 その報を(たずさ)えた小者が奉行所から現場に戻ってきたのは凛が宗三郎の元に

向かったのと入れ替わりであった。

 小者は数人の同心と共に応援に駆けつけたが、その準備と案内とで多少時間がかかってしまった。

 相当急いでここまで来たらしく全員汗だく、激しい息切れで即戦力になりそうもなかった。

 もっとも京楽から今の状況を聞いてこの応援が無意味である事をすぐに悟ったのだが。


 役人・宗三郎・役人と宗三郎を挟み討ちにする形で役人方は陣取っている。

 端から端まで距離にして約20(けん)(約40メートル)。

 その中心にいた宗三郎に凛が近づきつつあった。

 「おい!あの侍、女だろ!?」

 「しかもまだ子供じゃないのっ!」

 野次馬達は突然自分達の中を掻き分けて現れたその少女の行動に困惑していた。

 男装していた事や役人達全員が引き止めない事も当然気になったが、一番は何の迷いも無く

宗三郎に近づいて行った事だった。


 「アハハハハハハ…アハッ!」

 相も変わらず宗三郎は肉の塊と化した若侍を斬り続けていた。死体は斬り刻みすぎて

コマ切れ状態になりすでに原形をとどめない部位すらあった。

 よくもまあやるものだ、と凛は逆に関心してしまった。

 ふいにその時、宗三郎の視界の中に自分が入ったようだった。

 「アイ〜〜〜〜〜〜〜〜?」

 宗三郎はゆっくりと顔だけを動かし自分の方に目をやった。陣笠に縫い付けられた日よけ布の

間から舌なめずりをしながら笑っている顔が確認できた。

 その顔は離れた京楽達にも(うかが)い知る事が出来た。

 宗三郎の足元の屍から流れ出た血液はすっかり海を成している。役人、野次馬達の背筋に

ツイと冷たいものが走った。

 「ひっ!こっち見たわっ!助けるってまさか逃がすつもりじゃないでしょうね!?」

 宗三郎が死罪になるのはほぼ確定している。錯乱しているとはいえ人を2人、

しかも大衆の面前で侍を斬り殺している。いかに名奉行と呼ばれる大岡越前とはいえこの

状況でこの男を救命する裁きなど不可能である。

 この状況で救うといえば逃亡させるという選択しかない。それをこの小さな侍はハッキリ

「救う」と断言したのだ。

 責任は取らせないと言われたものの京楽は事あれば飛び込む覚悟を決めていた。

 その覚悟を決めさせたのは凛の行動に役人、大人として情けないと悟ったからか、

もしくは大手柄のためか。

 もっとも最初からこの覚悟があれば事件はここまで長引かなかったであろうが。

 「陣笠…か。始めて見たな」

 凛が一言つぶやく。代々伝わるものであろうか?紙に麻布を張り漆を塗られたその笠は

所々ほころび、日よけ布も穴・ほつれが多々見てとれた。

 宗三郎との距離は5間(約10メートル)ほどに縮まっていた。

 屍に突き刺した刃をズルリと引き抜くと宗三郎は自分にその視線を向けた。

 屍よりも自分に興味が湧いてきたのであろう。その刃は切っ先から鍔元まで

赤黒く染まりきっていた。


 キラッ!


 「まぶしいっ!」一瞬その場にいた全員の目に強い光が飛び込んできた。

 それは凛が抜刀した刃に太陽光が反射したものだった。

 その刃は普通の刀と違ってまったく反りの無い直刀と呼ばれる刃であった。

 (あるじ)の小さな体にそぐわないその長大な刃は今、諸手もろて右上段の構えをとった少女に

天高く(かか)げられていた。


 「町奉行・大岡忠相が一子 凛」


 凛は宗三郎をその視線に捉えながら戦場の一騎打ちのごとく名乗りを挙げた。

 「おバカっ!刺激してどうするのよっ!」

 イの一番に反応したのは京楽であった。もっとも京楽のその声は凛の耳には入っていなかったが。

 一番近くにいる宗三郎も満面の笑みで眼前に立つ小さな侍に標的を変更した。

 「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 宗三郎は笑いながらゆらり、と自分の方に振り向き赤黒い刃を向けてきた。

 やめてっ!朱音は赤の他人、しかも小さな女の子が標的になった事で一気に血の気が引いて

しまった。

 兄の極刑にはどこか心の奥底で覚悟が出来つつあったのかもしれない。

だが新たに他人が巻き込まれることに朱音は耐えられなかった。

今すぐに飛び込み、例え斬られてでも宗三郎を止めたかった。

 だが同心達の寄棒に道をふさがれ、それは叶わなかった。

 

 凛は無表情であった。宗三郎の背は京楽と同じくらいであったが横幅が全然違う。

常日頃、過酷な稽古を積んでいるのが見てとれる体格だ。その眼前の敵は今確実に自分に向かって

斬りかかってくる。

 竹刀でこういう場面は幾度も経験済みだが命のやり取りとなると話は別だ。

脂汗が額に(にじ)んできたのがわかった。表情とは違い体は素直に反応していた。

 

 くやしい……真剣相手に恐怖を感じている事にではない。この場に及んでも自分の感情が

表に出ない、という事にであった。昔から産まれつき感情を表現する事が苦手な自分に

(いきどお)りを感じてきた。こういう時は恐怖に引きつった顔になるハズなのだが…

 いや、今は感情が顔に出ない方が心理的に優位に立てるか。もっとも相手は狂人だが。

 などど思いながら凛は上段構えのまま視線を宗三郎からそらさずにいた。


 ジャリ、ジィヤリッ、 


 狂人宗三郎は一歩、また一歩とこちらに向かって歩を進めてきた。

 一歩ごとに勢いがついてきているのが見てとれる。5歩を超えた時には完全に走り出していた。

「エヘヘヘッヘヘヘヘヘッヘェェェ!!」

 唾液を飛び散らせながら笑う宗三郎の顔が確認できた。

 京楽はことさら後悔した。体格差を考えれば凛が圧倒的に不利なのは明らかだった。

 凛の上段構えからでは刃を振り下ろす事しか出来ない。宗三郎は突きを繰り出せば

凛の領域外から悠々と斬撃を与える事が出来る。

 だが凛が敵の体を斬りつけるにはかなりの危険を(おか)して一歩踏み込むしかない。

しかも凛の持つ直刀は刺突(しとつ)には力を発揮するが刃に反りが無いため斬る事には

あまりむいていない。

 宗三郎は京楽の予想通り突きの構えをしながら走りこんできた。

 凛は京楽の予想外に上段構えのまま動じなかった。

 

 もう…やめてっ!

 朱音が声にならない声で叫んだその刹那、2人の刃が真っ向から交差した。



 カィィィィィィィィン!!!



 激しい金属音が周囲の人間の耳を突いた。



8・野次馬の男


 そのわずか少し前、野次馬の人だかりの中から凛と宗三郎の対峙を見守る男がいた。

 深編笠(ふかあみがさ)をかぶり、藍色の小袖に博多織りの帯。大小二本差しのその男

は宗三郎と向かい合う少女を見てニヤリと笑った。

 「ふ〜む、ふむふむ。これは後でお仕置きだな。まったくじゃじゃ馬娘め」

 などと軽口を言いつつも深編笠の奥の目はまっすぐ対峙する2人を見据えていた。

 もっともそれが南町奉行・大岡越前守忠相(おおおかえちぜんのかみただすけ)である事は

まだ誰も気が付いていなかった。



9・凛と宗三郎 その2


 凛は刃を振り抜いていた。宗三郎は突きを繰り出していた。

お互いの表情は確認する事は出来ない。

「イヒヒッヒ!アハッ、エヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!」

 一帯に緊張が走る中、宗三郎は嬉しそうに高笑いした。京楽からの位置では何が

どうなったのか見えない。周囲には宗三郎の笑い声だけが響いている。

 凛は剣を振り抜いたままいまだ動じずにいた。

 

 「アヒヒヒヒヒッ、アウ〜……………」


 ふいに笑い声が止む。一転、周囲は静寂に包まれた。



 「……………………………………………………」



 「…………………………………………………………………………………………………………」



 「ッアアウッ!アアアッ!!アアアアアアッ!!!」


 先ほどまで高笑いしていた宗三郎が突如悶(もだ)え始めた。

 その時、何かがコンッ、と地に落ちた。続いて宗三郎の刀がガシャンと音を立てて

地に落ちる。そして一瞬遅れてビチャッ!と音がして地面を赤く染めたのが確認できた。

 「!?」ますます京楽達には何がどうなったのかわからない。

 「アァ…アアアアァ……」

 悶え苦しみその場にうずくまる宗三郎に凛が歩み寄る。

 白足袋に草鞋(わらじ)を履く凛のその足元には…

 京楽は近寄ってみてソレが刀の(つば)と人間の指である事に気が付いた。

 斬った!鍔ごと五指を斬り落としたわ!

 凛は宗三郎の突きを紙一重でかわしつつ彼の刀の鍔と指を全て斬り落としたのだ。

並の技術では出来ない芸当である。指元から吹き出した宗三郎の血はますます勢いを増していた。

 京楽と共に朱音もそれに気付いたがその異様な光景に言葉が出なかった。

 「ううう…」

 宗三郎は左手で右手首をつかみ止血を試みていた。

 凛が右手の指を無くしうずくまる宗三郎に声をかける。その直刀はすでに鞘に納められていた。

 「死罪となる者はその犯した罪を認め、悔い改めた上で()かなければならない」

 凛が続ける

 「乱心を正し償わせる。それがこの人の魂を”救う”という事だと心得る」

 朱音は黙って凛の口上を聞いていた。10代半ばの少女のその言葉に野次馬達も

ざわつく事無く聞き入っていた。

 「今よっ!とっとと召し捕っておしまいっ!!」

 その沈黙を破り京楽が十手を掲げながら、うずくまる宗三郎を捕らえにかかった。

 刹那、それを遮るように凛は左手で京楽を制した。

 「ちょ!?何よっ!」

 「この人はたぶん正気に戻っている」



10・宗三郎と朱音 


 不思議と右手に痛みは無かった。目の前には自分の斬り落とされた(つば)と指が

計6つ転がっているのが見えた。さらにその(かたわ)らには若い侍の粉々に

された死体が2体転がっているのが確認できた。


 (やってしまったか…)

 宗三郎にはその場の状況から自分が何をしたのかすぐに把握出来たようだ。

彼自身いつかこうなる事に心当たりがあったのかもしれない。ただ自分を止めてくれたのが

目の前の小さな侍であろうとはまったく予想していなかったであろうが。


 「お手数をおかけいたします」

 陣笠を外された宗三郎は軽く会釈をしながら抵抗など一切無く役人に縄をゆだねた。

もっとも今はまだ刑が確定していないため、結び玉を作らず体に何重も縄を巻きつけただけの

早縄である。

 「しかし捕まってしまえばおとなしいものネ。まったくもったいないわ」

 陣笠を外した意外にも精悍な顔つきの宗三郎に何か思う事があったのか

 京楽はため息混じりに事件解決の余韻にひたっていた。

 宗三郎は縛られ数人の同心、小者に囲まれながら奉行所に搬送されようとしていた。

 凛はその様子をじっと見つめていた。自分のした事は間違ってはいないと信じていたが

何か釈然としないものがあった。

 朱音に兄を救うと思わせぶりに言ってしまった事も引っかかっていたが。


 「…兄様っ…」

 朱音が宗三郎の目の前に駆け出してきた。

 頭一つ分以上背の高い兄を朱音は見上げながら二人は見つめ合った。

 何ともいえない(はかな)げな顔をした朱音の横を宗三郎はまったく表情を変えずに

通り過ぎていった。

 「私は生涯孤独の身、どなたかと勘違いされているのであろう」

宗三郎は去り際に一言そう告げた。

 「な!?に、兄様っ!」

 朱音は突然のその言葉に動揺しながらも兄を追いかけた。たった一人の身内を見間違えるなど

あるはずがない。まさしく今、目の前にいるのはいつもの優しい兄なのだ。

 「待て」

 追おうとする朱音の手首を引きとめるように掴む小さな手。凛が朱音を止めた。

 「身内(あなた)に迷惑をかけないようにとの配慮なのだ、()み取ってやれ」

 この時代、罪を犯せば親族・縁者まで連帯責任を負わされる場合がある。

 朱音の働き口にも当然影響する。自分のせいでこの世にただ一人の家族を

路頭に迷わせるわけにはいかない。そうさせないために宗三郎は天涯孤独を装ったのだ。

 もっとも、詳しく調べが及べばそんな虚言はすぐにバレてしまうであろうが。

 「ハイハイ、他人は散って散って」

 意外にも京楽がそれ容認し朱音を連行しようとはしなかった。


 「まったくバカな女だわ!さんざんわめいといて顔確認したら他人だったなんて

恥ずかしいったらありゃしないわっ!」

 京楽は一部始終を目撃した野次馬達にワザと聞こえるようにそう叫んだ。

 野次馬は勘違いした朱音を嘲笑(ちょうしょう)こそすれ犯人とは無縁だと思って

くれるはずだ。完全にとはいかないが朱音に悪影響は少ないだろうと凛は思った。

 もっともその小芝居を打った京楽自身が一番顔を赤らめていたが。 

 「京楽…アンタ」

 ちょっと意外な感じで凛は驚いた。てっきり手柄のために妹の朱音まで連行すると

思ったからだ。

 「何よっ?アタシ仕事には実直だけど心まではカチカチじゃないわよ」

 アタシの心の色を表す純白の羽織よ、と京楽は言いたげだった。

 凛もそれを察知したがお互い恰好(かっこう)付け過ぎだと思って言い合うのをやめた。

 朱音は縄にかけられ連行されようとしている兄、宗三郎を見つめ続けている。 

 「優しい兄…だったのだな」

 凛は朱音の腕を握りながら不器用に告げた。それを聞いた朱音は泣きそうになりながらも

兄や京楽の行為を無駄にしないため気丈に振る舞った。

 強い(ひと)だな、凛はそう思った。


 その時、宗三郎とそれを連行する役人の集団の前に一人の深編笠の男が立ちはだかった。



11・奉行と宗三郎


 「宗三郎さん、アンタはそれでいいのかい?」

 野次馬の中からスルリと抜け出して現れた男は宗三郎にそう問いかけた。

 同心達は警戒を強め寄棒を構えた。しかし宗三郎の(かたわ)らにいた京楽はため息を一つつくと 

深編笠の男に近づいてこうささやく。

 「お奉行サマっ!またフラッとこんな所に!どうして鉄砲隊をよこしてくれなかったのっ!?」

 そういきどおる京楽は嫉妬深い女のように見えた。

 「ふむふむ、まあ後からまた上からゴチャゴチャ言われそうだったんでねぇ」

 「もう、かなり怖い思いしたんだからネっ!」

 普通一与力が町奉行とはできない話し方をしていたが町奉行大岡はまったく気にしていなかった。

 その光景に状況が飲み込めない朱音は戸惑いを隠せない。

 凛はその深編笠がすぐに自分の父、南町奉行大岡忠相おおおかただすけだと気が付いた。

 名奉行などと町ではもてはやされているが凛にとっては世話の妬ける子供のような存在だった。 

「おうチビッコ、もう少しこの侍の相手をしてやれるかい?」

 「は?何を言い出すと思えば…」

 この状況を見守っていた凛に大岡は声をかけた。もうすでに事件は解決し宗三郎は拘束された。

 一体この男は何を言い出すのか、それは京楽も朱音も宗三郎さえ同じ事を思った。

 加えて凛はチビッコと言われた事にも引っかかっていた。

「いやぁ、だって剣士なら最後は戦って死にたいだろぅ?正気に戻ったらもう全部終わってて

あとは落着はんけつ待ちなんて悔いが残るだろうよ」

 大岡はアゴを手でさすりながら余裕の笑みを浮かべて語った。

 「ダメよ!ダメダメ!この男は二人も残酷に斬殺してるのよっ!そんなわがまま許さないわ!」

 すぐに京楽は反論するが大岡は引く気配はまるで無い。

「それは狂った人格の方だろう、ほら見てみろよ、」

 確かに今の宗三郎は先ほどまでとは打って変わって別人のようにおとなしく、

粛々とその罪を受け入れようとしているのが誰の目にも見てとれた。

 「アンタ剣の道に進んでどれくらいだい?」

 大岡が直に宗三郎に聞くと、宗三郎は戸惑う事も無く若干の間を置いてその質問に答える。

 京楽とのやり取りを見てこの深編笠がただ者ではない事を悟ったのであろうか。

 「…25年間…剣のみにまい進してきたつもりでござる」

 しかし25年とは宗三郎の年齢からすると人生のほぼ全てを剣の道に捧げてきたという事である。

 なぜ今回このような事件を起こしたのかは吟味(取調べ)で明らかにするしかないが

 そのたたずまいは普段の人格者ぶりを容易に想像させた。

 「と、とにかくダメなものはだめなんだからねっ!」

 京楽は頑なに拒否をした。一度縄にかけた罪人の縄を民衆の前で解くなど

そうそう出来ることではない。

 すると大岡は深編笠の奥から鋭い眼光を放ちながらこう言った。 

 「いいから解け、でないと後でヒドイぜぇ」

 またしても京楽は冷や汗をかいて黙ってしまった。やはり与力が奉行に逆らう事など出来ない。

 それにこの親子は言っても聞かない事を今さらながら思い出した。

 京楽は渋々同心に命じて宗三郎の縄を解かせた。

 宗三郎は深呼吸をすると大岡に向かって一礼をした。

 「かたじけない」

 同心が緊張しながら押収した宗三郎の刀を再び持ち主に手渡す。(さや)を元々所持していないので

抜き身のまま刀を渡す同心はたまったものではない。

 宗三郎が左手でそれを受け取るとまた一礼をする。渡した同心は飛び跳ねるようにすぐに

宗三郎との距離を置いた。

 刀を手にした宗三郎の前には再び直刀を手にした凛が立っていた。


 「おう聞いてくれ!」

 大岡が周りの野次馬達に話し掛け始めた。

 「この男は今、侍として死に花を咲かせようとしている!立会い人頼むぜぇ」

 野次馬達に多少のざわつきがあったが皆黙って見届ける事にしたようだ。

 江戸の中心日本橋。職人、行商人、芸人とその職種は多種にわたっていた。

 侍の最後を見届けようと唾を飲む野次馬もいれば芝居小屋で観劇するより断然面白いものが

見れると集まった野次馬もいた。



12・蕨手の刃紋


 凛は父の宗三郎に対するこのはからいに感心していた。

乱心を正すだけでは宗三郎は悔いを残したままこの世を去る事になるところだったからだ。

剣士として悔い無く逝かせるという配慮に自分は欠けていたと思った。

 もっとも自分の娘を真剣の戦いに送り出す父親はどうかとも思ったが。

 「む〜ん、他人とはいえアンタも侍の戦いというものを目に焼き付けておくんだなぁ」

 大岡は何が何だかわからないうちに始まった再戦を戸惑いつつも見つめる朱音にそう告げた。

 この深編笠の男が何者なのかわからないまま朱音はおそらくもう二度と見られ

ないであろう兄の勇姿を見届ける事にした。

 先ほどまでの狂人の兄はもういない。そこにいるのは剣一筋に生きてきた

たった一人の身内の優しい兄である。

 京楽達役人は十手、寄棒を手にしたまま地に伏せ、この戦いに敬意を表した。


 「大岡 凛、再び参る」

 「岸 宗三郎、全力でお相手させていただく」

 止血のため右手を布で包んだ宗三郎は左手で(つば)の半分欠けた愛刀を手にしつつそう語ると

宗三郎は静かに諸手(もろて)左上段の構えをとった。

凛は再び抜刀すると改めて宗三郎と対峙した。先ほどまでの狂人とはまるで違う感覚を

感じていた。

 「蕨手刀(わらびでとう)…ずいぶん珍しいモノを差しておられるな」

 対峙した宗三郎が凛を見て静かに言う。

 蕨手刀(わらびでとう)…古墳時代から奈良時代に使われていた古刀。

刃幅が広く柄頭(つかがしら)が“わらび“のような形をしていることが名の由来となっている。

刀身は片刃だが切っ先は両刃。のちに主流となる太刀への橋渡し的な剣であり

刀身に反りがある太刀に近い蕨手刀など数種類の型が存在する。

凛が所持しているのは(こしら)えこそ今の造りだが片刃の刀身に切っ先は両刃の直刀で

太刀に近いタイプの蕨手刀である。

「初めてだな、この剣を知っている人がいるとは」

 凛はその知識の深さに感心しつつ闘志を愛刀に込めた。

 宗三郎は左手に剣を持ち五指の無い右手を(つか)に添えて鋭い眼光を放った。

 これが本来のこの人なのかと凛は気を引き締めた。

 凛は剣を地面と水平に構え体の右側に引き寄せて突きの構えをとった。

先ほどの対峙とは逆の体勢になった。

 「三段突きで終わらせる」

 凛は静かにそう語った。自ら手の内を明かすとは相当の自信があるからなのだろうが

それは一気にハードルを上げてしまう事を意味する。

 凛の性格を知る周囲の人間にはそれが虚言だとは思えなかった。それは宗三郎も同じであった。

 「罪は受け入れよう、だがここで負けるというのは別の話である」

 ここは大勢の人が行き交う江戸の大通りである。が、この狭い一角だけはいまだ真夜中のように

シン、と静まり返っていた。

 「兄様…どうか…」

 「おっと目を離すなよぉ、三段突きを出せば一瞬だぜぇ」

 大岡は沈みがちな朱音に声をかけた瞬間、

 凛がだんっ!と踏み込んだ。

 凛が先に動いた。先程とはまったく逆の展開になった。

 体ごと投げ出すような突きは振り下ろす袈裟斬りよりも圧倒的に長い距離を生む。

それでも凛の体格では宗三郎の巨体の前に不利である事に変わりは無い。

どこからでも宗三郎の斬撃は凛に届いてしまう。

 元々凛の領域は圧倒的に狭い、先程のように五指を斬り落とすような戦い方とはワケが違う。

 今はこの巨体を斬り倒さなければならないのだ。

 だが凛はこの不利な状況下にも臆する事無く向かって行く。


 その心意気に感謝するっ!


 迎え撃つ宗三郎は片腕でその愛刀を振り下ろす。

 侍として生涯初にして最後の真剣勝負を勝利で締めくくろうと宗三郎の目は

凛の眉間に狙いを定めた。


 凛は左の小手に狙いを定める!



 宗三郎はすばやくその動きに反応する!



 次の瞬間、凛は目線を胴に向ける!



 宗三郎はさらに反応する!



 が、蕨手刀の切っ先はそれに反しまったく違う動きをみせていた。


 !? (くら)まし!!

 宗三郎がその動きに気付いた時にはすでに切っ先は自分の額を貫こうとしていた。


 現場に緊張が走る。周りから見れば宗三郎は上段構えのまま何もしなかったようにしか

見えなかった。

「一段目と二段目は目線による誘導(フェイント)、その虚を突いて一撃で仕留める。

それが私の三段突きだ」

 

 宗三郎はまったく動けなかった。自分の額の寸前で止められた刃に冷や汗を流しその敗北を認めた。

「私の剣で天下は取れそうかね?」

 宗三郎は刃を眼前に突きつけられながら凛にそう尋ねる。それが何を意味するのか

その時の凛にはわからなかった。

 「命があと30ほどあれば…可能かと」

 凛は正直に答えた。確かに強者である事に変わりは無い。

 だが一般の剣士より若干秀でていると思うだけで天下を引き合いに出されては

とても宗三郎の実力では…

 それを聞いた宗三郎は何かを納得したようにうなずき、実に晴れやかに、

にこやかに微笑んで刀を地面にガシャン、と捨てて答えた。

 「見事であった」

 目線の先には蕨手刀(わらびでとう)直刃(すぐは)と呼ばれる刃紋が(にぶ)

(きら)めいていた。


 

 「お侍さんよぉ、スッキリしたかねぇ?」

 再び縄にかけられた宗三郎に向かって大岡は語りかける。宗三郎は二度目も素直に縄についた。

 「どなたかは存じ上げぬが言葉も無い」

 落ち着いた口調で宗三郎は答える。どうやら悔いはないようだ。

 それを確認した大岡は大きく息を吸い込むと大声を張り上げた。

 「ようし!これにてみんな解散!!」

 


 朱音は野次馬をかき分け連行される宗三郎の一団を黙って見送り続けていた。

 最後は言葉を交わすことも目を合わせることも無かった。この場ではあくまで二人は他人なのだ。

 そんな朱音の前に小さな影が歩み寄ってきた。体に合わぬ刀を差したその小さな影は

朱音に何かを伝えようとしていたが、なかなか口に出せないでいるようであった。

 凛は朱音に謝りたかった。それは二人の別れを見てさらに顕著になった。

自分のした事は間違っていなかったと思っている。

 だが救うと言いながら言葉すら交わさせず兄妹に永久(とわ)の別れをさせてしまった事に

胸が締め付けられる思いだった。

 

 「あ…あの…」

 言葉に詰まる。相変わらずこういう時にうまく感情を表現できない。せめて涙でも流せれば

まだ説得力があるだろうに。

 「わ、私は…」


 ベシッ!  バシッ!!  ビシイッ!!!

 凛はそのくやしさからか自分の人形のような顔を平手で叩き始めた。

 昔からそうなのだ。本当は嬉しいのに、悲しいのに、感謝しているのに、感情がうまく表現

出来ないせいで周りにいらぬ誤解を受ける事が多々あった。

 自分がこんな性格でなければ、こんな顔でなければ!頬を叩く手が平手から拳に変わろうと

したその瞬間、凛の両手を朱音の手がやさしく包み込んだ。

 「ありがとう…」


 朱音はそう言いながら凛の小さな手を握り続けた。

 「想い…顔なんかに出さなくてもちゃんと伝わりますから」

 凛は朱音のその言葉にハッとなった。その大きな目をさらに丸くしながら、

 (この人は父上と同じことを言う…)

 昔、子供達にいじめられた時に父は同じ事を言って自分を慰めてくれていたのを思い出した。

 「朱音…さん…」

 凛が戸惑いを隠せないでいると朱音は続ける。

 「兄のあんな晴れやかな笑顔を見たのは何年かぶりです、兄は優しかったけれど

いつも心の奥底に何か抱えてるような感じでしたから…」

 そう言いながら朱音は微笑んでくれた。突然兄を失ってそんな事が出来る状況ではない

ハズなのに凛を思ってか精一杯の笑顔を見せてくれた。

 

 (なんて優しい笑顔なんだろう)

 凛は朱音がなぜ評判の看板娘なのかわかった気がした。きっとこの温かい笑顔にみんな心を

許してしまうのだろう。

 そして思う、いつかこの人の心の底からの笑顔を見てみたい、と。



13・生き人形、生きる


 あれから一ヶ月後、宗三郎の死罪が執行された。

 江戸っ子の話題の移り変わりは早いもので事件はすでに風化しつつあった。

もっとも凛は日本橋界隈では有名になってしまったが。


 町を歩く影が2つあり。1つは細長い体に純白の羽織を着た長身の男。もう1つは体に合わない

長い刀を細い腰に差した袴姿の女の子であった。

 二人は吟味方が報告してきた宗三郎の調書について語っていた。

 「25年間、剣で身を立てようと生きてきたが腕はしょせん二流止まり、

かと言って今さら他の生き方も出来ない」

 「日々そう思い悩むうちに突然頭が錯乱した…か」

 どうやらそれが吟味(取調べ)で明らかになった動機らしい。そして狂いながらも自分には

無い若さと可能性を秘めた若侍を手にかけたのではないか、というのが吟味方の見方だ。

 若干何か引っかかるが、父が信頼する吟味方の正式な報告である。

 「無意識に将来ある若者を狙った…か」

 凛がまっすぐ前を見据えながら言う。

 「ただの嫉妬ね、みっともないわ」

 京楽はうつむき気味にそう語ると伝え聞いた吟味での宗三郎の様子を語り始める。

 剣が握れなくなったせいか、まるで憑物(つきもの)が取れたような顔をしていたらしい。

剣の呪縛からようやく開放されたおかげだろうと吟味方は話していたという。

 凛は敗北を認め、うなずき微笑んだ時の宗三郎の姿を思い出した。

 「そうか…もしかしたらあの人は剣の道を誰かに断ってもらいたかったのかもな」

 凛はあの時の宗三郎の行為の意味が理解できた気がした。

もっともその役が自分で良かったのかどうかはわからなかったが。

 「バカなオトコ、剣なんて今時何の役にも立たないっていうのに」

 太平の世でも剣に生きようとする時代錯誤の者は多い。京楽は時代に合わぬ生き方を

する者達の気持ちが理解できなかった。

 凛も女でありながら好んで剣を使う。子供の頃に父が買い与えてくれた高価な市松人形には

目もくれず道場に通った。だから剣に生きようとするのはわからなくもなかったが、

いかんせん時代が違いすぎる。

 父の放任主義で剣を始めたのだがそれはあくまで趣味の延長のようなものだ。

剣で名を馳せようなどと考えた事もなかった。


 

 今回の事で父、大岡忠相に少しだけ怒られた。一方自分の娘に真剣勝負をさせた事は

素直に謝ってくれた。

 子供じみている部分も多分にある父だが尊敬の念は抱いていた。

放任主義といっても“自由”と“何でもアリ”を履き違えれば真剣に怒られる。

そんな正面から向き合ってくれる父が凛は嫌いではない。


 もちろん面と向かってそんな事を言えるハズもなかったが。


 

 昼四ツ(午前10時)。日本橋本町通りに面する貴船屋は今日も繁盛している。

 この時間は子供連れの母親や若い町娘達で混み合っていた。女将のはからいもあってか

朱音も無事、貴船屋の看板娘を続けているようである。

 凛と京楽は評判の貴船屋に立ち寄るためにここに来たのだがどうやら満席のようである。

 ちょっと残念な反面、朱音のいる店が繁盛している事に凛はどこか喜びを感じていた。

 その時、羽織に前掛け姿の朱音が店外の客席に茶を運んできた。

 客に笑顔で接する朱音の様子を遠目から見ていた凛は少し安心した。

 その場に立ち止まっていれば目立つ凛と京楽である。朱音もすぐにその二人に気付いたようだ。

 そして朱音は凛と京楽に向かってニコリ、と優しく微笑むと軽く会釈をした。

 店内からお呼びの声がかかったのかその後、朱音はまたすぐ仕事に戻っていった。

 その微笑を見ながら自分もいつかあんな笑顔ができたらな、と思う不器用な少女がそこにいた。

 


最後まで読んでいただきましてありがとうございます。どのような意見、感想でもOKですのでドシドシお願いします!遊創社HPにてオンラインコミック版も見れるのでよろしくお願いします。

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