プロローグ
森の中、二人の男が対峙していた。
一人は中年の男性で、もう一方は長い茶色の髪を高く結い上げた少年だった。
「親父、俺は絶対に嫌だぞ」
少年はそう言い、拳を前に突き出し腰を落として構えをつくった。
男性はその構えに眉を潜め、厳しい口調で静かに言い放つ。
「伊吹よ、これほど父が頼んでいるというのにダメなのか。」
「親父はいつも自分勝手じゃねーか。今回はなんだ?女だって??」
少年は怒りで体を戦慄かせた。雨が降り出し少年の肩を濡らす。
「でも、あの子には必要なんだ。それに約束しちゃったし…」
「約束しちゃったってなんだよ、親父の約束だろ。俺は知らない」
少年は、言葉を吐き捨てる様に言う。そして、無言の男性を見つめ諦めたように嘆息した。
構えをとき、男性に背を向ける
「もういい、俺は帰る」
「伊吹っ」
男性は慌てたように少年の行く手を阻んだ。少年の前に躍り出て、その先へ行かせないように両手を広げる。
少年は足を止め、男性を睨んだ。
「伊吹、どこに帰るというのだ。お前の家はこの先にある」
そして少年の後ろを指差す。
「親父、邪魔だ」
怒りを露わにし、少年は男性を睨む。
その眼力に、少々身をすくませながら「この先にゆきたくば、俺を倒してゆけ」と言い放った。
その言葉に少年は勝ち誇ったように笑みを浮かべ、再び構えを作る。
「親父、後悔するなよ」
本降りになってきた雨が二人の全身を濡らした。