魔を使いし者とレディと、魔の者
「大丈夫か!!そのレディから離れろ!!」
自分の出せる最高速度で走りながら、考える。
私はまず目の前の状況が、不思議でしょうがなかった。
なぜ、か弱いレディが、こんな夜中の森に1人でいるのであろうか。
前進真っ白なその姿は、森の中ではよく目立ち、襲ってくれといわんばかりではないか。
まだ、年齢も若く見える。ひとりでこの森にきたとは考えづらい
「これは、、、まさか」
そう、見捨てられたのだ。
このくらいの年のレディは、残念ながら奴隷として商品になることが多い。
両親が無くなり、身寄りもなく、奴隷に身を落としたのだろう。
そして、隠れて夜中に身柄を運ばれているとき、魔獣の襲撃をうけ、
そして彼女は、囮にされたのだ。
「なんと、、なんとっ!!紳士的ではない事を!!」
胸の一部が熱くなっていく。これは怒りであることは理解できた。
怒りにまかせたままの、一撃を通りすがりのオオカミにぶつけてしまう。
いつの間にか腰から抜いていた片手剣は、簡単に獣の頭をつぶす。
少女のもとまでたどり着くと、後悔の念がおしよせる。
またやってしまった。
感情に流され、力をふるうことは、紳士的ではない。
許せないことがあると、わたしはいつもこうだ。
しかし、今は反省の時間ではない。
反省なぞ、あとからゆっくりと宿屋で行えばいい。
まずやるべきであることは、ほかにある。
「これはこれは、レディがこんな時間に出歩くのは危険です。ぜひこのガスバティーンを、あなた様のおともに。」
そう、まずやるべきことは、レディの安全の確保である。
心細く、精神もまいっていたのであろう。
その少女は表情がこわばってしまっている。
なぜもっと早く気付くことができなかったのか。
またも自らを責めたてようとすると、少女が口を開く。
「いえ、結構です。」
・・なんということだ。ずっとそのような扱いをうけてきたのであろう。
感情すらも、醜い大人にはぎとられてしまっているようだ。
私はこの少女を見捨てることなんて、できるわけがない。
この少女に、罪はないのだから。
「大丈夫です。私は、味方です。その証拠をご覧いただきましょう。」
そうである。まずは、周りを囲む少女の脅威を取り払わないと、話も落ち着いてできるはずかないではないか。
そうと決まれば、背中から盾を取出し、左手にしっかりと持つ。
目の前のオオカミにむけて、体を半身にし、盾を前面に持ってくる。
相手は、オオカミ2体に魔獣が1体。
私がジリジリと前に出ていくと、辛抱できずにオオカミの1匹が飛びだし、
それに続けて、もう1匹のオオカミも追走する。
最初にとびかかってきたオオカミは、私の足元を狙っているようだ。
大きな口を開き、滑り込むように低い体勢でまっすぐに足へむかってくる。
1体に集中することはしない。
複数体を相手にするときは、全体を意識の中に収める必要がある。
先頭のオオカミを盾で上からつぶし、右手に力を入れる。
その瞬間に飛び掛かってくる後方のオオカミを、片手剣で切り下した。
半身に構え、盾を前に置くことで、右手の剣はオオカミに全く見えていなかったようだ。
剣を振り下ろす速度と、オオカミ自身の飛び掛かる力が、簡単に戦闘をおわらせることになる。
左手の盾の下で動けなくなっていた、オオカミにもとどめを刺してから、ガスバティーンは気付く。
後方には、あの、か弱きレディがいたのである。
飛び掛かってきた獣をすれ違いざまに切ったということは、少女に血などがかかってしまったのではないかと。
それはいけない。
紳士たる者、レディの服を汚すようなことはあってはならない。
急いで振り返ったガスバティーンは、一瞬、少女を見つけることができなかった。
思っていたところとは、違う場所に立っていたのだ。
いつのまにか動いたのか。いや、自分の認識違いであったのだろう。
そんなことよりも、少女が今の戦闘に巻き込まれていなかったことに安堵する。
「怪我などはしていないか?」
近寄りながら、しかし、意識は魔獣からそらさずに、わたしは話しかける。
「はい。まったく。」
そう答える彼女は、やはり表情を変えない。
胸の奥にぎりぎりとした痛みを感じる。
この少女がどのような扱いをうけてきたのか。
さぞ、怖かったであろうに。
しかし、ここで不安そうな顔を見せてはならない。
いつだって、紳士たる者、笑顔を忘れてはいけないのだから。
「それは安心しました。それではしばらく、お待ちください。あの魔獣が律儀に待ってくれています故。」
紳士たる者、レディに不安を微塵にも感じさせてはならないのだ。
余裕の笑みを浮かべ、意識を魔獣へと移すのであった。




