白の巫女と魔の者
町と町をつなぐ街道を、一人の少女が歩いている。
腰まである髪は白に染まり、それと同じように白一色の服をきている少女の周りは、夜にも限らず光を発しているようにも見える。
そもそも、日が出ていない時間に外出をする人間など多くはおらず、しかもそれが少女一人であることは、明らかに不自然な状況であった。
「すいません。」
少女は、自分の右斜め下の空間を見つめながら話し始める。
何もない空間に見えるが、確かにそこには、少女の話し相手がいる。
「急にどうした?」
その相手は、これもまた光っているように勘違いしそうな蒼い毛並みのオオカミであった。
いや、実際に光っているようである。
暗い夜道を歩いているため、少女の視界を照らしている。
「私は、今まで村から出たことがありません。村の外のことをなにも把握していないのです。」
少女ーサエーに表情の変化はない。
しかし、不思議と申し訳なさそうな空気感を感じ取れる。
「そのため、アイル様のご要望に応えることが難しいのです。」
アイル様と呼ばれた蒼いオオカミ。
何を隠そう、このオオカミの正体は水の祠で奉られていた水龍である。
ここでいう水龍というのは、龍のことを言うわけではなく、神に認められ、力を分け与えられた者のことだ。
巫女としての素質が抜群であるサエを憑代とすることで、外界にでているアイル。
サエの言葉をうけて、人間のように、頭を右前脚でおさえた。
「どうしてサエはそんなに自分を卑下するんだ?おれはサエがいなかったら、こうやって外に出ることなんてなかったんだ。サエには感謝してる。」
「しかし、わたしは、」
そう続けてくるサエを無視する形で、3,4歩前にでる。
この少女は、自らにたいして何も期待していないのだ。
物心ついた時から、周りの大人に自分の生存意義を否定され、挙句の果てに、生贄としてアイルに差し出されている。
自らを何もできない人間だと思いこみ、話し相手がいなかったためか表情の変化も乏しい。
そのくせ、自分を犠牲にして他者の役に立つことをよしとしている。
自らの命を、軽く考えているのだ。
「サエ、また獣だ。オオカミが3匹と、、なんだこの感覚は?オオカミに似ているが、まったく力の大きさが違う。」
夜道を歩いている以上、獣には何回か遭遇している。
なんせ、サエは道具など何も持っていないのだ。
野宿しようにも、知識も何もない。
それに、水龍であるアイルの憑代となっているサエは、疲労をあまり感じることなく、歩き続けることができている。
不自然なほどに汚れのないその服が、何かに守られている証にも感じられた。
黒く、どんよりとした空気を纏った獣3匹がジリジリと歩み寄り、サエを見ながら鋭い犬歯より涎を垂らす。
彼らにはアイルの姿は見えていない。
今の所、アイルの姿を確認できるのはサエだけであり、それはサエの巫女としての飛び抜けた才能のおかげである。
「サエ、力を使え。早急にこの場から離れよう。目の前のオオカミは今までと変わらないが、その後ろに嫌な気配がする。」
そういいながら、アイルの毛並みがさらに蒼く、光輝く。
アイルからサエへ、一筋の青い光がつながったかと思うと、サエの髪が薄く蒼くなっていく。
サエは、小さくうなずくと、助走もなく走り出す。
その速度はオオカミたちが見失うには十分な速さであった。
水龍であるアイルがつかさどる力は、「速さ」と「癒し」
その力を使うことで、少女は野生動物には追いつけないほどに速く動くことができ、獣の動きが遅くなったと思えるほどに、感覚が研ぎ澄まされる。
そして、多少のケガは意識できないうちに治癒してしまう。
これで、4回目の野生動物との遭遇であったが、サエの速さの前に、追いつかれることはなかった。
「・・・っ!」
咄嗟にサエは大きく右方向に飛び退く。
道の左側にある藪の中から、大きな黒い影が迫ってきていた。
その速度は、あきらかにオオカミたちよりも速かった。
今までの獣とは段違いに長い脚と爪は、サエをめがけて伸びてきているのではないかと錯覚するほどだ。
そして。
それを顔色変えずに、しっかりと避けきるサエは、ある意味不自然であった。
これも水龍の力を借りれるほどの才能のおかげだ。
急激な暴力を回避したのち、あらためて少女はその姿を確認する。
体格は、オオカミの2倍はあるかという四足歩行。
体躯の大きさを除けば、ほぼほぼオオカミであるが、その四肢は、不気味に赤く光っていた。




