魔を使いし者の紳士道
ガスバディーンは魔獣と正面から向き合っている。
「待っていただいたようで、わざわざすまない。しかし、レディとの会話に割り込まないとは、なかなかの紳士とみた。」
魔獣はあいかわらず、その場からは動かずにいる。
それは彼の言うように、会話に割り込むのを良しとしない紳士的精神では決してなく、一瞬にして、群れが壊滅に追い込んだ目の前の男に対する恐怖からであった。
「しかし、申し訳ない。私は、貴公を倒さなければならない。」
ガスバディーンは、剣についた血を一振りで落とし、腰の鞘に収めながら続ける。
「人々の安全のため!、、いや、今は違うな。ひとりのか弱きレディのため!」
その話を聞いてるのかいないのか、魔獣は頭を下げ、臀部を空高く掲げている。
完全なる臨戦体勢をとった獣は低く唸っている様子だ。
よく見ると、徐々に四肢の赤みが強く色帯びてくる。
魔力が集中している証拠だった。
知力がある程度ある魔獣は、恐怖を感じ、逃げだすことがある。
魔獣との戦闘時、それが一番厄介な部分でもあった。
しかし、この魔獣は逃げることはしない。
本能で、逃げることへの無謀さを理解しているのか、はたまた、群れの復讐か。
それは彼にしか、わからない。
「貴公の力、存分にわたしにぶつけてくるがよい!わたしは、貴公の全力をみたいのだ。」
その瞬間、魔獣は溜めこんだ魔力を、力として具現化させる。
4本の足は、爆発するかの如くに地面をけり、一瞬にしてガスバティーンとの距離をゼロにする。
その勢いのまま、前足で、後ろ足で、牙で、体全体で、攻撃をし続ける。
一方、ガスバディーンはその場を一歩たりとも動かない。
これが最後だといわんばかりに、魔力が籠り、赤く光った牙がガスバディーンの腹部めがけて勢いよく突き進み、
そして、とまった。
たしかに、牙はガスバディーンの肌に届いていた。
しかし、届いていただけだ。
肌に触れ、それ以上進むことができないのである。
「素晴らしい。素晴らしい攻撃であったぞ!」
右手に魔力を集めながら、ガスバディーンは相手を讃える。
「体に込める魔力のバランスも申し分なし!貴公は間違いなく強者であった!」
いつの間にか、左手に掲げていた盾も地面におちている。
そして、その左手にも、魔力が集まっていく。
その魔力量は魔獣の何倍に膨れ上がっていく。
「貴公が負ける理由は2つ。1つは筋肉が足りないこと。そしてもう1つは、この吾輩。ガスバディーン・ツペェシュに出会ってしまったことである!」
両手に集まった魔力が、次第に熱を帯びていく。
「貴公を倒したものの名だ!では、行くぞ!」
ガスバディーンは叫びながら魔獣の腹部に両手をそえる。
魔獣はというと、目を閉じていた。
それは、諦めの表情にも、すべてを受け入れる表情にもみえた。
「ファイヤァァァボォォォルッ!!!!」
火の魔法の中でも基本中の基本、ファイヤーボール。
それは単純明快な魔法。火の玉を相手に飛ばす魔法。
ガスバティーンの放った、ゼロ距離のファイヤーボールは魔獣の体をそのまま上空まで勢いのまま運んでいく。
「爆散!!」
背の高い木を飛び越えた魔獣の姿は、彼の声と合わせて聞こえた爆音とともに、みえなくなるのであった。




