白の巫女と熱く苦しい者
「大丈夫か!!そのレディから離れろ!!」
その熱いぐるしい声と一緒に飛んできた火の玉は、魔獣めがけて一直線に向かっていく。
距離もあったため、魔獣は難なくその場から動き、火の玉を避ける。
「初歩的な魔法だね。しかし、火の純度、狙いの精度、含まれている魔力量。なかなかのものだ。」
「今のが魔法なのですか?わたし、初めて見ました。」
サエが、無表情に言う。初めて見た割に、気持ちの揺れ動きが全くないが、それは二人にとって気に留めるほどのことでもなくなっていた。
アイルは火の玉が着弾した地点から、声の聞こえる方向に目線を変える。
そこにいた人間は森の中を走っているとは思えないスピードから一般人ではないことがわかり、
そのとびぬけた体躯から、普通ではないことは理解できた。
「あれ?火の魔法が飛んできたから、てっきり魔法使いかとおもったけど、あの体格は戦士かな?」
「体格ですか?」
「僕らの時代では、魔法使いはもっと線が細く、頭でっかちのイメージだったんだけど。
というか、あの体つきは、魔法使いっぽくないというか、戦士じゃなきゃ不自然なレベルというか、戦士としても不自然といえば不自然だね。」
サエがようやく、声のした方に目を向ける。
ちょうど、その筋肉がすれ違いざまに、一匹のオオカミを力任せに一刀両断にしているところだ。
「しかし、ほかに人の気配もしない。やっぱりあの筋肉ダルマが魔法をつかったのかな?時代は変わるもんだね。」
そんなアイルの話を聞いていると、その筋肉ダルマが話しかけてくる。
「これはこれは、レディがこんな時間に出歩くのは危険です。ぜひこのガスバティーンを、あなた様のおともに。」
「いえ、結構です。わ・・」
私には、アイル様がいらっしゃいますのでと、断ろうと思ったのだが
「サエ。私のことはわざわざ言わなくてもいいよ。それよりもレディ、あなたのお供に。ときたか。これはなんだか、楽しい展開の匂いがするよ。」
と、アイル様がおっしゃったため、それ以上は、何もいわなかった。
「大丈夫です。私は、味方です。その証拠をご覧いただきましょう。」
どこまでも無表情なサエに、ゆっくりと優しい声色で話をする。
ガスバティーンと名乗ったその男は、振り返り、左手に構えた盾を体の前に出す。
右手はゆっくりとさげ、体の影にもってくる。
男のまとう空気が変わるのを感じると、ほぅと感嘆の声をアイルがあげた。
「これはなかなか。いい空気感をもっている。これで魔法をつかったのもこの筋肉だとすると、そうとう腕の立つ人間であることは間違いないようだ。」
サエにはわからない感覚であったが、アイルがそういうのならば、そうなのであろう。
あっという間に、1匹のオオカミを盾で抑え込み、もう一匹に剣をふるった。
「サエ。この位置はいろいろ危なそうだ。少し場所を変えよう。」
「分かりました。」
アイルの力を借りて、サエはその場所を移動する。
このまま、筋肉から離れ、遠くに行こうかとも思うが、アイルがこの辺でと言うため、そこで止まることとする。
さっきまでサエがいた場所は、切られたオオカミの血肉で大変なことになっていた。
「怪我などはしていないか?」
「はい、まったく。」
「それは安心しました。それではしばらくお待ちください。あの魔獣が律儀に待ってくれています故」
ガスバティーンの表情が一瞬くもり、そしてすぐに優しい笑みになる。
その笑顔は、見るもの皆に無条件に安心感を与えてくれると錯覚するほど、柔らかいものであった。
満足げに魔獣へと向き直るガスバティーン。
しかし、その笑顔が届いたのはアイルだけであったことに、彼は気付けない。
その二人の様子を見比べ、とうとうこらえきれなくなったアイルは笑いながら、こう言うのだ。
「これは、すばらしい!戦闘能力もそうだが、なによりこの性格は素晴らしい!しばらく楽しませてくれそうだぞ。ガスバティーンとやら!」
アイルが何をそんなに、楽しそうにしているのか。
サエは、アイルの往復している尻尾を目で負いながら、少し考えるのであった。




