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そろそろほろり秋刀魚の身の上

 刺身のとろりより、焼き身の脂がグツグツの方が楽しみな季節になってきました。焼き塩ぱりぱり貼りついた皮もね。笠間焼きの細長い皿にすらりと横たわった焼き秋刀魚をみてにんまりを禁じえません。

 落語の『目黒のさんま』に例をとるまでもなく、脂や血合いの強い魚はお江戸の昔は下魚の類いでした。特にサンマ、イワシ、メザシと言った類いは大量に獲れたため高価な菜種の代わりに脂を搾られて照明用燃料に使われ、庶民には疎まれ下魚のそしりを受ける存在でした。だもんで大名商売の吉原はいざ知らず、新宿四宿の女宿、奴ののたくる下町長屋は夜はさぞや生臭かったでしょうナ。

 脂が美味しいマグロなどは庶民の魚もいいところでトロをはじめとする江戸前寿司は、芝居見物の屋台で団子のようにまとめて串刺しで安く売られるのが常だったと言います。

 ときの将軍など見ますといくら贅を凝らしても食べる魚は主に白身の(きす)、雉や鶴をはじめとした獣肉は儀礼用、まことに寂しい限りです。

 そう考えますと、この焼き秋刀魚などは将軍様もご存知ない、庶民だけに許された贅沢、さればこそ落語のネタになった逸品でございます。

 パリパリの皮が黒く焼けて弾けて、身の脂がぐつぐつ弾けている頃合いが大事ですな。ほっこり箸で片身を割りますと、薄桃色にほのかな血の気の残った肌身がほろり。大根おろしに醤油をいきなりまぶしちゃ野暮ですな。塩粒浴びたパリパリの皮に脂が。こいつをまとわせて、冷酒をひとくち。夕になって急に冷え込んできた表の寒風が沁みます。豊かな身と皮を楽しんだ後は焼酎でもいい、冷たい酒で黒くとろりとした内臓を味わって。

 今夜は貰い物、18年物の泡盛古酒がございます。夏の名残、常夏の国の強酒で洗い流して。今日も秋一番を感じて乾杯です(`∇´ゞ

(2015年9月23日掲載)


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