カツ丼~ カツ丼原理論
ハイ、下らない話を致します。滅多に外食をしないわたしが、お仕事でやむをえず外食をして『カツ丼』を頼んだときのことです。
「卵でとじてない…」
カツ丼(味噌汁付き)が到着したときのわたしの内なる第一声です。カツ丼と言えば卵とじ。そして飴色に沁みた玉ねぎ。しかるに、このカツ丼は、卵に覆われておらず、ソースカツ丼のカツのように恥知らずな揚げたてキツネ色をアピールしてきます。カツのさくさくを強調したいのは分かるよ。いや、それも悪くないし、実際不味くはなかったです。揚げたてカツに、とろとろの白身(透明)はかかってましたしね。しかし。
「カツ丼ってこれと違うだろ!?」
あえて原理主義者の暴論を申します。どこのどんなと言えば、本当の営業妨害になってしまいますし、カツのさくさくを重視したい方もいるでしょう。しかしわたしはあえて問いたい。町のカツ丼の原理原論を。
1.カツ丼は、どんぶりの中でふにゃふにゃしていなくてはならない。
ベストは陶器でなく、漆器の中で蒸れるカツ丼です。内側はまだ半熟でも、卵でとじて煮た段階でカツも卵も、漆器の中で蒸らされてふにゃふにゃにこなれている。
丼と対面したときこの蒸れた香りが重要だと言いたい。きちんとした和食屋であれば煮汁に自家製の蕎麦つゆを使っています。ふたを開けたとき、脂っぽいカツを煮たそのつゆが薫る。鰹だしの効き方でこれがすでに泣けます。これはカツ丼にしか味わえない感慨です。
2.ごはんは、少し蒸らしすぎでなくてはならない。
たぶん普通に炊いたご飯が、漆器に籠った自分とカツ煮の熱気でさらに蒸らされます。そのため白いご飯の香りがより強く主張してくるのです。同じく蒸れて角が立たなくなった揚げたカツの匂いと釣り合いがとれ、掻き込むのに非常に都合がいい。丼の一体感が強く味わえます。
3.つけあわせは東京沢庵に、しば漬け。
サッカリンで甘味がたった、厚切りの東京沢庵でなくてはなりません。そしてしば漬けは梅の効いたなるたけ塩味の強いもの。甘味と塩味。欠かせないのは両方、パリパリしてなくてはなりません。口のなかで音がするほどです。ふにゃふにゃのカツ丼にはこれがベストです。
4.カツの煮方がまちまちだ。
玉ねぎが生だったり、卵が煮すぎのこともある。昼どきのラッシュが過ぎ、店主が油断している昼下がりなど、起こりがちのことだ。しかし客は大好きなその店の蕎麦つゆの薫りをかてに食べる。冷凍ものじゃないかぎり。
以上、つい熱くなって暴論を説きましたが、これこそなくなってほしくないわたしが『カツ丼に求める』原論であります。そんな定食屋のカツ丼よ永遠なれ。まー、チェーン店が普通になり、そのお店のぶれないカツ丼も悪くないのですが、古き良きカツ丼も、生き残ってほしいものです。
(2016年3月29日掲載)




