∞ レスティリア 共通①
――私はスパイ、ある組織に潜入して機密情報を抜きとるのが仕事。
“わが社にライバル会社のスパイが潜り込んでいるようだ”
――なんてこと、スパイであることを悟られる前にずらからなくちゃ!!
「よし、いい区切りもついたし投稿しよ~」
「なにやってんの?マリア姉ちゃん」
弟のマトゲが後ろから画面をのぞきこむ。
「ネット小説」
「へー普段本読まないのに?」
「いや、でもほらオカルト誌は好きだよ~?」
宇宙人やら未確認生物、妖精やら異空間に巻き込まれてパラレルワールドに行った人がいるという話は興味がある。
「で、星府が宇宙人の情報を隠してるとかは超気になる!」
「厄介事に首突っ込んで事件に巻き込まれたりしないでくれよ?」
◆マトゲったら
〔心配しすぎ〕
〔わかってるって〕
〔嬉しいな〕
「はいはい」
オカルトを調べたくらいで巻き込まれるなら、とっくに巻き込まれているだろう。
「さて、小説の反応を見ようかな」
「まだ一分なのに反応なんかあるわけないだろ」
「あれ?外部からコメント来てるんだけど……」
{まるで作者様にはスパイ経験があるかのようですね}
「なにいってんだこいつ」
「え、こんな素人の女子高生が適当に書いたト書きなのに誉められていいの?」
―――ガタガタ、ガチャン。チャイム無しに誰かが家の鍵を開けた。
「誰?」
私はマトゲを背に隠すと小声でたずねる。いざとなったら彼だけでも助けなくちゃ。
「きっと父ちゃん母ちゃんだろ?」
「さっき飛行機に乗ってフライト中だって……」
乗らずに帰宅、にしても空港からここまで一時間くらいの距離がある。
祖父母が来るなんて連絡はなかったし、だとしたらマンション大家の中津さんくらいだ。
「そういえばクラスメイトと同じ中学校だった園崎さんは中津さんの息子さんの生徒なんだって」
「へー」
クラスメイトを思い出して怖さをまぎらわせる。
「よっ!」
「沙彦くん、穹兜くん!」
母方の親戚で、年が近いからよく昔は遊んでいた。
「沙兄ちゃん、穹、ひさしぶりだな!」
「おうっ」
「そういえば神父さんになったって」
「あ、牧師だけど」
◆神父と牧師の何が違うんだろ。
〔きく〕
〔きかない〕
〔どうでもいい〕
「ところでなんで来たの?」
「サプライズ」
「おじさん達が留守だって聞いてさ」
二人は鍋を作ってくれるみたいだ。
「はい出来たよ」
「わーおいしそ~」
「姉ちゃん何食う?キノコ多目に食っていい?」
◆マトゲは舞茸が好きなんだよね
〔お姉ちゃんだし〕
〔なら肉くれ!〕
〔だめ〕
「じゃあ椎茸は僕がもらうよ」
沙彦さんが不人気椎茸に挙手し、皆がどうぞどうぞ。
「オレの肉やる。豆腐よこせ」
「ありがと~」
穹兜くんは昔から見た目に反して肉がダメらしく私にくれた。
楽しい食事も終わり、二人は帰った。
「さてパソコンパソコン!」
部屋に行こうとしていると、またもやガタガタ聞こえた。
「え、また?」
「こんどこそ父ちゃん母ちゃんじゃないか?」
鍵が荒く壊されて、気がついたら窓を除いて包囲されていた。
「いくぞ!!」
「きゃああああああ」
私はカーテンごしに窓ガラスを割って、周囲に危険をしらせた。
「逃げようと思えば逃げられたんじゃないか?」
彼等とは違いサングラスをしてスーツのヤバそうな男が私に言った。
◆なにこの人
〔かっこいい〕
〔だっさ〕
「それにここは4階だから」
せめて3階なら良いものをこの高さで複雑骨折覚悟で彼らに捕まるよりはマシ、なんて事はないだろう。
「もう少しテンパると思っていたが良い判断だ」
確かにこれはただの女子高生らしくないかもだ。
彼等はよくみたら警察組織系の格好だ。
つまり、何をしようと私達の存在が揉み消されてしまう事は明白。
「ただの空き巣ならまだしも、どうしたらいいの!!」
「くそっ姉ちゃんを話せ!」
私の叫びは虚しく、いきなり現れた集団にとらえられた。
■■
「やあ、気分はどうかな?」
「お医者さん?」
白衣を来た薄紫髪のイケメンが目をさました私にといかけた。
「ボクは霧夜。化学者だよ」
「化学者が一般人の私に何のようですか?」
「実は君達が今さっきとらえられたのはスパイ疑惑がかけられていたからなんだ」
◆もしかして
〔コメントは彼?〕
〔警察組織の判断?〕
〔検討もつかない〕
「君が書いた小説にカマをかけてみた。でもしっかり調べたら君は一般人ってことで……」
「じゃあ家に帰してくれるんですよね?」
誤認拉致したんだから慰謝料も払ってもらいたい。
「今帰るなら記憶消去になるけど、生まれたときからの記憶まで全部消えるよ」
「ちょ……ふざけんなよ!!一般人を誤認拉致したあんた達の過失だろ!」
マトゲが化学者の襟を掴む。
「なんとかできないんですか!?」
「組織の協力者になるなら、なんとかなるぜ」
ヤバそうなサングラス男がまた現れた。
「あ、何人か殺してそうな人だ」
マトゲは小声で言った。
「聞こえてんぞ」
サングラス男は葉巻に火を着けようとする。
「おい、ここ気密性高いんだから吸うな」
霧夜が笑顔で男を止める。煙草が嫌いなのだろう。
「ちっ……まあ未成年のガキのいる場だしな」
「で、組織に協力者って?」
「星府の機関が民間人を拉致したことを世間に公表されるわけにゃいかない」
マスコミの力はすごいから私達の一件は帰宅に関係なく騒ぎになりそうだけどなあ。
「単刀直入に、異世界とこちらを行き来する装置が出来たんだ。それの実験台になってほしい」
「いいですよ」
「そっかやっぱりだめか……ん?」
「行けるならいきたかったんですよね異世界に。ついでに宇宙人に会いたいんですけど何とかなりません?」
異世界に行くのと宇宙に行って宇宙人に会うのはどちらがハードル高いだろう。