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その日、ジョアンはクリネイと子供たちに、弓の使い方を教えた。
ルイは、毒のある花や食べられる草について、女たちに教えた。
帰り際、クリネイが真面目な顔でルイに声をかけた。
「ルイ。君はさっき、『クリシュナ』に話を聞いたと言ったか? 」
「うん、クリシュナはただ一人残った白い人だ。ジョアンの奥さんだよ」
「ジョアンの!? そうか、素晴らしい夫を持ったんだな。クリシュナは僕の妹だ。僕が村長のところへ養子に入って以来会っていなかった。元気そうでほっとしたよ」
そして三人は手を振って別れた。
帰り道、土産の肉を狩りながら、ジョアンはクリシュナのことを思った。
上池のほとりで取れる、甘い汁の溢れる果実に比べると、下池の周りで取れる獲物は不味い。だが、ジョアンは時折、無性に肉が食べたくなる。クリシュナにその話をすると、
「矢に紐を結んで、岩鳥を狙えばいいでしょう」
クリシュナはそう言い、実際にジョアンの弓矢を持ち出して崖へ向かい、見事な岩鳥を持ち帰った。
「上でも肉は取れるのです。最も、私の他に食べる人はいませんでしたが」
そう言って笑うクリシュナに、ゴズの賛辞が飛んだ。
「良い腕をしている! あの朝お前が弓矢を持っていなくて助かった。俺の頭もその鳥のように、串刺しにされるところだったな! 」
クリシュナは少し笑って言った。
「私の家系は、崖の警護をする一族だったのです。でも、いつしか上池の村人たちは戦い方を忘れ、戦いを忘れない私の一族は遠ざけられていきました。弓矢をまともに使えるのは、もう私だけでした」
「はみ出し者か。上池の青瓢箪という訳だな」ゴズが答えた。
クリシュナが自身について語ったのはそのときだけだ。ジョアンが尋ねても、笑うばかりで答えないのが常だった。
クリシュナはもうすぐ子を産む。ジョアンの子だ。
遺跡でクリネイに会ったことを聞いた、クリシュナの喜びは深かった。
「兄さんが生きていましたか! 」
「会いに行きたいか? 」
ジョアンは尋ねた。クリシュナは少し考え、首を振った。
「この子に万一があってはいけませんから」
突き出た腹は歩くたびに揺れている。
「そうか。身二つになったら、また遺跡に行くといい。子供は俺が背負おう」
ジョアンはいたわりを込めて言った。
クリシュナが飯支度を始めると、ルイがぽつりと言った。
「ジョアン。クリシュナは何色の子を産むと思う? 」
「分からん」とジョアンは答えた。白と黒の混血だから、灰色だと言うものもいる。また、女なら白・男なら黒が生まれるともっともらしく言うものもいる。
「分からん」ジョアンは二度言った。その脳裏には、ある女性の事があった。
「レイアの子は灰色だったからね」
ルイが、ジョアンの心を読んだかのように言った。レイアとは、上池のほとりで初めて、子供を産んだ女である。
レイアとその夫ヨサクは二人とも黒い人であった。しかし、レイアが生んだのは僅かに薄い肌色の、灰色の髪を持つ赤ん坊であった。ヨサクは、妻と『白い人』との不義を疑い、レイアは泣いてそれを否定した。しかし、ヨサクは妻の言い分を聞かず、赤ん坊ごとレイアを捨て、新しい妻を迎えた。レイアは親からも見限られ、ゴズの家に身を寄せているという。ジョアンも、ゴズの家を訪れた際、その赤ん坊を目にしたことがある。自身の悲劇的な出生も知らず、ただにこにこと笑って乳を飲んでいた。
「よく乳を飲む、可愛い子だ」
そう言うと、レイアが大粒の涙を流していた。ジョアンはその様子を見て、哀れに思ったものだ。
クリシュナの出産は、それから間もなくのことであった。
呼ばれて入ったジョアンは、クリシュナの腕に抱かれて眠る我が子を見た。
「茶色い肌をしていますわ」
クリシュナはそう言って笑った。
赤ん坊は、茶色い肌に、くるくると巻いた金色の髪を持っていた。瞳は肌よりも濃い茶色で、ジョアンがそっと赤ん坊の手を触ると、ジョアンの指をしっかりと握った。




