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「あの時はありがとうございます」
「お兄ちゃん、ありがとー! 」
「本当に助かりました。ありがとうございました」
子供たちと、少し遅れて到着した女たちが、ジョアンに口々に声をかけた。
「ぼくねー! このお兄ちゃんに抱っこしてもらったんだよ! 」
ルイの手を引っ張りながら叫ぶ、バラ色の頬の子供がいる。
子供たちにもみくちゃにされながらも、ジョアンは男が近づいてくるのを目の端に捉えていた。
男は、矢を腕に通して肩にかけたままジョアンに近づいた。女たちが気付き、ジョアンを庇うように立つ。
「俺はクリネイという。何の用だ」
「俺はジョアンだ。こっちはルイ。ルイは、遺跡の調査をしている。遺跡の壁に絵があるだろう。あの絵を調べている。今日はその調査の続きだ」
「あの絵は相当古いものだな。しかし、絵を調べて何が分かる? 」
「僕たちの先祖のことが分かります。それに…」ルイが身を乗り出して答えた。
「なんだ? 」クリネイが聞き返した。
「いえ、何でもありません」ルイは口をつぐんだ。
「そうか。まあいい。女たちから君たちの話を聞いた。子供たちを助けてくれたそうだな。あの日、崖を子供たちが降ろされる光景は僕も見ていた。上でロープを降ろしていたのが君だな、ジョアン。下で受けていたのが君だろう、ルイ。君たちのことは分かった。しかし、遺跡の中に入ることは許さない」クリネイは断固とした口調で言った。
「なぜだ? 」問い返したのはジョアンである。
「僕は実際に話して、君たちに敵意がないと思った。だから、君たちの側には問題がないんだ。問題は僕たちの方にある。この遺跡の中には、あの襲撃の日の生き残りがいるんだ、ジョアン。彼らは…僕もだが…、君たち黒い人を恨んでいる。僕は君たちが子供を助ける光景を見ていたが、見ていない者がほとんどだ。追い散らされ池に飛び込み、恐怖に震えてうずくまっていた者たちだ。後になって女子供が現れ、君たちに助けてもらったと語った。だが、その光景を実際に見なかった彼らにとって、黒い人は悪魔そのものだ。いくら僕や女たちが助けられたと語っても、彼らは君たちを信用しないだろう。遺跡には光の届かない場所も多い。そんな場所で、彼らが君たちを襲ったら、僕には助ける術がない。僕だって、来たのが君たちでなければ喜んで襲い掛かっただろう。それだけ恨みは深いんだ」
クリネイの言葉は、重くジョアンとルイにのしかかった。
「もし、俺たちが白い人を追わなかったら…」
「それでもだめだ。僕たちは見た目に違いすぎる。いずれ、争いは起こっただろう」
ジョアンの呟きに、クリネイが答えた。
「分かった。もう十分だ。ありがとう、クリネイ」
声をあげたのはルイだ。
「遺跡の中を見るまでもない。知りたかったことはもう十分分かったよ」
「どういうことだ? 」ジョアンが聞き返した。
「いつだったか、君の家に行っただろう? 」ルイは話し始めた。
「その時にクリシュナに訊いたんだ。彼女は、白い人たちの言い伝えを教えてくれた。それによると、白い人たちは確かに昔、下池のほとりにいたんだ。でも、それは僕たちが彼らを上池から追い出したからだって言うんだ。クリシュナの一族は、大昔に上池のほとりを追い出されたことを恨んでいて、ある日僕らを襲撃したんだ…きっと、あの日の僕らのように。そして、追い出された僕たちはこの遺跡に住みながら弓の腕を磨き、十分強くなったら、危険だが便利な下池のほとりに移り住んできたんだ。あそこの周りの泥が傷口に入ると、腐れ病になる。そして、その特効薬のカバの実は上池のほとりにしかない…。ねえ、いつが始まりなんだと思う? 僕たちは同じことを繰り返しながら生きているんじゃないだろうか? 僕たちが上池のほとりで暮らし、獣のいないあの場所で弓の使い方を忘れたころ、クリネイたちの子孫がまた僕たちを追いだすんじゃないかな? そしてまた同じことが続いていくんだ、ずっとずっと」
ルイの話を聞いて、二人は言葉を失った。




