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「何だジョアン! 邪魔をするな! 」
サシュ―が怒鳴り声をあげる。
「まだ小さな子供だ、落としたら死んでしまう! 」
「白い人のガキなんざ死んだって構わねえ! そこをどけジョアン! 」
「だめだ! 俺たちは何のためにここへ来た! 子供を腐れ病で亡くさない為じゃなかったのか!? 」
ジョアンの言葉に、ゴズが頷きながら進み出た。
「確かにそうだ。だがジョアン、それとこいつらは関係ねえ。お前はこいつらをどうする気だ? 」
「白い人の子も同じ子供だ。死なないように降ろしてやりたい」
ジョアンの言葉に、サシュ―が地面に唾を吐いた。
「おれはやらねえからな。勝手にやりな」
そう言って村へと向かう。
「僕が手伝うよ」代わりに進み出たのはルイだ。ジョアンとルイは、女たちに縄を伝わせて降ろしたあと、縄を子供たちの胴に巻き、崖から一人ずつ降ろしていった。作業は長くかかったが、何人か手伝うものも現れた。多くは子を持つ親で、ジョアンと前から親しくしていた者たちであった。最後の子供を降ろすころには、暇を持て余した村人たちが、ジョアンの周りを囲んでいた。
「最後だ。こいつも降ろせ」
そう言ってゴズが連れてきたのは、ジョアンが捕らえた女だった。
しかし、
「私は残ります」
女は胸を張ってそう言った。
「なぜ残る」ゴズが驚いて尋ねた。白い人たちの態度から、そんな事を言い出すものが現れようとは予想だにしなかったのだ。
「私は…」女はそこでなぜかジョアンを見た。そして頬をそめて俯く。
その様子に、ゴズを筆頭に村人たちから笑いが起こった。
「お前、ジョアンに惚れたか! 」
村人たちが笑いながらジョアンの肩を叩いていく。ジョアンの顔まで火照りだした。
「ジョアン! この女がお前に惚れたってよ! 」
「べっぴんじゃねえか! 可愛がってやれよ! 」
村人たちが口々にからかう。
「ジョアン! どうする。お前が崖を登ったから成功したんだ。女の一人くらい自由にしても構わねえさ。いらねえならさっさと降ろしちまえ」
ゴズに促されて、ジョアンは女と対峙した。
「クリシュナと申します」女は美しく笑って言った。
「ああ、クリシュナ? …」
ジョアンはクリシュナの目を見たが、数秒と正視していられなかった。その様子にまた村人が笑う。
「どうかお傍に」
そう言われては頷くしかない。この日、ジョアンは自分の思いもよらない弱点を発見してしまったのであった。
さて、ジョアンとクリシュナは一軒の家を与えられ、上池のほとりにある村の、少し外れに住むことになった。なぜ中心地に住まなかったのかというと、そこが元々クリシュナの家であったからである。サシュ―などは僻地と言って笑ったが、ジョアンには、家の立地など大した問題ではなかった。
始めはぎこちなかった二人だが、同じ時を過ごすうち、次第に心が通い合っていった。半年もすると、ジョアンとクリシュナの睦まじさは、若い村人たちの憧れになるほどになった。
ここで慌てたのが、長老たちである。
クリシュナの気立てのよさは評判であったが、何せ異民族である。村一番の若者には、村一番の娘が嫁ぐべきであった。襲撃当初は楽しむだけ楽しんで捨てればよいと考えていた彼らにとって、二人の睦まじさは予定外の出来事であり、とうてい受け入れがたいものであった。
長老たちは何度もジョアンを呼び、正式な妻を村の娘の中から選ぶように促した。
しかしジョアンは聞き入れず、クリシュナだけを傍に置き、妻とした。
いつしか、ジョアンの村での地位は落ち、代わりにサシュ―が次期村長と目されるようになった。
ジョアンに親しく声をかけるものは、ルイとゴズだけになった。クリシュナは、自分の存在がジョアンに迷惑なのだと思い、何度か崖の下に去ることを申し出たが、ジョアンはそれを許さなかった。
「俺の妻はお前だけだ」
そう言うジョアンに、クリシュナはそっと頬を寄せ、感謝の涙を流した。




