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先行部隊は緊張に包まれた。今まで周りが暗くてよく見えなかったが、台地の奥の方には白い人の住居と思しき屋根が見え、そこから人影が一つ、ジョアンたちが潜む茂みの方に向かってくるのが見えた。
「気付かれたか? 」
「いや、まだだ。だが、騒がれてはまずい」
「ゴズ、どうする」
「そうだ。ゴズ、どうする? 」
皆の視線がゴズに集まる。ゴズはジョアンを見て、「行け」と言った。
「仕留めて来い。騒がせるなよ」
ジョアンは頷き、そっと茂みを出た。
白々明けの朝日の中、初めて見た白い人は、たおやかな美しい姿をしていた。ジョアンは弓の一撃を警戒し、盾を構えて近づいた。その人が女で、手に何も持っていないのが見えた。
どうするべきか?
葛藤は一瞬だった。ジョアンは武器を背負子に突っ込んで人影の背後に回り、走り寄ってその人を捕らえた。
「騒ぐな」
口を抑えてそう言うと、相手は薄墨色の瞳でじっとジョアンを見つめ、頷いた。
ジョアンは用意してあった口枷を手早く噛ませ、その相手を立たせ、ゴズたちの潜む茂みに担いで走った。
「ジョアン、なぜ連れてきた」開口一番に詰ったのはゴズだ。
「女だ。戦士じゃない」
「お前は甘い。いいか、これは白い人だ。俺たちと同じじゃないんだ。毒針を持っているかもしれない。毒の息を吐くかもしれない。殺すべきだ! 」
「いや、だめだ。毒を持っているようには見えない。俺たちと同じ作りの体だ」
ジョアンが庇うと、ゴズはため息をついて言った。
「お前は本当に変わり種が好きだな。時間がない、女のことは後だ。そこの木にでも繋いでおけ」
これ以上の勝手は許されない。ジョアンはゴズの言葉に従い、白い人を縛った縄を木に繋ぎ、ゴズのもとに戻った。
「いいか、頭数が揃ったらこの村をやる。一旦奥に回り込んで、崖に追い詰めるんだ」
「全て追い落とすのか。女子供もいるだろう」
「全てだ。寝首をかかれてはたまらんからな。いいか、矢に気を付けろよ」
ジョアンが女を担いで戻る間に、下から新たな仲間が登ってきていた。その仲間も縄を持ち、縄を垂らしていくから、仲間の増える速度は倍、倍になる。
「よし、そろそろ行こう」
ゴズが立ち上がった。捕虜になった女は、その様子を哀しげな瞳で見ている。ジョアンは、耐えられなくなって目を逸らした。
襲撃は一斉に行われた。ゴズの持つ角笛が合図である。
戸口から悲鳴をあげて逃げ出してくるのは、細長い手足を持った女や子供。そして、女に見まごうばかりに柔らかな体つきの男たちであった。
「何だ、こいつら。ひょろひょろとした若木しかおらんのか」
声をあげたのはゴズだ。黒い人の襲撃部隊は、もはや盾を背負子にしまい、素手で白い人たちを追い散らしている。顔を見せるだけで勝手に逃げてくれるのだから、これほどやりやすい獲物はいない。3方向から村を包むように追うだけで、白い人は悲鳴をあげながらただ1方向追手のいない、崖の方へと逃げた。そして、そこから我先にと飛び降りていく。黒い人たちは、呆れながらその様子を見ていた。
「どうしてこんなことを? 」
呟いたのはルイだ。傍にいたジョアンも、同じ気持ちだった。抵抗をする気配すらない。とても、かつて弓の業に優れた戦士であったと思えなかった。
「お前も飛ぶんだよ! 」
ジョアンは、その怒鳴り声に驚いて顔を上げた。サシュ―だ。赤子を抱き、幼子を抱えた女たちの一群を崖に追い詰めている。
「待て!」
ジョアンは声をあげていた。




