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準備は、崖の上から見えないよう、全て屋根の下で行われた。
女たちは縄を編み、襲撃に選ばれた者は、ひたすら縄のぼりの練習をした。
ジョアンたち先行部隊の練習だけは、屋根の下ではできない。なるべく崖が返しになっていて上から見えにくい場所を選び、昼夜を問わず崖のぼりの訓練を行った。
そして決行の日。夕闇が世界を包むころ、ゴズ、ジョアンを含む先行部隊たちは村長の家に集まり、各々の持ち分の縄を背負った。
先行部隊は6人で、縄は崖の三分の一の長さがある。3人落ちても、3人が登り切れば崖下に縄が届く計算だ。
襲撃に際し、縄の長さを割り出したのはルイだった。最初ルイの言葉を信用していなかったゴズであったが、同じやり方で3本の木の長さをぴたりとあてる様子を見て言った。
「青瓢箪にも使い道があるらしい。これからは週に一度狩りの獲物を届けよう」
この二人の友情は、襲撃の最初の成果である。
そして夜が暮れ、先行部隊が動き始めた。あらかじめ用意しておいた長い梯子を使い、登れるところまで登る。コースは、事前に崖を観察して決めてある。僅かな星明かりを頼りに登ってゆく。
「…っ!! 」
どれほど登っただろうか。ジョアンは、少し先を上っていた仲間が、落ちる音を聞いた。
漏れそうになった叫びを飲み込む。仲間の気配はジョアンの右上から、瞬き一つの間に遥か下に落ちた。
ごつっ
固いものと岩がぶつかる音がする。運が良ければ池に落ちるはずだ。息を殺して待っていると、かすかに水音が聞こえた。
ほっと息を吐く。池に落ちたのなら望みがある。
そして、水音はもう一つ大切なことを教えてくれた。それは、今はもう崖の半分を過ぎているということだ。事前に決めてあったコースでは、池の上に差し掛かるのは半分登ってからなのだ。ジョアンは気を取り直し、次の足場を探り、登り続けた。
…そして、右腕を伸ばし次の手がかりを探したとき。ジョアンの指先に、土と草の感触があった。跳ねる心臓を抑え、そっと体を引き上げる。見えたのは、真っ黒い岩ではなく、薄青い空と、木々と、地面であった。
「おお! 」
小声で叫ぶ。崖から離れ、台地の上に転がって空を見ると、地平線が僅かに光り、夜は明け始めていた。
「ジョアン! 」
呼ばれて跳ね起きる。ゴズの坊主頭が、すぐ傍の茂みから覗いていた。
「ゴズ、無事だったか」
「当たり前だ。他はどうした」
「一人落ちた。他の者は分からない」
「そうか」
ゴズは頷き、崖に駆け寄って下を見た。ジョアンもそのあとに続く。
「見えるか? 」
「ああ」
崖にへばりつく人影が二つ。
「手伝おう。縄を貸してくれ」
そう言い残して走った。自分の背負っていた縄の端を、手近な木に結び付ける。そのままゴズのもとに戻り、ゴズと自分の縄を結び、先が輪になるように形を整えた。
「これを垂らせば届く」
「よし。任せろ」
ゴズは素早い手つきで縄を降ろしていく。状況が分かるのか、人影はじっと止まって動かない。縄が人影の目の前に垂れると、しっかりと掴む手ごたえがあった。
「よし。俺が縄を持つ。ジョアン、お前は俺を抑えてくれ」
ゴズの指示に従い、ジョアンは腹這いになったゴズの背に乗り、肩をしっかりと押さえた。
「よし来い! 」
ゴズは、縄を軽く二度引き、合図を送る。すぐに、縄が張り、人が登ってくるのが見えた。
「助かった」
「お互い様だ」
声を掛け合う。もう一人も同じようにして上にあげ、3人分の縄を結び、崖下に投げた。
「下では登り始めたようだ」
様子を見ていたゴズが戻ってきて言う。先行部隊の4人は、木陰でしばしの休息を取っていた。
「うまくやったな」
「ああ」
「縄のおかげで助かった。恩にきる」
口々に互いを労う。和やかな空気が漂い始めたとき、ゴズが腕を上げて制した。
「何だ」
ジョアンが尋ねると、ゴズは声を出さずにあるものを指さした。
「あれは…! 」
「白い人だ! 」




