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約束の躑躅

 また三途の川が広がっていると思っていた眼前には全く違う光景があった。


(ここって・・・)


 一面真っ白な部屋に立っている。白い壁とカーテンと床、そして僕の前にはベットがあった。窓際には花瓶に生けられた躑躅が揺れていた。周りには巨大な機械が置かれている。機械からは管が複数伸びており、ベットの上に横たわるその人に繋がっていた。腕には点滴、顔には酸素マスクを付けて安らかな顔で眠っている。


(僕?)


 紛れもない小川和也が横たわっていた。どうゆうことだ?僕は死んだはずだ。どうしてベットの上にいる?まさかこれは走馬灯の一部なのだろうか。しかし見た感じでは病院に入院して治療を受けている。死人は治療を受けるわけがないし、僕は生前に病院に入院した覚えはない。走馬灯ではないなら、これは一体何だ?


「酷い話だ。お前を楽にしないで肉体だけ生かすなんて」


 僕の手を骨ばった手が握る。ベットの横の丸椅子に腰掛けた父さんだった。窓から差し込む陽の光に照らされ、柔和な表情を浮かべている。あんなにしかめっ面だった父さんがあんな顔をすることができるとは、生前の自分では想像できなかったはず。

 肉体だけ生かす。その言葉で全てを理解した。僕は現世で植物人間になっている。意識不明の体を機械に生かされている昏睡状態だ。あの事故で生死の境を彷徨い、ギリギリ生の世界に留まっている。それを維持するため、延命治療を体に受けているんだ。

 つまり、この光景は現世の今ある僕。僕は辛うじてまだ生きている。


(ここにきて、まだ生きてるなんてアリなのか・・・?)


 呆然と立ち尽くと父さんの弱々しい声がする。こちらには当然気付いていないようだ。


「でも父さんはどうあってもお前と一緒にいたいんだ。自分勝手だなんて分かってる。情けないが父さんはまだ子離れできそうもない。ごめんな和也。父さんも言い過ぎた。悪かったよ」


 僕の手に雫落ちる。その雫はやがてシーツも濡らしていく。


「父さんには、もうお前しかいなんだ。お前に何もできなかった身で言えたことではないが、最後まで・・・父さんと一緒にいてくれ・・・頼むよ・・・」


 父さんは僕の手を強く握り、額に当てた。呻きながら肩を震わしている。

 普段は勝手な持論を押し付けて強引なくせに、今更そんな弱腰で僕のことを引きずられては後ろ髪を引かれてしまう。いつものようにウザイくらいにしゃんとしてもらわなきゃ困るじゃないか。僕はため息をついて声をかけた。


「しょうがないなぁ。別にいいから泣くなよ、父さん」


 父さんがこちらを向く。涙を携えながら驚く顔に、吹き出してしまった。


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