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収穫-3

「おっ、的確な箇所をほぐしてくださる。陽太坊ちゃんの肩叩きは大変お上手ですなぁ」

「祖母にもやっていましたから」


 茹でたトウモロコシがまるごと一本付いてきた夕食を終えて、皆が一息ついた頃。僕は食後のスイカを持って居間に戻ってきた。縁側では陽太君が富助さんに肩叩きをしている。


「仲睦まじい孫とジイジってやつですかい。いやー、和む和む」


 後ろからとぶろくを片手に上機嫌の武之さんが声をかけた。


「そうですね。すっかり仲良くなって。ようやく皆さんと普通に接することができそうです」

「おっ!なら酒飲み仲間が増えそうで嬉しいねぇ」

「澄江さんが飛んできそうなことは言わない方が良いですよ」


 そいつは勘弁、とわざとらしく眉間に皺を寄せると早速酒を豪快に飲み始める。立ったまま飲み出してしまうあたりを見るに、上物の酒のようだ。


「今日はお三方、泥だらけだったそうじゃありやせんか」

「僕もそこそこ泥だらけだったんですけどね。陽太君と富助さんは段違いです。ものすごい勢いで収穫してましたから」

「へえ。もうお昼頃にはあの仲良しさですかい」

「お昼から富助さんにべったりですよ。今日のお風呂は一緒に背中を流し合ったんですから」

「ははは!こりゃ本物の爺ちゃんと孫に勘違いしかねらぁ」


 愉快そうに大笑いして再び酒を仰ぐ。いつ見てもすごい飲みっぷりだ。


「そう言えば富助さんから聞きました。現世の人と一度だけやり取りができる方法があるとか」

「へぇ。ありやすが」

「勝手な想像ですけど、心の重荷って大抵が現世の人に心残りがあるものだと思うんです。そんな方法があったら、心の重荷を下ろす方法はそれだけで充分になっちゃいませんか?」

「いやいや。心の重荷は本当に人それぞれなんでさぁ。現世の人間に関係なく自分自身に纏わる心の重荷もある。新たな自分、または自分が忘れていた一面を知ることで心が晴れる方もいらっしゃいますぜ」

「その場合に役立つのは書庫ですね」


 スイカを座卓に置くと同時に、武之さんはどかっと畳に腰を下ろす。


「書庫ばかりではありませんが、まあその通りで。それから現世でやってみたかったことをここでやるのも立派な重荷の下ろし方。読書や料理などの趣味から、祭りなどの行事への参加。意外なことに、これがやりたくて仕方が無かったなんて子供のようにはしゃがれるもんですぜ?しかし現世のあまりにも近代的なことは難しいのが玉に瑕でさぁ。機械類を求められちゃぁ叶わねぇもんで。そんときゃ、別の方法にするんですがね」

「他の方法、ですか。もしもそれが一番効果的な方法だったら、諦めてしまうのは惜しいですね」

「うんにゃ、あっしらは効果があるのなら何だって良いんですよ。効果が大なり小なり、それを続けていけば必ず目的にたどり着く。求める結果が同じなら、効果の大小なんて気にするこたァありやせん。お客さんに合うかどうかが重要なんでね」


 ふいに、武之さんは外の月に目をやる。今夜は三日月だ。


「何も一つじゃありやせんぜ。心の重荷の下ろし方は必ずいくつかの方法がある。方法は一つだけなんて、そこまで人間の可能性は狭かねぇ。方法を探すのがあっしらであり、お客さんでさぁ。共に一件落着の道を見つける、それがこの家の在り方ってもんでぇ」


 ガハハ、と笑う姿が、どこか安心感を与えてくれた。僕の原因不明の心の重荷が少し軽くなった気がする。


「・・・なるほど」

「と言うわけで」

「え?」


 突然、コップを差し出される。少し反応が遅れたが、全てを察してコップを受け取り傾けた。すると武之さんがとぶろくの酒をなみなみと注ぎ始める。溢れそうになるまで注がれたコップを掲げると、そこにとぶろくを軽くぶつけられた。


「まあ、焦らず長く、仲良くやっていきやしょうや」

「はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 二人は同時に酒を喉に流した。喉が熱くなり、冷たいスイカに手を伸ばす。




 本当は気が気じゃなかった。

 とにかく目を逸らそうと頭の隅に押しやって、更に上から陽太君の話や富助さんの手伝い等で押さえつけて隠した。

 今日、読むことができた日記。読めたのは、あれだけじゃない。躑躅の漢字と睨めっこしていた時に、横目でちらりと続きが見えた。




『五月八日 美幸が倒れた』


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