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序章 ー1 新しき世界への呼び声

おぼえていますか

 ジージーと鳴く蝉たちの求愛の唄が住宅地に響き渡る。


 夏も盛りに向かうの7月の半ば、暑さの体感温度を引き上げてくるかのように蝉の大合唱(ラブコーラス)は喧しい。もっとも、彼ら(蝉たち)にとっては次世代へ遺伝子を繋ぐ大事な季節だ。こちら(人間)の都合など知った事ではない。





「……つまり、人間が我慢するしかない訳だ」


「姉ちゃん、何言ってんだ?」


 とある一軒家のリビング。

 その中央にあるテーブルに突っ伏しながら、高校生位の歳と思しき少女が意味不明な事を突然ぼやいた。


 歳の頃は16、7。某電子の歌姫を思わせる長いツインテールに、出る所はそれなりに出て引っ込む所はそこそこ引っ込んだ普通に整ったプロポーションをしている。

 少々きつめではあるが顔立ちは整っている。10人中9人は「美人だ」と答えるが、10人中9人に「なんか性格悪そう」と言われるだろう。いわゆる悪役系である。

 その、悪そうではあるが整った容姿を覆っているのは緩んだタンクトップに布地がへたった短パン。明らかに部屋着、しかも少々見窄らしいソレが彼女に非常に残念な雰囲気を漂わさせていた。


 その向かい、テーブルの反対側に座っている少年は自身を団扇で扇ぎながら、姉と呼んだ少女(残念な生物)に冷たい目線を向けている。

 暑さで頭がついに沸いたか?と、酷い事を考えながら問いかけた。

 しかし、自身の姉が外ではともかく家の中、家族の前ではわりと残念なのは今更である。脳がおかしいのはいつも通りか、とすぐに考え直した。酷い弟である。





「生態系の不条理さについて嘆いているの」


「……そうか。大変だな」


(うん、いつも通りだな)


 いきなり意味不明である。

 実際の所、本人は何も考えてはいない。ただ、脳内に浮かんできた事を適当に口に出しているだけだ。しかも暑さにやられた訳でもなく、いつもの事。気にするだけ無駄である。


(でも、外では上手く取り繕っているんだよなぁ……)


 家の外に出た姉は別人かと思うほどに変貌を遂げる。

 見た目に反して人受けが良く、社交的な雰囲気を纏い上手く周囲に溶け込む。学校で見る姉は、友人には頼られ後輩には憧れられる、ごく普通?の美人女子高校生だ。私服や持ち歩く小物の類も最近の流行をさりげなく取り入れ、隙がない。要は仮面を被るのが上手い——外面が良いのだ。悪役系なのに。


(まあ、親友が上手く緩衝材になってくれてるのもあるんだろうが)


 姉の親友は非常にインパクトのある人物だ。

 一年生にして生徒会入りが内定してるほどの品行方正な女性ではあるのだが、たったの3カ月で学校内外で『真の支配者(ラスボス)』と恐れられるほどの(一部の人達にとって)危険人物でもある。知る人ぞ知る、良い意味でも悪い意味でもぶっちぎりの有名人だ。

 基本的に物怖じしない性格の彼女と入学初日に仲良くなり、そこから友人の輪を広げていけたのは姉にとって幸運だったのだろう。あの姉が振り回されるような、なんだかんだで世話が焼ける人物でもあるらしいが。





「暇だわ……」


 少女の親友を含め寮住まいの同級生達はほとんどが夏休みを利用して実家に帰省してしまっている。帰省していない友人もいない訳ではないが、彼らはどちらかというと友人の友人という繋がりの者が多く、気軽に遊びに出掛けるような関係の者はいない。

 その為、実家住まいの少女は暑さから外に出る気力もなく、暇を持て余していた。


「……暇潰しにいいゲームがあるんだけど、やる気ねぇ?」


 弟の一言に顔を上げる。

 少女の弟は、見た目はお姉様キラーで女装が似合いそうな中性的美少年だが中身はガッチガチのゲームオタクだ。あまりにもハマりすぎて同人ゲームを自主制作した位である。しかもその同人ゲームの完成度が非常に高かった為、何処ぞのゲーム会社に技術力を見初められてスカウトされた程らしい。


 それを最初に聞いた時、少女は本気で眉に唾を付けた。弟でなければ真剣に頭の病院を紹介していたかもしれない。酷い姉である。



 そんな弟は、よく新作のマーケティングだとして姉にゲームを渡してくる。レーシングゲームからRPG、シューティングに格闘物と、脈絡も節操もなくありとあらゆるジャンルを持ち込み、プレイした感想を聞いてくるのだ。

 良い暇潰しになるし弟を通じてバイト代も支払われている。それ故、少女もゲームを受け取りプレイした意見や感想をデータに纏めて弟に渡していた。物事には基本的に適当であるが姉の感想や意見は的確かつ細微に渡るものである事を推薦した弟は勿論、推薦されたゲーム会社の上司もよく理解していた。レポートを纏めて弟を通じてバイト先の上司に提出する。そうした事を、もう二年も続けていた。





「どんなの?」


FPSファーストパーソンシューティング、みたいなもん。MMORPGも混じってるけど」


 その名称に少女はゲンナリする。TPSサードパーソンシューティングならまだともかく、FPSはあまり好きではないのだ。

 自分視点での3Dは、わりと酔う。


「戦争ごっこ? 悪いけど今回はパス——」


「ただし、ロボットを操縦する。仮想現実で」


 ピタリと少女の動きが停まる。微動だにしない。


「……ロボット?」


「ああ、ロボットだ」


「操縦できるの?」


「ああ、操縦できるぞ」


「——仮想現実、って?」


 首を傾げる少女に弟は苦笑して答えた。


「ほれ。最近畑を猛スピードで耕しながら『君も惑星開拓者(テラフォーマー)だ!』って叫んでるCMやってるだろ? アレと一緒」


 ついでにモザイクに隠れた黒いナニかを鍬で叩き潰す場面(シーン)が紛れ込んでいたりするが、その辺はどうでもいいだろう。

 というか、そもそもそのゲームはほのぼの開拓が売りであり、あのようなおかしなナマモノやシチュエーションは一切存在しない。そんなゲームのCMに何故そんな場面(シーン)が登場するのかはメーカーも明らかにしておらず、様々な憶測だけがネット上では飛び交っていた。


「現実を高精度に再現したゲーム内でロボットに乗って操縦できる、言うなればVR(ヴァーチャルリアリティー)ロボットアクションってヤツだ」


 少女は首を傾げたまま動かない。


「ロボットも、色んなタイプがあってパーツや武装を組み換え合わせる事で自分なりのカスタマイズもできる。そんな姉ちゃんにとって夢のようなゲームがあるんだけど」


 家族と親友以外は知らないが、少女はいわゆるロボットオタクだ。その部屋の何故か2つもあるクローゼットの内の1つには棚が設置され、古今東西のロボットのプラモデルやフィギュア、超合金の玩具などがズラリと並んでいる。そのラインナップは様々で、魔神皇帝や電磁5マ、甲虫姿の聖戦士に可能性の獣、古い鉄や白騎士だけでなく、変形戦艦に変形戦闘機、特撮戦隊の合体ロボなど、実に節操無い。唯一挙げるならその全てが人型、もしくはそれに準じる見た目である事か。

 それを知る「やらないの?」という弟の言に、姉は躊躇という名の理性を容易く捨て去った。

 弟の胸倉を掴み、絞り上げる。


「やる! ——やるわ!」


「ちょ、ま、もちつ……ギブぎ、ぶ……」


 その襟元は交差する腕に締められていく。持ち上げられ爪先までが宙に浮いた状態なので逃がれる事は難しいだろう。ネックハンギングツリーである。なんとえげつない。

 弟の意識は酸欠で徐々に遠のいていく。だが、それは姉の暴走を予測し損ねた彼のある意味で自業自得でもあった。





「ゲームのタイトルは『Divine・DRIVE・Demon’s』。さっきも言ったが、仮想現実を舞台にしたロボットアクションゲーム——姉ちゃんにやって貰うのはそのクローズドβテストだ」


「ふむふむ」


 どうにか死ぬ(昇天する)前に離して貰えた弟は、なんとか呼吸と気を取り直して姉にゲームについての説明を始めた。

 なお、弟は赤い花畑が広がる川岸で天狗に「貴様はまだ68年早いわ!」と投げ飛ばされたような気がするが、多分気のせいだろうと記憶を脳裏から振り払っている。妙に具体的で細かい数字は、多分、気にしてはいけない。


「べーたてすと、ってアレでしょ。先行公開とか銘打ってプレイヤーに無料でデバッガーやらせるやつ」


「身も蓋もねぇ事言うな。一応アレは開発だけじゃ調べ切れない、細かい不具合の炙り出しとか色々意味はあるんだよ」


「ふぅん」


 少女にとってはどうでも良い話である。

 重要なのは、ロボットを好きに操縦できるかどうかなのだ。


「ゲームはさっき言ったみたいにロボット——『デーモン(Demon)』を操縦して、同じ『デーモン』や『ディバイン(Divine)』という怪物を倒すのが主な内容だ」


 実際には『デーモン』や武器の開発をしたり、物品の配達や孤児院のお手伝いなど、様々な仕事やミッションも充実している。だが、姉はロボット好き過ぎ故に開発関連以外の、そちらには殆ど目を向けないに違いない。ロボットに関わらない、という理由で。


「そのでばいん、っていうのは?」


「生体金属生命体。特殊な金属を含んだ肉体構造を持つ異星の原住生物——という設定だ」


「……ゾ◯ド?」


「設定の詳しい内容までは覚えてないが似たようなもんだと思う。ただ、『ディバイン』は戦闘兵器に改造されてない。というか、野生——素の状態で全身に武器を備えてるらしいんだが」


 弟が見せて貰った動画には、体高15メートル全長20メートルの巨大なティラノサウルスが両腰と背部の長砲をブッパし、口からはゲロビを吐きながら、体高50メートル超の全身にビーム砲を持つ要塞のような超巨大な蜘蛛に狩られている(・・・・・・)映像が流れていたという。


「なにそれこわい」


「『デーモン』が大体5メートルから8メートルだから、まあ殆ど某狩りゲーと変わらんな」


 しかも討伐した『ディバイン』の体組織や武装、心臓から採取される『心核(ディバインコア)』と呼ばれるエネルギー機関を、『デーモン』の開発や強化、改造に利用する。やる事はそこらのMMORPGや某狩りゲーと本当に大して変わらないのだ。


「まあ、面白ければ何でもいいわよ」


 結局大事なのはそこだ。

 どれだけグラフィックが綺麗だろうが、システムに拘ってようが、詰まらなければ只のクソゲーである。


「期待していいぞ。開発班の連中、頭おかしいと思える位ハッチャケててヤル気になってるらしいからな」


 それは期待していい科白なのだろうか、と少女は首を傾げる。しかし、よく考えたら弟の会社は元からだいたいそんな感じだ。なので、「ようはいつも通りなのね」と流した。


「あんたは開発班じゃないの?」


「今回は最新鋭の技術が特盛で使われてるらしいからなぁ。流石に開発班には入れないわ。まあ、運営側のサポーター兼デバッガーの1人としてβテストに参加する予定だけどな」


「ふぅん……」





 VRゲームには専用のハードが必要となる。 

 カプセル型の高級筐体とヘッドセット型の2種類があり、一般的に流通しているのは後者のヘッドセット型だ。

 バイタルデータをチェックする機能は市販されている全てのVR機器に備わっているが、カプセル型はそれに加えて体調を維持管理する機能も備えており、データ処理速度が速く通信ノイズによるラグ等も少ない。その分高価で、所有しているのは病院やネットカフェ、学校などの公共施設が大半だ。あとは一部の金持ち位なものである。

 対してヘッドセット型はおおよそ2万円から、高くても5万円程で手に入る。


 1人の天才によって技術革新が進み、一部屋分程もあった筐体はヘルメットサイズにまで一気に小型化された。それによって販売価格が大幅に下がり、また技術革新によりソフト開発のコストも低下。国からの支援もあったが、開発研究の域を出ていなかった仮想現実技術はたった2年で一般社会に浸透し始めたのである。

 ただ、一般に浸透して来ていると言ってもやはり最近の事。更に安い物でも2万超えの高額商品。未成年はそうそう購入できるものでもない。



「私、VRゲームのハードなんて持ってないけど……」


 ゲームは好きだが、別に最新を追い続ける程でもない。PCと弟から譲り受けた数機種のハードがあれば十分だったのだ。


「あー、大丈夫。『モルフェ』を神酒(ミキ)さんから2台譲り受け(カッパらってき)てるから」


 『モルフェ』とはヘッドセット型のVRゲーム筐体だ。性能がヘッドセット型の中ではトップクラスで、価格もトップクラスの高級品である。

 裏に潜ませた内容は物騒だが、実際のところは幾つかのゲームの開発に関わっていた現在の部署から急に出向を命じられた為、必要な備品として格安で提供させただけである。

代金は弟の給料から支払わ(天引きさ)れる予定だ。


「おミキさんに迷惑掛けちゃダメよ」


 ゲームの外部スタッフとしてバイト契約を交わしているので、姉も弟の上司とは面識がある。癖の強いスタッフ達に振り回されている『かわいそうなこいぬ』のような印象の、背が低くて幼……若い女性だ。


「大丈夫大丈夫」


 振り回している側である弟は軽く流す。

 いつもの事だし今さらでもある。それに上司は振り回されている事が案外癖になっているらしい節があり、マゾ疑惑が社内で実しやかに囁かれてもいる。

 故に問題ないのである。ないのである。


「じゃあ、姉ちゃんはまず——個体情報登録とキャリブレーションをしてくれ」

前書きに意味は……ない、です。うん

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