?-? 正式稼動後
分厚い灰色の雲に覆われた曇天の下。
荒れ果てた大地に横たわる蛇の骨。
それは荒野であればさほど違和感がない光景だろう。
——その骨が金属質の輝きを纏っていなければ。そして、その巨きさが直径5キロメートルの円を描くほどでなければ。
蜷局を巻くように横たわる大蛇骨。その蜷局の内側では鋼鉄の鎧に覆われた巨人達により激しい戦闘が行われていた。
「くっそ! なんでエースがこんな小競り合いに参加してんだよ! 有り得ねぇだろ!?」
数百年前に死んだと思われる巨大蛇の屍骸。長年の風化によりもはや骨殻を残すだけになっているが、その頑強な組織は特殊な技術で加工すれば様々なパーツの素材として利用可能だ。
惑星を二分する2つの陣営は大蛇骨の所有権を巡って鎬を削り、やがて戦闘へと発展した。
ただ、この素材は量こそ膨大だが質はさほど高い物ではなく、貴重という訳でもない。それ故に各陣営の傭兵達に出されていた依頼は『Cランク以上』。B、Cランクの二流クラスで2〜30人ほど、良くて一流のAランク数人が加わる位の、言い方は悪いが中規模戦闘が行われる筈——だった。
なのに蓋を開ければ、相手側はおそらくAランクが10人以上。その上、最上級のACEまでもが1人参加している。
有り得ない。Cランクに昇格して初めて陣営戦に参加した新人にとっては信じられない悪夢でしかなかった。
「—— がぁっ!?」
突如として激しい震動が新人を襲う。回転により揺さぶられ、ベルトで固定された身体を、それでも尚強く内壁に打ち付けられた。
「な、何が……」
慌てて状態を確認すると、右膝が撃ち抜かれたのか関節が砕け、激しく損傷している。どう操作しても右脚は膝から下は動かない。
これではもはや戦闘も、離脱すらも叶わない。
「マジかよ!? 有り得ねぇ!」
降伏は有り得ない。普段ならばその選択肢もあるが、今回のミッションはランクが昇格して間がない上での参加だ。査定が大幅に下がり、降格の可能性もある降伏は出来ない。
後は半壊による戦闘不能か、大破による強制離脱か。どちらにせよ撃破されるのを待つだけになってしまった。
《ありえないなんて事はありえない。そういうものだ》
突然聞こえてきた言葉。通信機から響いた低くも重いその声は、知っている。
相手方のエース。今だ数少ない、飛行型を繰るACEの1人。
見上げるように振り返ると、深紅の全身鎧——否、身体そのものが鋼で構成されたヒトガタ、『デーモン』が空に浮かんでいる。
「ぶ、『血風』。は、ははは。マジでエースかよ」
深紅の『デーモン』が右手のライフルをこちらに向ける。
「なんで、こんな木っ端仕事に……畜生が!」
銃口の下から伸びるレーザーポインターが頭部を捉え、
《運が悪かったな。アディオ—— 》
『暴風』が視界から消えた。
「へ?」
《そこの『ドレッドノート』! さっさと離脱しなさい!》
代わりに、鋼の天使が現れた。
細身、女性形のヒトガタ。
いや、よく見ればその造形は異形だ。肩と腕に大きな羽根が付いていて、振り上げている脚部には大きな蹴爪のようなパーツが付いている。
あえて挙げるなら伝説に登場するハーピー。神話の妖鳥を連想させるような姿をしていた。
カラーリングは、ない。無骨な鋼そのものの色合い。ロールアウトカラーでもあるメタリックグレーそのままだ。
「鋼色の!?」
この『デーモン』も、いや『暴風』などよりよほどよく知っている。自陣営に属するACEランクの1人。それもトップクラス——いや、もはやエースオブエースとまで呼ばれる『最速』の機体、高速機動飛行型Damon。
「な……」
なんでここに。
彼がその言葉を全て、口に出す事はなかった。
《ぅおのれぇー! この糞鳥女がぁあああっ!》
蹴爪で蹴り飛ばされていたのだろう、『血風』が猛然と “ ハーピー ” に襲い掛かる。
《誰が糞鳥女か! このカッコツケ気障蝙蝠がっ!》
ばら撒かれるライフル弾を躱しつつ、 “ ハーピー ” も『血風』へと、両手で抱えていた長砲を構えた。
《ぶっ潰す!》
《ぶっ飛ばす!》
2機のエースはお互いの攻撃を躱しながら、二重の螺旋を描くように上空へと飛び上がっていく。
それを新人傭兵は呆然と見上げていき——
流れ弾で頭部を吹き飛ばされ、強制的に戦場を離脱させられたのだ。




