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異端進化論 ~ヘタレと無謀と遺跡の物語~  作者: 七草 折紙
第一章 ヘタレ男と特攻少女
9/11

第四話 我関せずの精神~ソレは僕じゃない~

 真人の目の前には、マスクに淡い眼鏡を掛けて帽子を被り、拳銃を持った男がいた。

 男――強盗犯は頭のネジが幾つか外れており、いつ暴発するか分からない血走った目をしている。

 普通ならば人生で一度あるかないかの理不尽な事態に、真人の顔が引き攣っていく。


「早くしろ!」


 店にいた全員の動きが、驚愕と恐怖でピタリと停止していた。

 動かない店員に痺れを切らした強盗犯が怒鳴り散らすが、真人は緊迫した展開にそぐわぬ事を考えていた。


(これが噂の"ミスター・ゴウトウマスク"か。これからどういうストーリーが始まるんだ?)


 真人に当事者の心構えはなく、完全に傍観者気取りであった。勇猛果敢に挑もうとは露ほどにも思わない。


「よし、お前だ! 金を持ってこい!」


 真人は未だに自分が指名されている事に気付かない。いや、巧みに耳を素通りさせていると表現した方が正しいだろうか。

 高度な匠の技で、強盗犯と視線が合わないように躱していた。


(ソレは"僕"じゃアリマセン。どなた様かお呼びですよぉ~)


 断じて当事者ではない、と額数センチの銃口を前にして、真人は無駄な抵抗をしていた。

 無我の境地で頑なに現実逃避をしていたのである。


(誰だか知りませんが、お怒りを買う前に早く出頭しましょうよ。ここは安心安全の国JAPANですよ)


 日本は比較的安全な国と言われている。

 その理由には国家が設立した、異能災害のスペシャリスト集団ウォーリアの存在が欠かせない。

 異能災害に関連する全ての事件を担当する彼らは、全国に支部も持ち、人々を化獣(バケモノ)化蟲(バケムシ)などから救済していた。


 災害だけではなく、人同士の争いの沈静化も、安全を保つための指標である。

 人間が起こす異能者犯罪の処置は警察庁が請け負っており、至る処で私服のガーディアン達が常に目を光らせていた。

 異能者によるテロなど、世界では物騒な事件が多々起きる中、日本は治安が行き届いていたのだ。


「おい、黙ってるんじゃねぇ! 撃つぞ!」


 それでも些細な犯罪は後を絶たない。歴史の針が進み、時代背景が変わっていこうとも基本的な人の思考は変わらない。

 今回の不幸はその良い事例である。


(一般人が何で拳銃を持ってるんだよ。キッチリ取り締まってくれ。国よ、どこかに職務怠慢者がいるぞ)


 この時代、拳銃といっても只の拳銃ではない。


 世の中には導術の簡易発動用媒体である波導具の変形版であり、スロットに嵌め込んだ波導までもが永久固定の、機能限定版波導具――量産品もある。

 技術工房に行けば、プロ仕様である四連式以上のオーダーメイド製品だけでなく、三連式以下の汎用品も自己防衛の一環で売っており、その売買には綿密な身分証明や手続きが求められる。

 だがそんな面倒な事をしなくても、工房以外で安易に波導具を手に入れることは可能である。

 それが機能が決まりきった量産品――最も安価で普及され、生活に密着した導化製品であった。


 強盗犯が持っているのはその導化製品の違法品。


 拳銃は今も昔も危険視されている代物である。

 構造原理は簡単、地導で装填した"鉛玉"を天導"打撃"で押し出し、インパクトの瞬間に"爆発"魔導を加えて加速させる。

 実際の効果は誰が使用しても同じであり、人を害するに十分な威力を持っていた。


 そんな反社会的な品物に、正規の売り買いが認められる訳が無かった。

 導化製品の開発や売買、携帯は認められているが、あくまで殺傷能力の低いもの限定である。


「テメェだよ、テメェ! 何しらばっくれてんだ、あ゛ぁ?」


 その違法なブツを真人の額にグリグリと押し付ける、理性の薄そうな強盗犯一名様。

 堅気の世界に未練がないような気配を前にして、真人は店中の熱い視線が自分に向いているのを悟る。

 こんな時でなければ逆アピールしたい気分だが、今彼にそんな余裕はない。


(ご指名は俺なの? くそっ、何故トラブルが舞い込むんだ……)


 心の中で散々悪態をつきながら、真人は何とか平和的解決をしようと頭をフル回転させる。

 悲しい程に短い時間を、奇跡の幸運が舞い込むようお祈りに回した。


(人類皆平等、暴力反対、悪霊退散、心頭滅却、信じる者は救われる、……そう、話せば分かる)


 支離滅裂な思考の中で真人が思いついたのは、高度な交渉術による会話での解決方法。

 自分の交渉能力の無さを忘れて、強盗犯の機嫌を損ねないように慎重に言葉を交わしていく。


「ワ、ワタクシのコトでしょうか? あっ、あのっ、アナタは強盗サンですよね? お金ならここに……ってアレッ? 無いぞ……へへ、小銭だけでもよろしいでしょうか?」


 先程レジの中身を入れ替えたばかりで、手元に大きな現金は無かった。

 泣きたくなるようなピンチの状況で真人は、どこぞのセールスマンのように揉み手をしながら、どうにか帰って貰おうと奔走する。

 だがそれが強盗犯を逆撫でしている事実に彼は気付かない。


 傍から見守っていた人達の目にも明らかな真人の性質――やる気なし、男気なし、プライドなし。

 どんな状況でも笑っていれば何とかなる、と本気で思っている男の哀愁が漂っていた。

 どう見ても情けなさ満点の男であり、部屋の隅で縮こまっていたこの場の責任者――店長も、人選を間違えたかと己の安易さを呪った。


 強気に出る訳ではなく、かといって怯える訳でもない。

 ヘラヘラと空気の読めない目の前の真人を見て、強盗犯の中の何かがキレた。


「ふざけてんじゃねぇ!」

「ちょっ、暴力反対デス!」


 事態は急変、世は不条理に満ちている。それを体現するかのように、災難が真人を襲った。

 強盗犯の指が弾丸の発射を認めたのだ。



 ――その時、一部の者達は見た。



 コマ送りのような惨劇開始の刹那、イカレた眼をしてトリガーを引く強盗犯と、眼前に手をかざし友好を求めるヘタレ店員の構図が変化した。

 拳銃の発射音が室内に反響して皆が本能的に伏せる最中、真人が緩慢な足取りで動き出す。

 そして違和感のない滑らかな動きで予測したような動作――皮一枚の回避で銃弾を掻い潜り、立てられた人差し指一本で銃を下から前後に切り裂いた。


 倒れ伏す強盗の男も愕然としていた。

 男の記憶にあるのは、引き金を引き銃口から弾が飛び出す寸前、真人の身体が一瞬揺らめいたところまで。


 それだけで全てが終わっていたのである。


「はっ?」


 その一部始終を見ていた誰かの、間の抜けた声が聞こえた。


 一瞬の攻防が閃光の如き早業。

 異能の気配もなく予備動作なしで放たれた一撃は、犯人ですらも知覚できないほどであった。

 そのまま真人の流れるような肘打ちが、強盗犯の鳩尾に突き刺さる。


「ガッ、ハッ……」


 真人の無意識に近い反応で、強盗犯は崩れ落ちた。


 沈黙が訪れる室内。

 一人空気の読めない男――真人は、嵐が去って額の汗(当人幻覚配合率70%)を拭い、溜息と共に体内の熱を発散する。


「はぁ~っ、死ぬかと思った」


 相変わらず静かな雰囲気の中「いやいや、大変だったですねぇ」などと笑顔で店長に語りかける真人に、ハッとした皆が一斉に喚き始めた。


「柊……お前やるなぁ」


 店長からのお褒めのお言葉。

 それを皮切りに、店内にいた客達からも拍手喝采が湧き上がる。


「すげぇぞ、店員! 只のヘタレじゃ無かったんだな!」

「ステキだったわ! タイプじゃないけど」

「見直したぞ! プラマイゼロだけど」


 聞こえてくる言葉尻に余計な一言が付いており、素直に喜べない真人だったが、女性客の視線を「惚れたな」と解釈して、声援に答えるかのように両手を上げた。


「いやいや、どうも! どうも! わたくし、柊真人と言います。今後も是非ともこのコンビニをご贔屓ください!」


 政治家の演説のように、ひたすら自分を押し出す真人。

 愛想良く全身で手を振っていた彼だが、その対象は主に女性に向いていた。

 この活劇の効果で数分間、普段こじんまりした印象の寂れたコンビニに、野次馬の人々が集まってきたという。


「フッフッフ、面白い子を見つけちゃったよ」


 元気良く戯れる真人に、客の群れの後方にいた赤髪の少女が、獲物を見つけたかのように目を光らせていた。


「是非とも友好を深めたいね」



◆◇◆◇◆◇


 ここは歩の通う御堂ヶ丘学園高等部。

 国内屈指のランカーを輩出するこの学園は、エリートの登竜門とまで呼ばれていた。

 当然、様々な企業などからのスカウトも当たり前のように行われている。


 その学園の教室の一つを借りて、今不気味な集団が顔を見合わせていた。

 集まった理由は、普段無表情で通っている全校憧れの先輩――生徒の一部ではマスコット扱いもされている歩が、珍しく笑っているのをファンクラブが目撃した事が発端だった。

 その事実は一大事件として、恐るべき速さで校内中の高等部、だけでなく中等部にまで広がっていた。

 それを受けて、非公式に設立された『あゆむん“激”りんりん同好会』が開催されたのである。

 ちなみにネーミングの由来は、発足コンセプトである「歩先輩の"凛々"しい姿を思いっきり愛でよう」という意味合いから来ている。

 面々は、一同に真剣な表情をしていた。


「これは由々しき事態だわ!」


 同好会の会長であり設立者でもある高等部二年如月朔夜は、勢い良く立ち上がり拳を握りこむ。

 彼女からは元気そのものを表すかのような活発なオーラが漲っており、マリンブルーの髪色の落ち着いた見た目とは掛け離れていた。

 その大きな瞳には溢れんばかりの光が満ちていて、有無を言わせぬ説得力が篭っているようだ。

 現に彼女の周りからは同意を示すように「そうだ、そうだ!」という声が飛び交っていた。


「会長権限として、只今から『ドキドキッ、あゆむん密着生活二十四時』の緊急措置を発動させたいと思います」


 そんな権限は誰も持ち得ないのだが、朔夜の宣言には力があった。

 他の会員も、雰囲気に流されたかのように「会長、よろしくお願いします!」という、何をよろしくなのか本人達も分かっていない解決方法を模索する。

 この場で本人両諾なしの事案が採決された。


「それじゃ、行ってくるわ!」


 会員の了解を得た朔夜は、世の中の元気そのものを体現したかのような意気込みで、スッ飛んでいった。


 残されたメンバーは「何か違うような」と改めて思い直したが、時すでに遅かったという。






「せんぱぁーーーーーーい!」


 学園の校内をキリッと背筋を伸ばして進んでいた歩に、凄まじいスピードで走ってきた朔夜が飛び込むように抱きついてきた。

 脱兎も驚きの超特急、一直線でのホームインである。


「むっ、如月後輩でありますか」


 可愛らしい小顔を引き締めて男性のような佇まいで言葉を掛けてくる歩に、朔夜の顔がホンニャリと崩れる。

 理性が飛んだ朔夜は、ドサクサに紛れて頬と頬を擦れ合わせていく。


「先輩、やわらかぁ~いぃ」

「……? 如月後輩は変わっているでありますね」


 いつなんどきも自分の姿を視界に捉えた途端に甘えてくる、そんな後輩に歩は不思議なモノを感じる。


 如月後輩の立場も大変なのでありますね。


 斜め上の回答を、歩は導き出していた。

 朔夜の行動心理が分からないが、上級生を頼りにしたい心境は把握している。

 彼女は二年最強のエース、同級生からは尊敬の眼差しを向けられ、年輩しか頼れる人がいない。


 先輩として支えてやらねば、歩はそんな風に思っていた。

 毅然とした態度でもって、菩薩様のような温かさで朔夜を見つめる。


「――なんだかご機嫌ですね?」


 歩の気持ちも何のその、上機嫌の"あゆむん"を見た朔夜は、不機嫌な顔で兼ねてから聞きたかった疑問を問いただした。

 一秒という時間すら惜しいといった感じで、今か今かと回答を待ちわびている。


「……そうでありますか?」

「何か心境の変化でもあったんですか? 誰かに影響を受けたとか……」


 的を得ない歩に業を煮やして、朔夜はさらに条件を絞っていく。

 獲物を狙う豹の如く、笑顔の裏で牙を生やして迫っていた。


 朔夜の質問に考え込んでいた歩は、心当たりがないと思いつつ、別の答えを導き出した。

 偶然にもソレが大正解だとは本人も知らなかった。


「……影響、でありますか。そうでありますね。正義の鑑のような方にはお会いしたであります。自分もまだまだ未熟者、ああいう武人になりたいものであります」


 真人のことを心底誤解している歩は、現代の英雄が如く彼を祭り上げる。


 朔夜の思惑など関係なし、と言わんばかりの歩の口調だったが、その顔に浮かんでいた兆しを朔夜は見逃さなかった。


「なっ!? だ、誰ですか! それは男ですか?」


 朔夜は慌てたように顔を近づけて問い詰める。その距離がキスできるくらいの隙間しかないのに気付き、このままフレンチキッスしちゃおっかな、などと危ない欲望まで浮かんでくる始末だった。


「それは秘密なのであります。これ以上は約束で……二人だけの秘密なのであります。そう、二人だけの……えへへ」


 傍から見ればあからさまな歩の態度に、朔夜は愕然とした。倒れ伏すかのようにフラフラと足取りがおぼつかない。

 彼女は何とか気合いで立ち直り、星の輝きが満ちたかのような瞳で詰めかかった。


「ぐっ、負けないぞ(ボソッ)。じ、実は私の所属する同好会からお願いをされましてね!」

「お願い、でありますか?」


 今まで懐かれたことはあったが、頼まれごとは無かった。

 歩は頼られたことに使命感を覚え、燃え滾るような気持ちになっていった。


 一方、超プラス思考が朔夜の取り柄、自分に有利な展開に持ち込むべく、言葉巧みに誘導していく。


「そ、そうです! 先輩との交流を肌で感じて感想を纏めないといけないんです! それで今日一日先輩の家にお邪魔させて頂きたいのですが!」

「……そうでありますか。ふむ、それは先輩として黙っていられないでありますね。分かったであります。放課後一緒に帰るのであります」

「は、はいっ!」


 両者の想いが通じた(?)のか、大和家への朔夜のお泊りが決定したのであった。



◆◇◆◇◆◇


 ――同時刻。

 場所は戻り、真人のアルバイト先のコンビニでも事態が進んでいた。

 取り押さえた強盗犯はやって来た警察官が御用していく。


 その中で簡単で形式的な事情聴取の一幕があったが、トラウマのあった真人の返答はしどろもどろであり、警察官のキツイ目が彼を射抜いていた。

 さりげなく警察官が無線での確認を行なっていた光景も目にしてしまい、真人が隅っこの方で縮こまる結果となった。


「それじゃ、ご苦労様だったね。怪我がなくて何よりだったよ」


 去り際に労りのお言葉が警察官から飛び出た。

 それを聞いて真人の体温が平常に戻っていく。


「君もそんなビクビクしていないで、自信を持ったらどうだ? 大した後ろ盾がいるじゃないか」


 身元引受人が判明したことで、一転して優しい顔になった警察官を尻目に、真人の顔は引き攣っていた。


 ソウデス、ボクはアヤシイものではアリマセン。


 心の叫びを己の悲哀から醸し出そうと、真人は捨てられた仔猫のように訴えかけていた。

 そんな真人を呆れたような面持ちで見ながら警察官は去っていく。


 コンビニ周辺にいた野次馬連中の人だかりも、しばらくすると波が引くように落ち着いていった。

 そこには既に先程の気弱な男の姿は無かった。


「はいっ、はい、はぁ~い! 只今、強盗犯撃退記念、感激感謝感動セールを実施中! その現代の勇者とは何を隠そう、このわたくし柊真人! 今なら限定プロマイドをお配りしてますよ~」


 店先で道行く通行人に、真人は元気良くアピールしていた。

 それを発見した店長がまたか、と頭を抱えながらやって来る。


「コラ、柊! くだらない事をしてるんじゃない!」

「いやでも店長、ここは宣伝するチャンスですよ」


 真人の詭弁に、言う事を聞かない子供を相手している気分になり、店長は身体の力を抜いた。

 店の主として諭すように指示を飛ばす。


「お前の宣伝方法は間違っとるんだ。いいから奥で荷物整理でもしていろ」

「はぁ、分かりました……」


 基本、権力に弱い真人は内心で納得がいかないと叫びながら、渋々引き下がった。

 ブツブツ小言を漏らしながら、倉庫に向かっていく。

 誰もいないと思い扉を乱暴に開けると、そこには誰かがいて声を掛けられた。


「おっ! お前が強盗犯を倒したっていう新人アルバイトか?」

「ん? そうだけど……アンタ誰?」


 そこにいたのは軽薄そうな蒼髪の少年。

 少年は喜色満面で真人に近づいてきた。


「ああ、初めましてだな。俺はお前と同じここのアルバイトだ」

「なんだ、例のサボり魔か」


 気負いのない挨拶を受けた真人は、無断でサボっていたアルバイトがいたのを思い出し、そのまま口に出した。

 一人いないだけで、仕事量が増えるのだ。その恨みを簡単に忘れるつもりはない。


 蒼髪の少年は気まずそうに顔を背けて、謝ってきた。


「うっ、い、いやぁ~っ、悪かったな。俺の大好きなエロ本の新刊が発売してたんでな。つい読みふけっちまったぜ」

「ふぅ~ん……」


 余程の理由があると思いきや、くだらない事情であった。

 真人の中で、この男は見習いたくはないゲス男だと判明した。

 白けた眼で蒼髪の少年を流し見る。


「……いや、その目はイカンでしょ。俺達は同じ男、スケベ同志じゃないか」

「一緒にするんじゃない。俺は紳士なんだ」


 フレンドリーに同じ人種だと仲間に引きずり込もうとする蒼髪の少年を、真人は一蹴する。

 そんな真人のそっけない態度にもめげずに、蒼髪の少年が自己紹介を始めた。


「まあまあ、堅いこと言うなって。俺は月城誠治、月の城を誠実に治めるって名前だ。よろしくな!」


 握手を求めてきた蒼髪の少年――誠治の手をチラ見した真人は、ペチンと蠅を払うように拒絶した。

 そんな真人に、慣れているのか誠治は平然としていた。


 名前の割りには不誠実なヤツだ。名前負けしているな。


 それが真人の感想だった。

 真人はお前とは違うんだぞ、といった顔で偉そうに胸を張り、高らかに語り出した。


「オホンッ、俺は柊真人。このコンビニの救世主となった男だ。畏まる必要はないけど、尊敬はしても許すぞ」

「ははっ、お前面白いヤツだな。気に入ったぜ。これから仲良くしようぜ」

「フンッ」


 ツンデレに目覚めたかのように照れながら、真人は誠治と握手した。

 ここに一つの友情が芽生えた――それがどんな友の形になるのかは、まだ当人達には分からない。






 罰を下すように荷物整理を誠治にまかせ、真人は店長と交代でレジにつくことにした。

 前科のある彼には当然キツイ注意が与えられた。

 ゲンナリしながらお客様を待つと、赤い髪の少女がニコニコして真人の前にやって来る。

 手には商品が無くお買い上げする気が無さそうな少女を前に、真人の頭にはてなマークが浮かんだ。


 少女の第一声は簡潔なものであった。


「どうも」

「はぁ、どうも?」


 どう反応して良いか、真人が戸惑っていると、少女は予想外のとんでもないことを言ってきた。


「私の名は(かずら)柚姫(ゆずき)。君の親友になる者だ」


 ゲス男に続いて変なヤツが現れた。


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