第一話 初めまして、お父様
新暦221年、夏。
国際空港到着ロビー。
途方に暮れて、窓から外を眺める少年がいた。
濃い灰色の髪に黒縁眼鏡。これだけならば、勤勉な学生に見えなくもない。
問題は服装の方だった。
上半身には、赤文字で「I LOVE JAPAN」と描かれたピンク色のシャツ――世間では記念Tシャツと呼ばれる類のモノであり、飾るか保管するのが一般的な代物だ。普段着として着用、それも外で着るような服ではない。
そしてジーパン。こちらは違和感がない。決して間違っている訳ではないのだ。
しかし総合的な格好を見れば、そのセンスに難があった。ラフがテーマといえども何か違う。
極めつけには、旅行者を思わせる大きめのリュック。
オタク兼余所者オーラ丸出しであった。
当然、怪しさ全開であるため、近づく者はいない。
皆関わらないように避けていく。
少年はさっき飛行機から降りたばかりの、搭乗客の一人であった。
到着後、物珍しさからか辺りをキョロキョロと見渡しながら、落ち着きなく歩き回っていた。
その結果、同乗客の群れからはぐれて行き先不明状態、所謂迷子になってしまったのである。
「おぉ~、ここが日本、俺の祖国かぁ。成程、平和に満ち溢れている良い国だ」
そんな状況にも関わらず、彼には危機感がなかった。然程気にした様子もなく、懲りずに空港内を散策している。
祖国というのは空気が違うのだろうか。肌に合うのかもしれない。彼には全てが輝かしかった。
殺伐とした日々からの逃避行。
皆に内緒でこっそり準備を敢行し、ベストのタイミングで夜逃げしてきた。
気付いた頃には時既に遅し。行き先を知るのは一人の友人だけ。彼にはキツく口止めをしておいたので、大丈夫だろう。
まさに完璧な計画である。
「ふっふっふ、俺はもう自由の身。これからは青春を謳歌するぞぉ、お~っ!」
覇気が感じられず、のほほんとした雰囲気を纏い、締りのない顔をした少年A。
その人物が笑顔で独り言を呟きながら、ハイテンションで右腕を高く突き出した。
周りの人達が目を向けるのは、少年が背負っている無駄に大きいバック。
皆は思う。
――何が入っているのだろうか。
挙動不審な男と謎のバック。飾り付けられたアイドルオタク全開のバッジなどは、下手なカムフラージュにしか見えない。
それを目にした人々は何を思うのか。
――まさか、爆弾! 新手のテロか!
そうなるのも当然である。
この時点で事態はまずい方向へと動いていたのだが、彼は気付かない。
騒がしくなってきた原因が自分にあるとは、露ほどにも思っていなかった。
「さてさて、それではまず"エロゲー"とやらを買いに"アキバ"とかいう街に向かうか。それとも"キャバクラ"とやらで"ハーレムナイト"を満喫するか……」
徐々に慌ただしくなる空港内。
まさか周りが耳を傾けているとは思わない彼は、マイペースを貫く。
堂々とイケナイ単語を連発して、落ち着きなく彷徨う謎の男。そんな人間は現実にはありえない。ならば……。
――それで欺いているつもりか?
という結論に辿り着いても不思議ではない。
傍から見れば不審者そのものである。当然――
「あっ、あの人です! 変質者!」
「えっ?」
通報されても文句は言えない。案の定、警官が呼ばれてやって来た。
一人ではなく複数の武装警官。彼らは不審者一名を取り囲もうと包囲網を張り出した。
当の少年はというと「うるさいな~」と思いながらも、野次馬根性で辺りを見渡し始める。
しかし視線の中心点は自分。囲むようにして見事なサークルが出来上がっていた。
この国に知り合いはいない筈だ。吃驚ドッキリ歓迎会、などあろう筈もない。つまりは別の理由があるということ。
叫んでいる女性が指差すのも……自分。つまりは警官の標的も、自分?
少年は青褪めていく。ここにきて、漸く彼は事態を悟った。
改めて自分の状況を顧みる。
身分証は偽造パスポートのみ。不法入国者だ。身元保証人もこの国にはいない。
ということは、捕まったら即牢屋行きは免れない。
導き出された答えは――
「おい、君! 待ちなさい!」
「さいなら~っ!」
更なる逃亡であった。
◆◇◆◇◆◇
「名前は?」
「……柊真人です」
逃走失敗。世の中そんなに甘くはない。
不審者疑惑の男――柊真人と名乗ったその少年は、只今空港警察内で尋問を受けていた。
目の前では恐い警察官が睨みつけており、彼はオドオドと愛想を振りまく。
「名前からして日本人だな。見た目もそうだしな」
「そ、そうなんですよ!」
「で、何でこんなもん持ってやがるんだぁ?」
「それは、その、ですね……」
真人の目の前に出されたのは、目に痛い偽造パスポート。証拠は上がっているので言い訳などできようもない。
彼は追い詰められていた。
「…………」
沈黙。
真人は黙秘権を行使している訳ではない。本能から導き出された最善策だ。
何も言えない彼はともかく、警察官の無言の威嚇も容赦ない。
真人の顔は引き攣り、じわりと涙が浮かび出た。何かを言おうとする口元も覚束ない。
警察官は、普段は兄貴分として正義感に溢れていそうな、優しそうな顔立ちをしている。
その兄貴警察官が笑顔の一切を取り払い、目を鋭くしているのだ。
真人の体温は真冬の空のように、どんどん下がっていく。
「えっと、そのぉ~……へへ……」
取り繕おうとする真人だが、名回答が即座に出てくる程、彼の頭は賢くない。
行き詰まった彼は、ヘラヘラして警察官の機嫌を取ろうと、涙ぐましい努力をしていた。
その選択は逆効果。
結果、警察官のお怒りゲージが発熱し、天に向かって沸騰していく。事態はより悪化した。
業を煮やした警察官が、ふいに口を開いた。
「おうおう、こんな大層な偽造パスポート、よくも手に入ったもんだなぁ」
「ハハハ、友達バンザイですね」
「ふざけてるんじゃねぇんだよっ!」
真人が軽く返答した途端、警察官が鬼のような形相で怒鳴りつけた。対面して挟むような形で置かれていた机が、激しく叩きつけられる。
取調室に、大音量が諸に響き渡った。
「うぅ……すいませんでした」
視覚と聴覚。ダブルでの威嚇に、堪らず真人はビクついて、涙がホロリと零れ落ちる。これにてゲームオーバーだ。致し方ない。
彼は素直に頭を下げた。
一段落したと言わんばかりに、警察官が溜息をつく。空気が緩和した。
真人の殊勝な態度を見て溜飲が下がったのか、彼が話を先に進めた。
「で、国籍は?」
「あの、俺、孤児なんです。小さい頃にどこかから攫われたみたいでして……この国出身なのは確かなんですけど……」
曖昧な返答。警察官が真人を凝視する。懲りないで嘘を言っている様には見えない。
自信のない物言いを聞いて、警察官は腕を組んで何かを考え始めた。
「ふむ、歳はいくつだ?」
「はい、もうすぐ十八歳になります」
警察官の目から見ても、真人は日本人だ。身元不明であるならば、過去の履歴が残っている筈。
行方不明者の一覧から精査するには情報が必要だ。
質問して返ってきた情報を、警察官は事細かとメモ帳に書き込んでいく。
やがて全ての尋問が滞りなく終了すると、彼は席を立って真人に声を掛けた。
「行方不明者の名簿から調べてみるか。ちょっとそこで待っていろ」
警察官が取調室を出ていき、真人は一人室内に取り残される。
彼の緊張の糸は、扉の閉まる音と同時に切れた。鬼の威嚇から解放されたことで放心状態になり、ほっと気が抜け椅子にずり落ちていった。
一方、他の警察官達は、取り調べの様子を内緒で観察していた。それと同時に、無駄に人員をさいて情報収集にも当たっていた。
基本、彼らは暇なのである。
その彼らが、検索システムの設置された一室で、驚愕の声を上げていた。
「これは……」
「まさか相馬家のご子息なんてことは……」
「アレがか? ないない」
「しかしこれが一番可能性が高いぞ」
「どう見ても違うだろ。良く見ろ、あのヘタレ顔。ヘラヘラしやがって」
絞り込まれた結果に、皆一様に目を見張る。
予想外の大物にヒットしたのだ。
該当一件――相馬真人。
相馬家長男。新暦208年十月。当時五歳だった相馬家長男が、母親と買い物中に行方不明となる。失踪宣告の後、死亡扱いとなる。
結果の表示された画面を閲覧しながら、警察官達は一斉に真人を見る。遠目に眺め「ありえない」と皆一様に首を振った。
だがその人物が人物なだけに、彼らの一人が「待った」を掛けた。
「だが相馬家というと、例の天才双子で有名な十二貴族の名家じゃないか。もしもの場合……」
「……」
「……一応、連絡取ってみるか」
その意見に満場一致で決定が下された。
――十二貴族。
経済の大財閥や武の名門など、世に歴史ある名家は幾つか存在するが、その中でも異能に関する名声を一身に受ける者達がいた。
日本国内の高位ランカーを管理する"貴族"の名を冠する一族。その一つが相馬家である。
◆◇◆◇◆◇
まさかの行動が、その通りの事態を引き起こした。
空港内の警察官達は、その圧倒的な気配に神経を尖らせ、尋常じゃない汗を流していた。
「ど、どうも、ハハ、ようこそいらっしゃいました」
「さ、ささ、どうぞこちらです」
雲上の御仁を案内する警察官一同。
彼らは喉が張り付く程の緊張感を滾らせながらも、失礼が無いようにと繊細な気遣いを忘れない。
あたかも護送される囚人のように、又は警護される要人が如く、一人の男性が廊下を歩く。
警察官に取り囲まれながらも、表情を一切崩さないその男性――重厚な雰囲気の男性が、静かな足取りで進んでいった。
年の頃は四十代くらいだろう。寡黙にして巌のような存在感。
赤紫色の短髪と精悍な顔付き、それに一寸の乱れもなく纏われた和服が、彼の醸し出す"雅"を演出していた。
十二貴族相馬家現当主――相馬風月。
若かりし頃は国内きってのランカーと謳われた、国の重鎮。政財界の大物である。現役を退いた今でも、その実力はトップレベルと言われていた。
相馬家は警察内部にも親戚縁者が多く、下っ端警察官の首など簡単に飛ぶ。
普段は適当な警察官達も、今では生きた心地がしなかった。
「っ――!」
驚きで、風月が目を見開く。濃厚な気配が拡散した。
連鎖反応で警察官達もビクッと仰け反る。
まさか本当だったとは……。
一目見た瞬間、風月の思考が停止した。当主としてはあるまじき行為。それ程の衝撃だった。
連絡を受けた時は眉唾物だった。息子とはいえ、既に死亡扱いとなっている。十年以上音沙汰がなかったので、過去のモノと見ていた。
しかし妻のことを思うと忍びない。失踪当時は失ったショックで寝込むことが多かった。時々見せる悲しい顔が、胸に痛い。
それで来てみた。来てみただけ。
それで終わる筈だった。
取調室にいるのは落ち着きのない一人の少年。
目元、口元、鼻筋、輪郭――そして直感。親にしか分からないモノもある。
それらの全てがそうだと告げている。
唯一、髪の色だけは変わっているが、それは重要ではない。髪色など成長によって変化することもあるし、人によって異なってくる。
間違いない、息子だ。今になって帰ってきた。
何故今になって?
一瞬何らかの国外勢力を想像したが、その可能性は切って捨てる。
あんなマヌケな格好の工作員など、誰も寄越さないだろう。組織の恥だ。
ならば本当に普通に戻ってきただけなのかもしれない。
「ど、どうでしょうか?」
「……成長して色々と変わっているが間違いない。妻や子供達に似た面影がある」
その言葉に、警察官達は一斉に顔色を変えた。
捕縛、尋問、恫喝。食事の一つも差し出していない。
扱いは、まるっきり犯罪者のソレだ。
……まずい。
本当に相馬家の血筋だったとしたら、今までの対応はかなりまずいことになる。
取調室にほったらかしの今の状態も、よろしくない。
いや、まだ大丈夫だ。当人の頭は良さそうではない。今なら方向転換して、上手く誤魔化せる。
警察官達は慌てて別室を用意して、セッティングを行うのであった。
「はっはは、いやぁ~、済まなかったね」
「ハハ……いやね、私達も違うとは思っていたんだよ」
「そうよね。機械が故障するなんて、困ったものね」
「そうそう、全く、怖い世の中になったものだ。ハハ、ハ」
やたらとおべんちゃらを並び立てる警察官達。
真人の状況は激変していた。
先程までの待遇が一転、腫れ物を触るかのような丁重さで、面会室に連れて行かれる。
不審者を嘲笑うような空気は消え去り、愛想笑いが伝染したかのようなムード。流されている気がしないまでもない。
説明では手違いがあったとのことだったが、真人はどこか釈然としないものを感じていた。
警察官の一人がノックをし、扉を開け中に入る。
真人が通された先には、一人の迫力ある男性が佇んでいた。黄昏れるように、窓の外を眺めている。
その男が振り返った。
どくん
真人の中で何かが震える。
それは埋もれた記憶の断片なのか、はたまた遺伝子が伝えたシンパシーなのか。
理由は定かではないが、真人はその男性を一目見て、身体中に電流が走るかのような錯覚を体験した。
この感覚は何なのだろうか。
初めての感覚。第六感的な刺激。それに真人は戸惑いを隠せない。
男と目が合った。彼は自分をじっと見つめている。
警察官達は黙りを決め込んでいた。静かな空気が朝のひと時のようだ。
誰もが最初の一言に胸を躍らせ、刮目していた。特に女性陣の目の輝き様が半端ではない。
十数年振りの親子の再会。
作り物ではない、生ドラマだ。それも大物の挙動というのだから、見逃せない。
そんな中、事情を全く知らない真人は、居心地の悪い思いをしていた。
何をどうしろと言うのか。誰か何かを言って欲しい。
男性も同様なのか、開口一番で、神妙に語りかけてきた。
「幼少時、忽然と消えたお前がまさか生きていたとはな」
「はぁ……」
未だ何の説明も受けていない真人は、目の前の男性が何を言っているのか理解できなかった。
パニクった警察官達はそれに気付いていない。それどころか、リアルストーリーを楽しんでいる節さえ見受けられる。
職務怠慢も甚だしい。
それを知らない男性もまた、完全に流れを誤解したまま、話を続けていた。
「今更貴様を息子などと呼ぶ気はない。が、親の責任もある。身元保証人にはなってやろう。多少の援助もしてやる」
「……息子? えっ? あのっ、へっ? えっと……あ、ありがとうございます?」
真人の混乱は加速して、適当なお礼へと変わった。
急に"息子"などと言われても頭が追いつかない。
あの頃――憶えていたのは"真人"という名前だけ。それ以外の記憶は一切なかった。
なので、"親"というものに実感が湧かないのだ。事態は困惑する一方。真人は頭の整理をする時間が欲しかった。
しかしそんな空気を読むことなく、彼の目の前の男性は勝手に暴走していく。
「勘違いするんじゃない! 私にも立場というものがあるだけだ」
年をくったオヤジのツンデレなど可愛くはない。
うっすら頬を染める男性を尻目に、真人は己の身の振り方を考えていた。
戸惑う真人を完全に無視して、独自のストーリーを組み立ていく男性。彼なりの拘りが感じられる。
確かに物事は最初が肝心だとは言うが、そこなのだろうか。ならば黙っていた方が良いだろう。
真人は考えがまとまらないので、聞きに徹することにした。
「それに――」
そこで男性は一呼吸置き、小声で呟いた。
「この気配、異能が覚醒したのか? どういう事だ?」
男性は一人で疑問を投げかけ、誰に窺うことなく一人で解決に導いていく。
真人はこの短時間で、親を名乗る眼前の男性の事を把握したような気がした。
知略に富んだ名家の当主であろうと、間違えることはある。
一方的な会話も一区切りし、落ち着いたところで、真人は現状を伝えてみた。
彼が何の説明を受けてなかったのを知り、父親――相馬風月と名乗ったその男性は、あさっての方向を見つめ、あからさまに話題を変えた。
予想していた威厳ある父親像が崩れたのを察して、必死に取り繕おうとしているのが、真人にはバレバレだ。
途中、風月が警察官達をギラリと睨みつけていたが、彼らの胸中は如何程だったのだろうか。怯えていた様は、真人の目に変なモノに映っていた。
同情はしない。自業自得である。これからは是非、真面目に仕事に励んで頂きたい。
「オホンッ、それで働き口はあるのか?」
「あ、はい。コンビニの店員でもやろうかと……」
「何だと!」
予想外の展開で、若干打ち解けた(ような気がした)風月から、真人は親身な質問を投げかけられた。
気さくに返答した真人であったが、今後の展望を述べた途端、己の過ちに気づく。またしても空気が変化した。
風月の顔が般若のように変貌したのだ。
恐いので睨まないでください。
そんな想いが真人の心中に渦巻いていた。
彼の精神の発射台は、あと数秒程で点火され、そのまま那由他の彼方にまで飛んで行きそうな勢いで、スタンバイされていた。
「貴様! 栄えある相馬家に関わる者がコンビニの社員などと――」
「あ、いえ、社員ではなく、アルバイトです」
「ア、アルバイトだと!」
アルバイト店員。
真人に言わせれば立派な第一歩だが、国の中枢に生きる御仁にしてみれば、情けなさの極み。
クワッと活を入れるお坊さんが如く、殺気にも似た気配が風月から飛び出した。
真人はたじろいで一歩下がった。
しまった。つい条件反射で本当の事を喋ってしまった。風月にとっては禁句だったらしい。
風月の轟くような怒声を受けて、いつぞやの取調室の再来が真人に起こった。
「貴様、ふざけているのか?」
「えっ? いや、本気なんですけど……」
「……目眩が」
久しぶりに会った息子の体たらくに、限界を超えた衝撃が風月を襲い、彼は力が抜けてよろめいてしまう。
またやってしまった。またしても余計な事を口に出してしまった。
真人は発言する度に失態を犯す自分に、何を言ったら大丈夫なのかの判断が揺らいでいた。一言一言が風月の琴線に触れる。というか、根本的な思想が違う気がしていた。
彼はコミュニケーションの難しさを改めて知った。
そんな間も何のその。
風月は数秒後には体勢を戻し、直ぐ様あらゆる人事を計算して、真人の未来を構想していく。
「あの……」
「今更学校に通ってもな。いや待て、そういえば防衛省で"ウォーリア"の人員を募集していたな」
もはや真人の拒絶は許さんとばかりに、風月の計画が決定された。
防衛省管轄、異能災害対策室――通称『ウォーリア』。
戦士の名を冠する、国家所属の討伐集団である。
戦闘に特化したこの組織は、実戦を担当する部署だけでなく、荒事に関係ない事務的な部署ですら、個々が大きな戦闘能力を擁する。
彼らは正に、"国家の剣"を体現していた。
「うむ、その顔の良さは妻にそっくりだ。顧客受けするかもしれない。それにその愛想の振り方には天性のものを感じる。営業に向いているかもしれないな。ついでに住む場所をウォーリアの近くにして……いや、いっそ本家に戻らせるか?」
自分の世界に浸り、無意識に親バカを発動する風月。
彼の脳内で、真人の行く末が勝手に構想されていく。
「よし、特別に就職先を紹介してやる」
こうして問答無用で、真人少年の進路が決まったのであった。