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異端進化論 ~ヘタレと無謀と遺跡の物語~  作者: 七草 折紙
第一章 ヘタレ男と特攻少女
6/11

第一話 初めまして、お父様

 新暦221年、夏。


 国際空港到着ロビー。

 途方に暮れて、窓から外を眺める少年がいた。


 濃い灰色の髪に黒縁眼鏡。これだけならば、勤勉な学生に見えなくもない。

 問題は服装の方だった。


 上半身には、赤文字で「I LOVE JAPAN」と描かれたピンク色のシャツ――世間では記念Tシャツと呼ばれる類のモノであり、飾るか保管するのが一般的な代物だ。普段着として着用、それも外で着るような服ではない。

 そしてジーパン。こちらは違和感がない。決して間違っている訳ではないのだ。

 しかし総合的な格好を見れば、そのセンスに難があった。ラフがテーマといえども何か違う。

 極めつけには、旅行者を思わせる大きめのリュック。


 オタク兼余所者オーラ丸出しであった。


 当然、怪しさ全開であるため、近づく者はいない。

 皆関わらないように避けていく。






 少年はさっき飛行機から降りたばかりの、搭乗客の一人であった。

 到着後、物珍しさからか辺りをキョロキョロと見渡しながら、落ち着きなく歩き回っていた。

 その結果、同乗客の群れからはぐれて行き先不明状態、所謂迷子になってしまったのである。


「おぉ~、ここが日本、俺の祖国かぁ。成程、平和に満ち溢れている良い国だ」


 そんな状況にも関わらず、彼には危機感がなかった。然程気にした様子もなく、懲りずに空港内を散策している。

 祖国というのは空気が違うのだろうか。肌に合うのかもしれない。彼には全てが輝かしかった。


 殺伐とした日々からの逃避行。


 皆に内緒でこっそり準備を敢行し、ベストのタイミングで夜逃げしてきた。

 気付いた頃には時既に遅し。行き先を知るのは一人の友人だけ。彼にはキツく口止めをしておいたので、大丈夫だろう。

 まさに完璧な計画である。


「ふっふっふ、俺はもう自由の身。これからは青春を謳歌するぞぉ、お~っ!」


 覇気が感じられず、のほほんとした雰囲気を纏い、締りのない顔をした少年A。

 その人物が笑顔で独り言を呟きながら、ハイテンションで右腕を高く突き出した。


 周りの人達が目を向けるのは、少年が背負っている無駄に大きいバック。

 皆は思う。



 ――何が入っているのだろうか。



 挙動不審な男と謎のバック。飾り付けられたアイドルオタク全開のバッジなどは、下手なカムフラージュにしか見えない。

 それを目にした人々は何を思うのか。



 ――まさか、爆弾! 新手のテロか!



 そうなるのも当然である。


 この時点で事態はまずい方向へと動いていたのだが、彼は気付かない。

 騒がしくなってきた原因が自分にあるとは、露ほどにも思っていなかった。


「さてさて、それではまず"エロゲー"とやらを買いに"アキバ"とかいう街に向かうか。それとも"キャバクラ"とやらで"ハーレムナイト"を満喫するか……」


 徐々に慌ただしくなる空港内。

 まさか周りが耳を傾けているとは思わない彼は、マイペースを貫く。

 堂々とイケナイ単語を連発して、落ち着きなく彷徨う謎の男。そんな人間は現実にはありえない。ならば……。



 ――それで欺いているつもりか?



 という結論に辿り着いても不思議ではない。

 傍から見れば不審者そのものである。当然――


「あっ、あの人です! 変質者!」

「えっ?」


 通報されても文句は言えない。案の定、警官が呼ばれてやって来た。

 一人ではなく複数の武装警官。彼らは不審者一名を取り囲もうと包囲網を張り出した。


 当の少年はというと「うるさいな~」と思いながらも、野次馬根性で辺りを見渡し始める。

 しかし視線の中心点は自分。囲むようにして見事なサークルが出来上がっていた。

 この国に知り合いはいない筈だ。吃驚ドッキリ歓迎会、などあろう筈もない。つまりは別の理由があるということ。


 叫んでいる女性が指差すのも……自分。つまりは警官の標的も、自分?

 少年は青褪めていく。ここにきて、漸く彼は事態を悟った。


 改めて自分の状況を顧みる。

 身分証は偽造パスポートのみ。不法入国者だ。身元保証人もこの国にはいない。

 ということは、捕まったら即牢屋行きは免れない。


 導き出された答えは――


「おい、君! 待ちなさい!」

「さいなら~っ!」


 更なる逃亡であった。



◆◇◆◇◆◇


「名前は?」

「……(ひいらぎ)真人(まこと)です」


 逃走失敗。世の中そんなに甘くはない。


 不審者疑惑の男――柊真人と名乗ったその少年は、只今空港警察内で尋問を受けていた。

 目の前では恐い警察官が睨みつけており、彼はオドオドと愛想を振りまく。


「名前からして日本人だな。見た目もそうだしな」

「そ、そうなんですよ!」

「で、何でこんなもん持ってやがるんだぁ?」

「それは、その、ですね……」


 真人の目の前に出されたのは、目に痛い偽造パスポート。証拠は上がっているので言い訳などできようもない。

 彼は追い詰められていた。


「…………」


 沈黙。

 真人は黙秘権を行使している訳ではない。本能から導き出された最善策だ。

 何も言えない彼はともかく、警察官の無言の威嚇も容赦ない。


 真人の顔は引き攣り、じわりと涙が浮かび出た。何かを言おうとする口元も覚束ない。


 警察官は、普段は兄貴分として正義感に溢れていそうな、優しそうな顔立ちをしている。

 その兄貴警察官が笑顔の一切を取り払い、目を鋭くしているのだ。


 真人の体温は真冬の空のように、どんどん下がっていく。


「えっと、そのぉ~……へへ……」


 取り繕おうとする真人だが、名回答が即座に出てくる程、彼の頭は賢くない。

 行き詰まった彼は、ヘラヘラして警察官の機嫌を取ろうと、涙ぐましい努力をしていた。


 その選択は逆効果。


 結果、警察官のお怒りゲージが発熱し、天に向かって沸騰していく。事態はより悪化した。

 業を煮やした警察官が、ふいに口を開いた。


「おうおう、こんな大層な偽造パスポート、よくも手に入ったもんだなぁ」

「ハハハ、友達バンザイですね」

「ふざけてるんじゃねぇんだよっ!」


 真人が軽く返答した途端、警察官が鬼のような形相で怒鳴りつけた。対面して挟むような形で置かれていた机が、激しく叩きつけられる。

 取調室に、大音量が諸に響き渡った。


「うぅ……すいませんでした」


 視覚と聴覚。ダブルでの威嚇に、堪らず真人はビクついて、涙がホロリと零れ落ちる。これにてゲームオーバーだ。致し方ない。

 彼は素直に頭を下げた。


 一段落したと言わんばかりに、警察官が溜息をつく。空気が緩和した。

 真人の殊勝な態度を見て溜飲が下がったのか、彼が話を先に進めた。


「で、国籍は?」

「あの、俺、孤児なんです。小さい頃にどこかから攫われたみたいでして……この国出身なのは確かなんですけど……」


 曖昧な返答。警察官が真人を凝視する。懲りないで嘘を言っている様には見えない。

 自信のない物言いを聞いて、警察官は腕を組んで何かを考え始めた。


「ふむ、歳はいくつだ?」

「はい、もうすぐ十八歳になります」


 警察官の目から見ても、真人は日本人だ。身元不明であるならば、過去の履歴が残っている筈。

 行方不明者の一覧から精査するには情報が必要だ。

 質問して返ってきた情報を、警察官は事細かとメモ帳に書き込んでいく。

 やがて全ての尋問が滞りなく終了すると、彼は席を立って真人に声を掛けた。


「行方不明者の名簿から調べてみるか。ちょっとそこで待っていろ」


 警察官が取調室を出ていき、真人は一人室内に取り残される。

 彼の緊張の糸は、扉の閉まる音と同時に切れた。鬼の威嚇から解放されたことで放心状態になり、ほっと気が抜け椅子にずり落ちていった。






 一方、他の警察官達は、取り調べの様子を内緒で観察していた。それと同時に、無駄に人員をさいて情報収集にも当たっていた。

 基本、彼らは暇なのである。

 その彼らが、検索システムの設置された一室で、驚愕の声を上げていた。


「これは……」

「まさか相馬家のご子息なんてことは……」

「アレがか? ないない」

「しかしこれが一番可能性が高いぞ」

「どう見ても違うだろ。良く見ろ、あのヘタレ顔。ヘラヘラしやがって」


 絞り込まれた結果に、皆一様に目を見張る。

 予想外の大物にヒットしたのだ。



 該当一件――相馬真人。

 相馬家長男。新暦208年十月。当時五歳だった相馬家長男が、母親と買い物中に行方不明となる。失踪宣告の後、死亡扱いとなる。



 結果の表示された画面を閲覧しながら、警察官達は一斉に真人を見る。遠目に眺め「ありえない」と皆一様に首を振った。

 だがその人物が人物なだけに、彼らの一人が「待った」を掛けた。


「だが相馬家というと、例の天才双子で有名な十二貴族の名家じゃないか。もしもの場合……」

「……」

「……一応、連絡取ってみるか」


 その意見に満場一致で決定が下された。



 ――十二貴族。



 経済の大財閥や武の名門など、世に歴史ある名家は幾つか存在するが、その中でも異能に関する名声を一身に受ける者達がいた。

 日本国内の高位ランカーを管理する"貴族"の名を冠する一族。その一つが相馬家である。



◆◇◆◇◆◇


 まさかの行動が、その通りの事態を引き起こした。

 空港内の警察官達は、その圧倒的な気配に神経を尖らせ、尋常じゃない汗を流していた。


「ど、どうも、ハハ、ようこそいらっしゃいました」

「さ、ささ、どうぞこちらです」


 雲上の御仁を案内する警察官一同。

 彼らは喉が張り付く程の緊張感を滾らせながらも、失礼が無いようにと繊細な気遣いを忘れない。


 あたかも護送される囚人のように、又は警護される要人が如く、一人の男性が廊下を歩く。

 警察官に取り囲まれながらも、表情を一切崩さないその男性――重厚な雰囲気の男性が、静かな足取りで進んでいった。


 年の頃は四十代くらいだろう。寡黙にして巌のような存在感。

 赤紫色の短髪と精悍な顔付き、それに一寸の乱れもなく纏われた和服が、彼の醸し出す"雅"を演出していた。



 十二貴族相馬家現当主――相馬風月。



 若かりし頃は国内きってのランカーと謳われた、国の重鎮。政財界の大物である。現役を退いた今でも、その実力はトップレベルと言われていた。

 相馬家は警察内部にも親戚縁者が多く、下っ端警察官の首など簡単に飛ぶ。


 普段は適当な警察官達も、今では生きた心地がしなかった。






「っ――!」


 驚きで、風月が目を見開く。濃厚な気配が拡散した。

 連鎖反応で警察官達もビクッと仰け反る。



 まさか本当だったとは……。



 一目見た瞬間、風月の思考が停止した。当主としてはあるまじき行為。それ程の衝撃だった。

 連絡を受けた時は眉唾物だった。息子とはいえ、既に死亡扱いとなっている。十年以上音沙汰がなかったので、過去のモノと見ていた。

 しかし妻のことを思うと忍びない。失踪当時は失ったショックで寝込むことが多かった。時々見せる悲しい顔が、胸に痛い。



 それで来てみた。来てみただけ。



 それで終わる筈だった。


 取調室にいるのは落ち着きのない一人の少年。

 目元、口元、鼻筋、輪郭――そして直感。親にしか分からないモノもある。

 それらの全てがそうだと告げている。

 唯一、髪の色だけは変わっているが、それは重要ではない。髪色など成長によって変化することもあるし、人によって異なってくる。



 間違いない、息子だ。今になって帰ってきた。



 何故今になって?



 一瞬何らかの国外勢力を想像したが、その可能性は切って捨てる。

 あんなマヌケな格好の工作員など、誰も寄越さないだろう。組織の恥だ。

 ならば本当に普通に戻ってきただけなのかもしれない。


「ど、どうでしょうか?」

「……成長して色々と変わっているが間違いない。妻や子供達に似た面影がある」


 その言葉に、警察官達は一斉に顔色を変えた。

 捕縛、尋問、恫喝。食事の一つも差し出していない。

 扱いは、まるっきり犯罪者のソレだ。



 ……まずい。



 本当に相馬家の血筋だったとしたら、今までの対応はかなりまずいことになる。

 取調室にほったらかしの今の状態も、よろしくない。

 いや、まだ大丈夫だ。当人の頭は良さそうではない。今なら方向転換して、上手く誤魔化せる。


 警察官達は慌てて別室を用意して、セッティングを行うのであった。






「はっはは、いやぁ~、済まなかったね」

「ハハ……いやね、私達も違うとは思っていたんだよ」

「そうよね。機械が故障するなんて、困ったものね」

「そうそう、全く、怖い世の中になったものだ。ハハ、ハ」


 やたらとおべんちゃらを並び立てる警察官達。


 真人の状況は激変していた。

 先程までの待遇が一転、腫れ物を触るかのような丁重さで、面会室に連れて行かれる。


 不審者を嘲笑うような空気は消え去り、愛想笑いが伝染したかのようなムード。流されている気がしないまでもない。

 説明では手違いがあったとのことだったが、真人はどこか釈然としないものを感じていた。






 警察官の一人がノックをし、扉を開け中に入る。

 真人が通された先には、一人の迫力ある男性が佇んでいた。黄昏れるように、窓の外を眺めている。

 その男が振り返った。


 どくん


 真人の中で何かが震える。

 それは埋もれた記憶の断片なのか、はたまた遺伝子が伝えたシンパシーなのか。

 理由は定かではないが、真人はその男性を一目見て、身体中に電流が走るかのような錯覚を体験した。


 この感覚は何なのだろうか。

 初めての感覚。第六感的な刺激。それに真人は戸惑いを隠せない。


 男と目が合った。彼は自分をじっと見つめている。

 警察官達は黙りを決め込んでいた。静かな空気が朝のひと時のようだ。

 誰もが最初の一言に胸を躍らせ、刮目していた。特に女性陣の目の輝き様が半端ではない。


 十数年振りの親子の再会。

 作り物ではない、生ドラマだ。それも大物の挙動というのだから、見逃せない。


 そんな中、事情を全く知らない真人は、居心地の悪い思いをしていた。

 何をどうしろと言うのか。誰か何かを言って欲しい。


 男性も同様なのか、開口一番で、神妙に語りかけてきた。


「幼少時、忽然と消えたお前がまさか生きていたとはな」

「はぁ……」


 未だ何の説明も受けていない真人は、目の前の男性が何を言っているのか理解できなかった。

 パニクった警察官達はそれに気付いていない。それどころか、リアルストーリーを楽しんでいる節さえ見受けられる。

 職務怠慢も甚だしい。


 それを知らない男性もまた、完全に流れを誤解したまま、話を続けていた。


「今更貴様を息子などと呼ぶ気はない。が、親の責任もある。身元保証人にはなってやろう。多少の援助もしてやる」

「……息子? えっ? あのっ、へっ? えっと……あ、ありがとうございます?」


 真人の混乱は加速して、適当なお礼へと変わった。

 急に"息子"などと言われても頭が追いつかない。


 あの頃――憶えていたのは"真人"という名前だけ。それ以外の記憶は一切なかった。

 なので、"親"というものに実感が湧かないのだ。事態は困惑する一方。真人は頭の整理をする時間が欲しかった。


 しかしそんな空気を読むことなく、彼の目の前の男性は勝手に暴走していく。


「勘違いするんじゃない! 私にも立場というものがあるだけだ」


 年をくったオヤジのツンデレなど可愛くはない。

 うっすら頬を染める男性を尻目に、真人は己の身の振り方を考えていた。


 戸惑う真人を完全に無視して、独自のストーリーを組み立ていく男性。彼なりの拘りが感じられる。

 確かに物事は最初が肝心だとは言うが、そこなのだろうか。ならば黙っていた方が良いだろう。

 真人は考えがまとまらないので、聞きに徹することにした。


「それに――」


 そこで男性は一呼吸置き、小声で呟いた。


「この気配、異能が覚醒したのか? どういう事だ?」


 男性は一人で疑問を投げかけ、誰に窺うことなく一人で解決に導いていく。

 真人はこの短時間で、親を名乗る眼前の男性の事を把握したような気がした。






 知略に富んだ名家の当主であろうと、間違えることはある。

 一方的な会話も一区切りし、落ち着いたところで、真人は現状を伝えてみた。

 彼が何の説明を受けてなかったのを知り、父親――相馬風月と名乗ったその男性は、あさっての方向を見つめ、あからさまに話題を変えた。

 予想していた威厳ある父親像が崩れたのを察して、必死に取り繕おうとしているのが、真人にはバレバレだ。


 途中、風月が警察官達をギラリと睨みつけていたが、彼らの胸中は如何程だったのだろうか。怯えていた様は、真人の目に変なモノに映っていた。

 同情はしない。自業自得である。これからは是非、真面目に仕事に励んで頂きたい。


「オホンッ、それで働き口はあるのか?」

「あ、はい。コンビニの店員でもやろうかと……」

「何だと!」


 予想外の展開で、若干打ち解けた(ような気がした)風月から、真人は親身な質問を投げかけられた。

 気さくに返答した真人であったが、今後の展望を述べた途端、己の過ちに気づく。またしても空気が変化した。

 風月の顔が般若のように変貌したのだ。


 恐いので睨まないでください。


 そんな想いが真人の心中に渦巻いていた。

 彼の精神の発射台は、あと数秒程で点火され、そのまま那由他の彼方にまで飛んで行きそうな勢いで、スタンバイされていた。


「貴様! 栄えある相馬家に関わる者がコンビニの社員などと――」

「あ、いえ、社員ではなく、アルバイトです」

「ア、アルバイトだと!」


 アルバイト店員。

 真人に言わせれば立派な第一歩だが、国の中枢に生きる御仁にしてみれば、情けなさの極み。

 クワッと活を入れるお坊さんが如く、殺気にも似た気配が風月から飛び出した。


 真人はたじろいで一歩下がった。

 しまった。つい条件反射で本当の事を喋ってしまった。風月にとっては禁句だったらしい。

 風月の轟くような怒声を受けて、いつぞやの取調室の再来が真人に起こった。


「貴様、ふざけているのか?」

「えっ? いや、本気なんですけど……」

「……目眩が」


 久しぶりに会った息子の体たらくに、限界を超えた衝撃が風月を襲い、彼は力が抜けてよろめいてしまう。


 またやってしまった。またしても余計な事を口に出してしまった。

 真人は発言する度に失態を犯す自分に、何を言ったら大丈夫なのかの判断が揺らいでいた。一言一言が風月の琴線に触れる。というか、根本的な思想が違う気がしていた。

 彼はコミュニケーションの難しさを改めて知った。


 そんな間も何のその。

 風月は数秒後には体勢を戻し、直ぐ様あらゆる人事を計算して、真人の未来を構想していく。


「あの……」

「今更学校に通ってもな。いや待て、そういえば防衛省で"ウォーリア"の人員を募集していたな」


 もはや真人の拒絶は許さんとばかりに、風月の計画が決定された。


 防衛省管轄、異能災害対策室――通称『ウォーリア』。


 戦士の名を冠する、国家所属の討伐集団である。

 戦闘に特化したこの組織は、実戦を担当する部署だけでなく、荒事に関係ない事務的な部署ですら、個々が大きな戦闘能力を擁する。

 彼らは正に、"国家の剣"を体現していた。


「うむ、その顔の良さは妻にそっくりだ。顧客受けするかもしれない。それにその愛想の振り方には天性のものを感じる。営業に向いているかもしれないな。ついでに住む場所をウォーリアの近くにして……いや、いっそ本家に戻らせるか?」


 自分の世界に浸り、無意識に親バカを発動する風月。

 彼の脳内で、真人の行く末が勝手に構想されていく。


「よし、特別に就職先を紹介してやる」


 こうして問答無用で、真人少年の進路が決まったのであった。


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