プロローグ2 魔方陣
そこは私たちの住む地球ではない。
どこかの遠い星の一つなのか、それとも異次元にあるといわれる世界なのか・・・。
わからない、
私たちの知らない世界の風景。
そこは、大きく広がる台地。草原と森が多くを占めるところ。
その草原に石で作られた大きな白い壁があった。その壁は大きく、20メートルはある高さを持ち、その長さは1キロメートルを超えている。
壁の向こうには、人が住む建物が立ち並び町並みを作っている。
空から見ると草原の中に、大きな壁に囲まれた四角い都市が其処に在った。
その1面の壁の上に、人が1メートルぐらいの間隔で端から端まで並んでいる。
その人たちは光に輝く金属の鎧を着るもの、変わった形の服を着るものなど幾種類かの衣装に分かれていた。そして、その手には弓や長い棒のようなものを持ち、壁の外側に向かって構えていた。
全員が構えている方向、大きな森の中に赤い影が見えた。
その影は高く作られた壁よりもまだ高かった。高さ20数メートルを超えるその影は、よく見ると人の形をしていた。
巨大な赤い人型、それも全身を筋肉で覆われた格闘家のようなシルエットであった。
その頭には角のようなものが1本生えており、その充血したような濁った目は顔の真ん中に1つだけ存在していた。口には鋭い歯が並び、よだれを垂らし続けている。
そして手には、長さ10メートルはある太い木が握られていた。それは、まさしく怪物であった。
壁とその怪物との距離が50メートルぐらいになった頃、壁の上から、無数の炎や雷そして矢が怪物に向かって放たれた。しかし怪物はその攻撃に動じることも無く、壁に向かって近づいていく。
やがて怪物が手に持った大木で壁を砕こうと振りかぶったとき、それまで何か呪文のような言葉を呟いていた青い服を着た人物が、両手を怪物の足元にむけて声を上げた。
『%&g#?・・・・』
すると怪物の足元に直径20メートルほどの青く光る円が現れた。
その円は怪物を囲むように上へとその光を伸ばしていく。
怪物はその光から逃れようと体を動かすが、その足は円から離れることができないようである。
やがて光の円の中に複雑な文様が浮かび上がる。
そして、ゆっくりとその文様が回りだすと、それとともに怪物の足元が歪みだす。
その歪みが徐々に上に伸びていき、怪物の体すべてを歪ませる。
そして全身を歪ませた怪物は、足元からその姿が消えていく。やがて全てが消えうせ、怪物の姿はその場所から消え失せていた。
怪物が消えうせてから暫くして、壁の上で大きな歓声が上がった。
壁の中心あたりで、白い鎧を纏った30半ばぐらいの男が、青い服の人物に近づいていく。
男の背は高く、青い服の人物を見下ろす形になる。しかし男の表情には、青い服の人物に対する尊敬の感情があふれていた。心酔した眼差しを青い服の人物に向けながら、興奮気味に話しだす。
『ジェルバ様!成功おめでとうございます。
今までなすすべもなかった、あの〈ギガンテス〉が、影も形も無く消えうせました。
ジェルバ様が作られたこの空間放出の魔法陣があれば、これまで恐れることしかできなかった怪物たちをこの世界から消し去ることができます!素晴らしい発明です』
ジェルバと呼ばれた人物《銀色の髪に紫の瞳を持った若い女》は、男からの賛辞に対して輝くような笑顔で返す。
だが、すぐに表情を引き締めて返答する。
『いえ、〈ギガンテス〉は巨大で頑丈な上に怪力という恐ろしい怪物でしたが、魔力も持たずブレスも吐かない、まだやりやすい相手でした。
しかし、まだまだこの世界には、もっと恐ろしい怪物がたくさんいます。
人々に平和をもたらすため、これからも魔法陣の改良を続けていかなくてはなりません。
ですが、私たちは決して負けません!』
『はい、頑張りましょう!私たちは、あなたに何処までもついていきます』
ジェルバ達は壁の上で喜び合っている者たちを眺めつつ、これからも強大な敵と戦い続けることを誓うのであった。