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プロローグ1  勇者

皆さんの小説を読んでいるうち無い自分でも書いてみたくなって書きました。初めての小説です。完結まで頑張りますので、よろしくお願いします。

 炎が彼の周囲をおおっていた。炎と煙の合間に見える空以外、視界に映るものは無かった。

 他に感じられるものは、肌を焼く熱気と轟々と燃え盛る炎の音、そして右手が握っている少女の手の感触だけ。これは夢だと思いたかった。

 だが彼は思い続ける。

 '僕は諦めない!'



 その悪夢は突然やってきた。

 五十嵐家と三条家、お隣同士の仲良し家族での唯の国内旅行のはずだった。

 行きの飛行機のビデオに、彼が大好きな勇者戦隊ユウシャジャーが有ったことに大喜びした。

 とても幸せだった。彼らが乗った旅客機が、落雷によって墜落するまでは…。


 突然の激烈な落雷による衝撃で、旅客機の操縦室が破壊されたのが始まりだった。その落雷により機長たちパイロットは即死だった。機内に押し寄せる高圧電流によって自動操縦システムも破壊されていた。

 操縦するものを失った旅客機は、多くの乗客を乗せたまま急速に落下していった。

 そして客室を蹂躙した高圧電流に耐え意識を保っていた数人の乗客に、数十秒間の恐怖を与えつつ、旅客機は山林に激突したのだった。


 彼が生き残ったのは、奇跡であった。

 雷の嵐が客室を襲い、彼も高圧電流の攻撃にさらされた。しかし、その電流が彼の命を偶然にも救うこととなるのだった。

 雷の電流が彼の脳を刺激し、彼の思考と感覚を大きく加速させた。そのとき超感覚を得た彼は、墜落の被害を受けにくい場所を感じ取ったのだった。何もわからないまま、彼は生存本能の赴くままに、己の感覚が指し示す場所に移動しようとした。だが激突までの時間が無い状態で、高圧電流により気を失っている両親を、其の場所に運ぶまでの余裕は彼には無かった。

 唯一、隣で気を失っている仲の良かった少女を、抱きしめて移動することしか彼にはできなかった。


 そして激突の衝撃で、彼も意識を失った。



 目が覚めると、彼の周囲は暗くなりかけていた。多くの偶然が重なり、激突時に彼は旅客機から柔らかくはじき出されたのだった。そのおかげで彼の命は助かった。腕の中の少女の温もりを感じながら、気を失う前のことを思い出していた。意識がはっきりしていくとともに、偶然手に入れた超感覚が、他に生存者のいないことを彼に教える。両親を見捨てて生き残ったことの罪悪感と喪失感が、まだ幼い彼の心をしめつけた。


 両親を失ったことの悲しみと見捨てた罪悪感、そして山中での孤独の恐怖に、彼は泣き出すのだった。

「……おとうさん、…おかあさん」

 まだ9歳の彼に、今の現実は残酷すぎた。

 泣きながらも、少女を抱いていない方の手で、ポケットの中にあったユウシャジャーの勇者レッドの人形を握り締めた。

 その時勇者レッドのきめ台詞が彼の頭に浮かんだ。

『勇者は泣かない! 勇者は逃げない! 勇者は諦めない!

 諦めなければ勇者は無敵だ!』


 そう勇者は泣かない。彼は人形を握っていたその腕で、グイっと涙をぬぐった。

 そして腕の中の少女をみる。


 物心がついてから、ずっと一緒に遊んだお隣の少女。

『大人になったら、わたしタイマちゃんのお嫁さんになる!』と言っていた少女。

 彼は、思わず少女の名を呼んでいた。

「ユキナちゃん…」


 勇者ブルーの言葉を思い出す。

『守りたいものがあるなら、勇者は負けない!』


 'ユキナちゃんは、絶対に僕が守る!

 僕は勇者になる!'

 わずか9歳の少年が、生まれて初めて心に誓った言葉だった。


 やがて、少女が目を覚ました。目の前にある大好きな少年の顔に、頬をそめて…。

 自分に何があったか、自分の家族がどうなったかも知らずに…。


 周囲の景色に気付き、少年から事情を聞いて、少女は号泣した。

「パパー  ママー 」

 少年は、泣きながら両親を呼ぶ少女を抱きしめることしかできなかった。

 じっと、少女が泣き疲れるまで待ち続けた。それが大変なことになることも知らずに。


 旅客機が墜落したときに燃料が燃えひろがり、山林にも火が移っていた。

 その火が、墜落地点から離れている少年たちにも近づいていた。

 そのことに気付かない少年は、勇者レッド人形が入っているのとは別のポケットからあるものを取り出した。

 それは勇者イエローがいつも持っているハーモニカ、その名もユウジャニカ!

『歌は勇気の栄養よ!』

 少年は勇者イエローの言葉を思い出しながら、ユウジャニカを吹き鳴らした。

 いつも少女の前で演奏している曲を奏でた。何度も何度も練習したこの曲を少女に聞かせたかった。そして泣き疲れた少女も、無意識に其の曲を口ずさんでいた。

 やがて、歌っている少女の顔に力が戻ってきた。向かい合うお互いの顔が、初めて笑顔になった。


 そして、心に余裕ができた彼らは、初めて周囲の異変に気が付いた。自分たちのいる山林が燃えていることに。


 二人は手をつなぎ、見える炎と反対に走り出した。だが、炎の広がりが早くすぐに囲まれてしまった。


「タイマちゃん、わたしたちもうダメね。パパとママのところへ行くのね」

 すでに諦めた少女の言葉に、炎を睨みながら少年は叫んだ。

「諦めちゃダメだ!絶対助かる!僕は諦めない!

 僕は勇者だ!諦めなければ勇者は無敵だ!」


 少年は歯を食いしばり空を見上げた。その時何も無かった空に大きな影が現れた。

 その影から、人が吊るされた紐が降りてきた。それは……。

 'あれは勇者ワイヤー! ユウシャジャーが助けに来てくれたんだ!'

 自衛隊の救命ヘリからロープで降りてきた隊員を、少年はユウシャジャーだと信じたのだった。



 旅客機墜落の知らせを受け、近くの基地から急行した救命ヘリは、炎に囲まれた子供たちを発見し、すぐに助け出した。

 助け出された2人の子供の内男の子は、自衛隊員たちのことをずっと勇者と呼んでいた。

 

 これが少年'五十嵐当麻'が、自衛隊員を目指したきっかけだった。



誤字脱字が、ありましたらご連絡ください。またご意見ご感想を戴けたら励みになりますので、よければお願いいたします。

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