森の住人
結局、ヤマトは彼女が何を言っているのかわからなかったが、「ついて来い」というようなジェスチャーだけは意味が読み取れた。
彼女の後に着いて歩いて行くのだが、お互い黙っているため、その雰囲気は囚人と看守が歩いているようだった。
(エルフっぽいのいるし、きっと異世界トリップ何だろうなー、まさか自分に起きるとは思わ無かったが……)
ヤマトはそんな風にあまり深刻には捉えていなかった。
なぜなら。
(やっぱり、異世界補正付いて、魔力量異常だったり怪力だったりするんだろうな! さっきは逃げてたけど、補正がついてるとわかれば、怖いものなしだ!)
というように、本で読んだ知識を持ち出して考えていたからだ。
日がくれはじめた頃に、彼女が住んでいる村へと到着した。
その村は、彼女達の種族が住む村としては大きめの村で、200人ほどが集まって暮らしている。
無論、ヤマトはそんな事は知らないので、小さい村だなぁ、などと考えていた。
そして、村へと入って直ぐの事だった。
ヤマトの周りを取り囲むように、彼女と同じ種族の者達が集まってきた。
皆が矢をつがえて睨んでいる事から、歓迎ムードでは無いようだ。
そして、その中の一人がこちらへと歩いてくると、ヤマトに指輪を渡してきた。
付けろ、という事らしい。
着けないわけにもいかないので、一度着けたら二度と外せない呪いの指輪だったりするという妄想を断ち切って人差し指に嵌めた。
すると、先程まで意味の解らない会話だったのが、日本語になって伝わるようになった。
「この指輪すごいな! ちゃんと日本語になってるよ」
「そのニホンゴとやらは分からぬが、ちゃんと使えたようだな、少年」
そんなふうに話しかけて来たのは、あの大猪を一矢で屠った人だった。
「先程はありがとうございました。おかげで命拾いしました。」
「そう固くなるな、それよりもお前が生きていてよかったよ」
「え? あ、はい。 ありがとうございます」
この世界では、人間の扱いは良いのか? とヤマトは一瞬疑問に思ったのだが、彼女の笑みを見ると直ぐにそんな考えは吹き飛んでしまった。
「私の名は、アレクシスだ、よろしく頼む」
そう言って、アレクシスは手を差し出して来た。
「俺は、カンナミ・ヤマトです、よろしく」
二人が握手すると、周りかは気の抜けた声が聞こえて来た。
どうやら握手する事には大きな意味があるようだ。
(そういえば、周りにいるの女性ばかりだ)
今になってそう思ったヤマトだったが、この時間は出かけているのだろうと、アレクシスに手を引かれて、村で一番大きな屋敷へと行くのだった。
その屋敷は、村の中では一際大きいわけだが、大きさ的には米国の二階建ての一軒家くらいだ。
日本人的にはやはり大きいが、この人々の普通の住居は寝るためだけにあるような狭いものだった。
(歓迎……してくれているのか?)
思わずそういう疑問をヤマトは抱いた。
屋敷に着くまでの道中、ヤマトはアレクシスの仲間たちと歩いたのだが、アレクシス達はヤマトを囲むようにして歩いていた。
どう見ても護衛しか見えず、不安になったのだ。
「すまなかったな、私達妖族の中には人族を好かない者もいるのでな」
「妖族? エルフじゃないんだ……」
「私達はエルフだぞ? ドワーフや、フェアリーなども合わせて妖族と呼ぶだけだ」
「あ、なるほどー」
「……そんな事も知らずにこの森へ? ……もしかして私達エルフの掟も知らずに?」
アレクシスは酷く動揺して、声をひそめてヤマトに質問した。
「え、何ですかそれ?」
ヤマトはそう返すや否や、アレクシスは、仲間達に先に行くように告げて、ヤマトの手を引いて、屋敷の二階にある部屋へと連れ込んだ。
「あの……この部屋は?」
「安心しろ、ここは私の部屋だ。 所でヤマト、お前は掟を知らぬと言ったな、だったら何故この森へと足を踏み入れた 」
「何故って……気が付いたら森の中でした。としか……」
「気が付いたら? しかしお前がいた場所までは近くの街からでも人族の足で5日はかかる場所だぞ。 気を失った子供をそんな場所まで連れてくるというのは、流石に無理があるな」
「いや、運ばれたというより、落ちて来たってのが正しいです」
そうして、気付いたら落下中だったこと、歩いていたら大猪に襲われて助けられた事などをアレクシスに話した。
「なるほど……となると」
アレクシスはそう言うと、また詩を詠んだ。
今度は指輪をつけていたため、言っていることが分かったが、どうやら呪文のようだった。
「大気に散りし古の力よ、我が名の下に集いて我が目となり、耳となれ」
そう唱えると、アレクシスの目の色が金色に変わった。
ヤマトが思わず、おお!っと唸ると静かにしろと注意された。
そのまま、アレクシスは舐めるようにヤマトを見ると、なるほど。っと一人納得した様子だった。
「あの、どうしたんですか?」
「ヤマト、君は落ちて来たんだよな?」
「…そうか」
「何か、マズイ事でも?」
「あぁ、かなりまずいな。 まずは掟の事から教えよう」
そう言うと、アレクシスはヘッドに座って、
ヤマトにはイスに座るよう促した。
「ヤマトはもう気付いてるかも知れないが、我らエルフは女しか居ない」
「たしかに、この家に来るまでの間、エルフの男には会いませんでした。 でも仕事って事じゃないんですか?」
「いや、そもそもエルフには男は生まれないのだ。 しかし、我ら一族は続いている」
「たしかに……」
「その理由は、我らは婿を他種族から招くのだ。そして、その婿は招かれた村のエルフ全員の婿となる」
「……羨ましい話ですね」
思わず、エルフのハーレムを想像してそう返したヤマトだったが、アレクシスの次の一言で肝を冷す事となった。
「何をいう。 この村は200人のエルフがいる、そのエルフ達と毎日相手してみろ。
どんなに盛った男でも干からびて死ぬぞ」
「え、死ぬって大袈裟な」
「いや、エルフは行為の最中は男から魔力を吸い取ってしまう。 数人ならばまだしも、次々相手をされれば長くは保たん。 人族が嫌う者もいると言ったが、あれはヤマトを寝取ろうと狙っていただけだ」
「え……じゃあ、俺って……」
「あぁ、私と握手した事で君は我らの婿という事になった。 事情をもっと早く知っていれば良かったのだが……」
ヤマトは、途端に青ざめたのは言うまでも無かった。