プロローグ
学校の図書室の片隅に彼はいた。
この学校の図書室は規模が小さく、この生徒の他には誰もいない。
彼は生粋の日本人だ。
だが、顔全体は日本人ではあるが、そのパーツ一つ一つは西洋人を思わせる。
高い鼻と長いまつげがそのいい例だ。
このような表現をしたから見目麗しい美青年のような印象を受けるかもしれないが、
そこにさらにに日本人的な太眉に、厚めの唇を足してみて欲しい。
結果的に普通の顔である。
なぜ、こんな事を書いたのかと言うと、彼は高校の進学するまで虐められてからだ。
別段、彼の顔が気持ち悪い訳では無いのはもう記述したのだが、周りからはキモイとか、菌が移る、とか言われて避けられていた。
だからこそ、彼はほとんど人の来ないこの図書室に毎日のように来ていた。
今日も授業の終わりと共に来て本を読みふけっている。
友達が居ない訳では無かったが、家族以外の者と親しく話すなどはもう何年もしていなかったので、こうして一人で過ごす方が気が楽だったのだ。
だが、下校を促す放送が入ったことで彼は本を閉じることになった。
名残惜しそうに本を眺めると、トボトボと本棚へ戻して、図書室を後にした。
外を見ると既に暗くなり始めていて、カラスが不気味な声をあげていた。
彼はブレザーの下にセーターを着込んでマフラーと手袋を装着すると自転車置き場へと向う、手袋を着けたせいで使いづらい携帯を見ながら歩いていると不意に肩を震わせて立ち止まった。
(なんだ……今の……?)
辺りを見回すが、特に何かあるわけでもなく彼はまた歩き出そうとした。
しかし、彼を待っていたかのように地面が裂けた事によって、彼のその一歩はその裂け目の穴へと吸い込まれたのだった。
彼が穴の中へと落ち、闇の中へと消えると、裂けた地面ははじめから何もなかったかのように、静かに穴は閉じて行き最後には今までと変わらないアスファルトが見えるばかりだった。
ただ、彼が落ちる寸前に手放したケータイが地面を照らしていることだけが、彼が忽然と姿を消した事を教えていた。